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グラウカ  作者: 日下アラタ
STORY:04
24/239

02・イベントと生徒会長

 東京都月白げっぱく区。

 インクルシオ東京本部の2階の小会議室に、4人の人物が集まっていた。

 そこに、南班に所属する特別対策官の童子将也がクリーム色のドアを開けて入室する。

 午後1時半の集合時間に15分遅刻した童子は、「遅なってもうてすみません」と謝罪して、コの字型に配置された長机の椅子を引いた。

「いいって。木賊とくさ区の殺人事件の捜査に出てたんだろ? 昼メシはちゃんと食ったのか?」

 童子が着席すると、北班に所属する特別対策官の時任直輝ときとうなおきが顔を向けて言う。

 向かいの席には西班に所属する特別対策官の真伏隼人まぶせはやとがおり、不機嫌そうに目を閉じていた。

「いや。メシはまだやけど、このまま始めようや。皆も時間がないやろ」

「ごめんね。私はこの後すぐに捜査だから、そうしてもらえると助かるわ」

 童子の斜向はすむかいに座る芦花詩織あしはなしおりが、栗色のボブヘアを揺らして言う。

 芦花は22歳で、東班に所属する特別対策官であった。

「悪いねぇ、童子ぃ。俺もこれから寝るからさぁ」

 中央班に所属する影下一平かげしたいっぺいが、目の下に浮かんだくまを手でこする。

 影下は23歳で、目元のくまと猫背が特徴の特別対策官であった。

「全然構へんですよ。そういえば、影下さんは久しぶりに会いますね」

「そうだねぇ。ここ最近は、ずっと立川支部の捜査応援に行ってたからさぁ。やっと向こうのカタがついて、さっき戻って来たところなんだよぉ」

 童子が笑顔を向け、影下がのんびりとした口調で答える。

 影下は中央班に籍を置いているが、通常の任務に加えて、他の拠点の捜査応援や潜入捜査等、特殊な活動を幅広く行なっていた。

「無駄話はそこまでにしろ。時間が勿体ない」

 小会議室につどった特別対策官たちの最年長である真伏が、厳しい声音で言う。

 時任が「そうですね。じゃあ、話を始めますか」とうなずいた。

「えーと。来週にある、木賊とくさ第一高校の特別授業の件ですよね。広報からのメールによると、参加人員の返答期限が今日までだそうです。なんか面白そうだから、俺は行きます!」

「ふふ。時任君らしい答えね。捜査の方は大丈夫なの?」

 芦花がくすくすと笑って言う。

「はい! 1〜2時間くらいなら、何とか大丈夫っス!」

 時任が親指を立てて返し、影下が「俺はぁ」と口を開いた。

「残念だけどぉ。バイトのシフトが入っちゃったから、パスだなぁ」

 影下の言葉に、童子が「え? バイトですか?」と驚いて訊く。

「うん。潜入捜査って言うか、反人間組織に関する情報収集の一環なんだけどねぇ。埼玉のハンバーガーショップでバイトしてんのよぉ。だから、この3週間は立川支部の応援と埼玉のバイトの行き来で、さすがに疲れたなぁ」

