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10話 赤髪の妖精

「ここよ。ちょっと狭いかもしれないけど我慢してね」


 案内されたのは三畳ほどの部屋だった。

 置いてあるのは布団一枚だけ。随分簡素なものだった。


「布団の干し方とかはわかるかしら?」

「いえ、すいません……家事は全然やったことなくて、教えていただけるとありがたいのですが」

「いいのよ、教えてあげる。私が、全部ね……」


 やはり舌なめずりをしながら恍惚な笑みを浮かべるアーロン。


 ──慣れろ、慣れるんだ、俺ならできる。


 俺はあえてそれを直視する。

 背中がぞわぞわするのを感じたが死にはしない。大丈夫だ。

 ……慣れるまでに一回ぐらいは吐くかもしれないと不安になるが。


「明日からまた仕事をしてもらうわ。今日は自由時間だから適当におやすみなさい。私はまだ仕事があるのでこれで失礼するけど、何かききたいことはあるかしら」

「いえ、とくになにも……」

「そう? もし何かあったらギルドの受付の場所……は分かるわよね。そこの受付嬢さんにアーロンさんをお願いします、と言ってくれたら飛んでいくわ」


 そう言いながら投げキッスをするアーロン。

 悪気は無いのは俺もなんとなく感じている。

 それだけに、本当に対応に困る人だった。


「分かりました。ありがとうございました」


 お辞儀をする俺に対して、またね、と言いながら扉を閉めるアーロン。

 同時に流れる沈黙。



「……ふぅ」



 つい、ため息が漏れる。

 肉体的にはそこまで疲れていないが、やはり精神的な疲労がすさまじい。

 そのまま布団の上に座り込み頭をとんとんと叩く。


「やべぇことになったな……」


 自由時間とは言うが何かやることがないとそれはそれで落ち着かない。

 俺は自分の部屋を見渡して状況を確認する。

 ここから俺が住む部屋なのだ。どういうものか調べておくべきだろう。


 俺は背伸びをしながら立ち上がると部屋の出口付近にある扉に手をかけてみた。

 ――浴室だ。トイレと風呂がある。

 壁も浴槽も木造でできているようだ。さすがにトイレは木造ではなかったが。

 洋式であることにどこかほっとする。ウォッシュレットがついてないが、まぁ贅沢はいえないだろう。


 それにしてもゲームの世界は中世を連想させるファンタジー世界だったがこういうところはしっかりしているらしい。下水道とかこの時代にあるものなのだろうか。

 まぁそこらへんは深く考察しても俺の知っている情報ではわかるはずもないので置いておく。

 確かに狭いが人一人が生活する上では特に申し分のない部屋だ。洗面台も近くにある。

 この世界には歯ブラシもあるのだろうか。そんな疑問を感じながら俺は近くの鏡に目をやった。


「……え?」


 そこに映るのは予想外の顔だった。鏡に映るその顔を、俺は知っている。

 だがいつも見慣れている自分の顔とは違った。


「これも、ゲーム通りなのか……」


 アイネやアーロンがイケメンだと言ったことを思い出す。

 ただの社交辞令かと思っていたが確かにイケメンだ。ゲームをはじめる時のキャラメイクでそう設定したのだからプレイ中にはよく見た顔なのだが。

 見た感じ、年齢は18か19か。俺の実年齢よりは若いことは確かだ。身長も180センチ弱はあるだろう。


 ──そういえばスイも初めて会ったときそこまで年は離れていない、なんてことを言っていたっけ……


「うーん、確かに改めて見るとイケメンだな……リアルで見るとこんな感じなのか……」


 俺はそう呟きながら鏡をじっと見つめる。


 ──日本でもこういう姿で生まれてみたかったなぁ。


 そんな事を考えていた時だった。


「えぇ……そういうこと自分で言っちゃう? ナルシストだねぇ」


 唐突に聞こえてきた声に俺は身を震わせる。

 女の声だ。急いであたりを見渡すが人の姿は確認できない。


「そんなキョロキョロしないでよ。ここだよー」


 声のきこえてくる方向に視線を移す。

 その瞬間、俺は思わず息をのむ。


「っ!?」


 そこには俺の手のひらぐらいの人間が浴槽を椅子のように使っていた。

 ……いや、正確には人間ではない。

 背中からは半透明の金色の羽が生えている。

 これは、妖精……?


「……なんだ、お前?」


 膝をつき彼女と目線を合わす。

 フィギュアとかで見慣れたサイズ感からかそこまで混乱することは無かった。

 それにゲームでも妖精というものが存在していることはきいたことがある。


「ふふふ、いきなりごめんね。ボクはトワ。見ての通り妖精だよ」


 ブイサインをつくりながらほほ笑む彼女。

 肩が露出したワンピースにブーツ。赤い髪をポニーテールにした妖精。

 普通の人間の大きさなら15ぐらいの見た目に見える。見た目は元気なスポーツ少女といったところで、健康的な可愛らしさを感じた。

 美少女フィギュアとかだったら結構売れそうだ。


「……何の用ですか」


 だが、唐突にやってきた客人に俺は不機嫌になりトワのことをじーっと見つめる。

 一応ここは自分のプライベートな空間になるはずなのだ。


「んもぅ、急にやってきたのは悪かったけど。ちょっと顔が怖いよ。せっかくの『イケメン』が台無しですよ~?」


 ニヤニヤしながらイケメンという単語を強調するトワ。

 若干イラッときたものの、すぐに冷静になる。

 露骨な煽りにあえて乗る程、子供ではないつもりだ。


「むぅ、からかい甲斐がないなぁ。せっかく人間とお話しできると思ったのに、一発目がこれなんてちょっと悲しいよボク」

「いや、知らないですよ。誰ですか貴方」

「だから名乗ったじゃない。ボクはトワ」

「……そうじゃなくて」


 なんで君はここにいるんだ、と呆れ顔で付け足す。

 それをきいてトワはわざとらしく手をぽんと叩いた。


「あー、それね。やっぱ気になるよね。こっちの世界に飛ばされてからまだ時間も経ってないし大変だろうから」


 足をバタバタとゆらしながらアハハと笑うトワ。


 ──って、まてよ。今、なんて言った?

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