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決着!

 誰何するよりも早く、ベルの腰から靄のような光の波紋が広がる。静かに広がったはずなのに、波紋を受けたフリークが吹き飛ばされた。

 驚きは続く。

 光の波紋がさらに強くなり、やがて腰のポーチから何かが飛び出してくる。

 青白い光の軌跡を残しながら、それはベルの周囲を飛び回る。


「まさか……」

『そのまさかだよ』


 光の軌跡はフリークの前で止まり、姿を見せた。

 きらきらと光る蒼金の髪に、白い肌と人形のように整った顔。翡翠の瞳は大きくて、宝石のようだ。

 だが、何よりも虹色の飴細工みたいな妖精の羽根が美しい。


 ──これが、精霊。


 余裕なんて一切ない状況のはずなのに、ベルは魅入られてしまう。

 ぽやんと──見た目は無表情だが──見つめていると、精霊は恥ずかしそうに身をくねらせてからベルの頭に着地した。


『そんなに見つめるでない! 恥ずかしい……だろうが!』

「え、あ、ごめんなさい」

『ふん、わかればいいのじゃ。(あちきの魅力にやられてしまう主人も可愛いと思うが……)ごほん! とにかく! あちきの名前はアイシクル。氷結と情熱の聖霊ペルソナだよ』


 空気が硬直した。

 ベルは石化したように動けなくなって、理解が追い付かない。というか、思考が停止している。


 ──聖霊ペルソナ? 精霊じゃなくて?


 きょとんと首を傾げると、アイシクルはけらけらと笑いながら飛び回る。

 ベルの反応がとても面白かったらしい。


『そう。聖霊ペルソナだ。精霊の中でも極一部の上位存在だけが到達できるとされる、精霊を超えた霊魂的存在』


 分かりやすくいえば、神の領域の存在だ。


『そのあちきと契約を結んだのは、ご主人、あんたでしょ』

「……え?」

『精霊の核を完璧な状態で取り出した上で新しい変化を組み込ませ、魂を変性。その上でエルフからの膨大な魔力と、ご主人の心の意思。それらが混じって、あちきは聖霊ペルソナに至ったんだ』