「そうやったんですか。影下さんって、ほんまに色んな任務をこなしてますね」

 影下があくびを噛み殺して答え、童子が感心して言った。

 黒のツナギ服を着た芦花が「童子君は?」と訊ねる。

「あ。俺は行きます。うちの高校生らと約束しとるんで……」

 時任が童子を見やった。

「あいつらに、来て欲しいって言われたのか?」

「せや」

「はは。お前も多忙を極めてるだろうに、甘いなぁ」

 時任がからかうように笑い、童子は「やかましわ」と小声で言い返す。

「童子君は、「童子班」の4人の指導担当だものね。私も藤丸君と湯本君の学校に行ってみたいから、時間を作って参加するわ」

 そう言って、芦花は東班に所属する藤丸遼ふじまるりょう湯本広大ゆもとこうだいを思い浮かべて、にこりと微笑んだ。

 真伏は「興味がない」とすげなく断り、木賊とくさ第一高校が開催する『安全を考えるイベント』には、童子、時任、芦花の3名の特別対策官が参加することになった。


 午後3時。東京都木賊とくさ区。

 木賊とくさ第一高校の1年A組の教室に、快活な声が響いた。

「インクルシオ東京本部の広報から連絡が来たぞ! 来週の『安全を考えるイベント』に、特別対策官が3人も来てくれるって!」

 教室の引き戸を勢いよく開いたのは、木賊とくさ第一高校の生徒会長を務める、3年生の滝口元気たきぐちげんきだった。

 滝口は183センチの長身で、右のこめかみに3つのホクロがある。

 性格は大らかで責任感が強く、人望とリーダーシップに富む生徒であった。

 下校の準備をしていた鷹村哲と雨瀬眞白が振り向き、学生鞄を肩に下げた塩田渉が「ホントっすか!」と笑顔を浮かべる。

「童子さんには俺らが頼んでおいたけど、他の二人は誰だろう?」

「一人は芦花さんじゃない? 藤丸たちと同じ東班だし」

 鷹村が顎に手を当てて言い、チェック柄のスカートを履いた最上七葉が返した。

 滝口は手にしたプリントをぶんぶんと振って、「その3人は童子将也特別対策官、時任直輝特別対策官、芦花詩織特別対策官だよ!」と嬉々として答えた。

「あー。時任さんかー。北班の捜査でいつも忙しいのに、大丈夫かな?」

 鷹村が納得して言う。

 塩田が「きっと、時任さんはノリで決めたんだぜ」と笑った。

 滝口は興奮冷めやらぬといった表情で新人対策官の4人を見やった。

「いやぁー。君たちや1年C組の藤丸君たちがインクルシオ対策官だから、ダメ元で参加依頼を送ってみたけど、最高の結果になったよ。これで、俺たち生徒会が企画したイベントがより良いものになる。……って、実は、俺が特別対策官の大ファンだから余計に嬉しいんだけどね」

「滝口先輩! わかりますよ! 特別対策官って全国で11人しかいないチョー精鋭だし、めちゃくちゃカッコイイっすもんね!」

「おお! わかってくれるか、塩田君! そうそう、そうなんだよー!」

 塩田が同意し、滝口が一層盛り上がる。

 その嬉しそうな様子に、鷹村、雨瀬、最上が笑みを浮かべた。

「さーて! そうと決まったら、イベントの準備を完璧にしなきゃな! 頑張るぜ!」

「是非、頑張って下さい。俺たちも、当日を楽しみにしています」

 鷹村が激励し、高校生3人が笑顔でうなずく。

 滝口は「おう! 任せとけ!」と胸を叩いて、バタバタと教室を出ていった。


 午後7時。東京都月白げっぱく区。

 黒のツナギ服を纏った「童子班」の面々は、インクルシオ東京本部の隣に建つインクルシオ寮の食堂でやや早めの夕食を済ませて、エントランスを出た。

 この日は午後9時まで巡回任務の為、5人は駐車場に停めたジープに乗り込む。

 腰にブレードとサバイバルナイフを装備した鷹村が、後部座席に座って訊いた。

「童子さん。この後は、木賊とくさ区の巡回ですよね?」

 童子が運転席でエンジンキーを回して、「そうや」と答える。

 童子はバックミラーに映る高校生たちに言った。

「せやけど、その前に情報のおさらいをするで。最近、木賊とくさ区では、『マグナ・イラ』という反人間組織が何件かの殺人事件を起こしとる。『マグナ・イラ』は樽井竜二たるいりゅうじを中心とした少人数のグループや。樽井は現在20歳。もともとはグラウカのチンピラ仲間同士で窃盗なんかをやっとったが、ここ2年ほどは殺人の件数がぐんと増えとる」

 最上が手を上げて発言する。

「『マグナ・イラ』って、確かリーダーが正体不明なんですよね?」

「せや。樽井はリーダーやなくて、あくまで構成員の一人や。『マグナ・イラ』の構成員はリーダーを含めて6人で、そのうちの5人の氏名や人相は割れとるが、肝心のリーダーについては何もわかってへん」

「名前すら判明していない反人間組織のリーダーって、珍しくね?」

 塩田が言い、雨瀬が「うん」と返す。

 鷹村が「なんか、ちょっと不気味だな」と呟いた。

 童子はジープのフロントガラスに視線を移して言った。

「『マグナ・イラ』はリーダーだけやなくて拠点も不明やけど、木賊とくさ区を中心に活動しとるのは間違いない。奴らの尻尾を掴むヒントは、必ず木賊とくさ区のどこかにあるはずや。巡回の他にも、聞き込みや防犯カメラのチェックを徹底的にやっていくで」

 童子の指示に、高校生たちが「はい!」と返事をする。

 ほどなくして、黒のジープはインクルシオ東京本部の正門を抜け、夜の街に滑り出した。


 ──そして、週が明け、木賊とくさ第一高校が開催する『安全を考えるイベント』の当日を迎えた。




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