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104話 召喚魔法

 スイ、アイネと別れ、手渡された鍵の番号の部屋に入る。

質素な一人部屋ではあったが俺がトーラで暮らしていた時の部屋よりも広い。


「さて、と……」


 とりあえずベッドに腰掛ける。そのままぼーっとしているとトワが声をかけてきた。


「どしたの? 明日は早いんでしょう。もう寝る準備した方がいいんじゃない?」


 おそらく風呂に繋がっていると思われる扉を指さすトワ。

 その言葉を無視する訳ではないが俺は手に持った袋の中を見た。先ほどアイネが買ってくれた召喚クリスタルである。


「でも試したいことがあるんだよ。ほら」


 中身をしっかりと確認した後、トワにそれを見せる。


「召喚クリスタル? どうするの、それ」

「召喚魔法を試してみたいんだがここだとな。それでさ……」

「あぁ、ボクの出番ってこと?」


 俺が言いたい事を察してくれたらしい。少し嬉しそうに胸を張っている。


「えと……人目がつかないところがいいよね?」

「あぁ。全然目立たないところがいいな。それでいて広い所」

「じゃあとりあえずファルルドの森にでも行ってみようか。ほら、あの……」


 トワが上手く言葉にできないと言いたげに眉をひそませる。

 だが、流石に俺もそこまで察しは悪くない。


「分かってるよ。少しまってくれ」


 あの場所はかなり暗かったはずだ。安全ではあろうが何の準備も無しにいくのは気が引ける。そこで周囲を見渡してみると部屋に置いてある机の上に一個だけカンテラが置いてあった。

 道中、スイが使っていたのとは少し形が違うが使い方は簡単だ。カンテラの上の方にある突起に描かれた魔法陣に触れればいい。


「よし、頼む」


 カンテラの中から、ぼうっと淡い光が放たれるのを確認する。

 これならば周囲が全く見えないということはなさそうだ。


「はーい」


 ニカッと笑ってトワが俺の顔の前へと移動する。すると白い光が俺の視界を埋め尽くした。




 †




「よしっ……」


 視界を埋め尽くした光が消える。円の形に綺麗にとりのぞかれた雑草に、中央付近にあるたき火の跡。もはや見慣れた光景だ。かなり暗いのが気になるが月と星々の光と手に持ったカンテラのおかげで全く周囲が見えない訳ではない。


「ふふっ、結構使い勝手いい場所だよね。ここ」


 トワはそう言いながら背中で手を組みながら俺の方にふり返ってきた。

 その自慢げな顔に俺は首を縦にふる。


「そうだな。ありがとう、トワ」

「なになにー? くすぐったいなぁ」


 少し顔を赤くしながら頬をかくトワ。だが彼女の言葉通り、この場所はかなり使い勝手がいい。人目につかず、それなりの広さがあり、安全の保障もある。

 それを利用できるのはトワの力が必要不可欠だ。このぐらいなら機嫌をとらせてあげてもいいだろう。


「ほら、召喚魔法やるんでしょう? うまくいくといいね」


 だが彼女にとってそれは気恥ずかしい気遣いだったらしい。

 トワは、はぐらかすように俺の持っている袋の近くまで飛んできた。


「あぁ。そうだな。試してみよう」


 とりあえず地面に召喚クリスタルを並べてみる。

 アイネや店主のやりとりを横でみていた時には気づかなかったが、こうしてみると大きさに差があった。四つは普通の大きさだが残りの三つはそれのふた回り程大きい。

 ゲームでそんな設定は無かったが、もしかすると大きなクリスタルの方が強い召喚獣を呼び寄せられるのではないだろうか。

 だとしたらお楽しみは後にとっておきたい。俺は小さなクリスタルの一つに視線を移した。


「ソウルサモン」


 ゲームでは、召喚術師のレベルはカンストさせている。しかし自力でのレベリングが難しいせいでそこまで中心的に扱ったことが無い。そのため戦闘で使ったことが殆ど無くエフェクトがどのようなものか思い出すことができなかった。

 そこで召喚獣を呼び出す時のスキルを声に出して言ってみる。すると魔法を使う時のように体の中から風が吹き荒れるような感覚を身に覚えた。

 それを右腕に収束させるような意識で召喚クリスタルに触れる。


「おっ……?」


 俺が召喚クリスタルに触れると、そのクリスタルから魔法陣が出現した。

 どうやら成功したらしい。やはり黒のクリスタルは不良品なんてことは無いようだ。

 召喚獣が出現することを察知して俺は他のクリスタルを袋につめながら魔法陣の外に出る。

 すると──


「わぁぁ! すっごく綺麗っ!」


 トワが感嘆のため息をついた。

 魔法陣の中心部分から光と共に現れたそれは、一回だけその首を震わせる。


「これは──ディーヴァペガサスかっ!」


 反射的に叫ぶような声が出てしまった。

 空に浮かぶ星々の光を一点に集めたかのような輝かしい白銀の体毛。その名の通り、神々しい金色の紋様が体に浮かび上がっており、左右には大きな翼。ファンタジーの代表格ともいえるその馬はゆっくりと俺のもとへと近寄ってくる。

 ディーヴァペガサスのレベルは170。ゲームでは召喚術師の最終武器と呼ばれる程の強さとレア度を誇る。

 普通の魔物であれば敵として出てきてそれを倒し、ソウルをクリスタルの中に封印することで召喚獣として使役することができる。

 だがペガサスは邪悪な心を持たない神獣だ。敵として出てくることは無く、複数の魔物の魂──ソウルを融合、浄化しそのソウルが手に入る。しかもこのディーヴァペガサスは通常のペガサスよりもさらに入手が難しい特殊な召喚獣だ。少なくともゲームでは。

 

「凄いじゃん。この子が君の召喚獣第一号かぁ」

「あぁ……まさか封印されていたソウルがペガサス――しかもディーヴァだったなんて……」


 一メートル程離れた場所でお辞儀をするように頭を下げるペガサス。

 どうも俺を主として認識しているようだ。そのあまりに幻想的で美しい姿に俺は少しの間、茫然としてしまう。


「まだ他にもあるんでしょう? 楽しみだね」


 そんな俺の意識をトワが引っ張り起こしてきた。

 彼女の言うとおり他にもクリスタルは六つもある。


「おうっ、いくぞ──」


 一度、ペガサスが召喚される様子を見たおかげで魔法名を声に出さなくても魔力が固まっていくのをイメージできた。

 三つのクリスタルを袋から取り出し同じように召喚獣を呼び寄せる。


「おっ、おぉー!?」


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