 自分の胸に手をあてて、アイシクルは嬉しそうに微笑む。


『ご主人にはその器がある。あちきがそう判断したから契約した。そして今、あちきの能力を活かせる場面にある』

「それは……」


 その通りだった。

 ベルたちに立ち塞がる、大罪の悪魔。奴を仕留めるには、どうしても精霊の力がいる。

 その上位存在である聖霊ペルソナの力を借りられるのであれば、完璧だ。

 負ける理由が見当たらない。


「『また何をしでかした、ベル!』」


 怒鳴り声をちらしながら、フリークが姿を見せる。怒りが増幅したのか、さらに禍々しく、悪魔らしい姿に変貌していた。

 強力な憎悪が伝わってくる。

 フリークの核となっている、店主イーストがさらに憎しみを募らせているのだ。フリークに完全に洗脳されたせいだ。

 どこまでも際限なく恨み続けるその魂は、悲鳴をあげているようでもあった。


「『素直に殺されたらどうだ! 我が息子を、最愛の息子を、その手にかけながらのうのうと生きるなんて許されると思ってるのかぁああああああああああああ!!』」

「自分はそんなこと……」

「『問答無用! 罪人の口から放たれる言葉などすべてまやかし! 嘘! 耳を傾ける価値などあるはずもなし!』」


 ベルが否定しようとするのを、大声で強引に黙らせてから、フリークはさらに闇を増長させて周囲に瘴気を漂わせる。

 あの時とは段違いの濃度だ。

 吸い続ければ、呼吸がしづらくなるどころか、多臓器不全を起こして死ぬ。


『無駄だね』


 ベルの懸念を吸い上げたのか、アイシクルはふうと手を添えながら息を吹いて周囲を浄化する。

 フリークが明確に驚きながらこちらを見てくる。


「『その力は……精霊……!?』」

『大罪の悪魔が、その程度も感知できないとは。所詮は外道の精霊よな』

「『貴様は…………!』」

『あちきが目覚めたからには、もうあんたは終わりだ。覚悟するんだね!』


 動揺するフリークに指をつきつけてから、アイシクルはベルの持っていた包丁に宿る。

 包丁が、美しい光を放つ。

 スカイブルーのようで、深みのある藍のようでいて、輝いていて。波のような模様がきらびやかに光輝いていた。

 まるで様々な色を見せる海のようだ。


「フリーク。お前のやったことは、全部いけないことだ」


 ベルは包丁をしっかり構えつつ、フリークを真正面からにらみつける。

 気圧されたのか、フリークが怯む。


「イーストさんの思いを利用して、悪意に染め上げて、いいように操って狂わせて、悪魔の温床なんかにして」


 一歩、踏み出す。風圧が生まれた。


「プリムの苦しい思いを増長させて、いじくって、暴走させて、のっとって!」


 闘気。

 ベルの全身から、海の色のオーラが、まるで蒸気のように燃えあがる。


「そして、リアさんや、ギルドを陥れるようなことをして、街を襲撃して、いろんな人を怪我させて! こんなムチャクチャにして!」


 ベルは怒っていた。


「許せない! フリーク! お前の野望なんて、全部打ち砕いてやる!」


 ベルの背中に、青く輝く翼が生まれた。

 豪風を起こしながら、ベルの体が浮遊する。


「『打ち砕く? この大罪の悪魔を倒すっていうのか? 無駄だ! 無理だ! 僕はもう最強の悪魔なんだ。この世界に新たな戦争と混沌をもたらす存在なんだよ!』」

「それも全部、打ち砕く!! お前のせいで狂わされた人を全員、助けて!」

「『絵空事を!』」

「――自分、不器用なもんで!」


 どん、と、ベルが加速する。

 一瞬で間合いが詰まり、ベルは包丁を繰り出す。リアから習った、基礎の型だ。

 毎日毎日、繰り返してきた動きはもうベルにしみこんでいる。

 それが、凄まじい速度と膂力となって、襲い掛かる。


「『ぐげっ!』」


 フリークには、回避も迎撃もする暇はなかった。

 横殴りの一撃を、まともに食らう。

 片腕が斬り飛ばされ、胴体も深々と抉っていく。まるで豆腐を切るかのような手ごたえのなさに、ベルが驚く。


「『キサマっ!』」

「この聖霊ペルソナが宿った包丁には、浄化の力がある。だから――」


 だが、フリークの唸り声を聴いてすぐに我に返り、ベルは包丁をふるい、何度も何度もフリークを切り刻んでいく。

 スキルを使わなかったのは、それだけで肉体を消滅させてしまう可能性があったからだ。今のベルは、恐ろしいくらい強化されている。


「その身体から、出ていけ――――っ!!」


 ベルの咆哮に聖霊ペルソナの力が応える。

 一瞬の光。

 放たれた突きを、フリークがカンで回避した瞬間、刃から青白い光がフリークを突き刺し、その禍禍しい身体からイーストとフリークを分離させ、さらにそこから大罪の悪魔――マモンを追い出す!


 空震。


 空がぼやけて見える衝撃波が青白い光を伴って解放され、マモン――夜よりも黒い闇が靄となってさらに上空へ逃げる。


『ぐぎぃっ!』

「あんたには恨みも何もないけど」


 そのマモンに、ベルが接近する。

 闇は無数の針に変化してベルを貫通しようと襲うが、包丁の一振りで斬り落とされる。


『っぐうっ!?』


 ベルは錐もみ回転しながら、闇に肉薄する。

 包丁が、ひときわに明るく輝いた。


「ここで消えろっ! もう、この世界に大陸戦争なんていらないんだっ!! 《屠殺》!」


 ベルが加速する。

 光と化したベルは、すれ違いざまに闇を切り裂き、さらに振り向きながらまた薙ぐ。その軌跡は六芒星を辿り、その中心に刃を突き付けた。

 瞬間。


 ――ガカッ!!


 雷でも落ちたかのような音と光。

 まさに光の奔流が闇を飲み込み、そして消し飛ばす。断末魔さえなかった。

 光が消え、夜空が戻ってくる。

 合わせて、上空の花火もどんどんと小さくなっていった。マモンが召喚し続けるために使っていた黒い穴が消えたからだ。


「くそっ……! せっかくの悪魔をっ!」


 ベルの真下で、フリークが毒づく。

 一瞬にして、ベルはそのフリークの真ん前に着地した。光と風圧で、フリークをよろめかせる。


「……フリーク。あんたには、罪を償ってもらう」

「罪? 僕が? はっ、笑わせるね! 僕は捕まらない。また悪魔を召喚すれば……」

「もう、そんなことはさせない」


 ベルがすり抜ける。

 たったそれだけで、フリークの体から淡い靄があふれ出ていく。

 それは、魔力を集う根源。


「……キサマ、何をしたっ!?」

聖霊ペルソナの力で、魔法を使えないようにした」

「なんだと……!?」

「悔いて罪を償え。それと」


 ベルは包丁を収めてから、拳を握る。


「みんなを危険な目に遭わせたこと、ずっと後悔しろっ!!!!!!」


 凄まじい勢いの、ストレートだった。

 ごしゃあ、と砕ける音を共に、フリークの顔面がへしゃげる。


「ぴぎゃあああああああああああ――――っ!」


 フリークは、血を撒きながらぶっ飛んだ。



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新連載はじめました! フルコメディ魔法少女モノです! ぜひ読んでお楽しみください!
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