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アルスターと目覚め

 ややくたびれた感じの白銀の髪に、だらしない無精ひげ。けだるそうな顔つきに、くたくたの灰色のローブ。

 間違いない。

 ベルの師匠――アルスターだ。


 あの日、忽然と姿を消してから、初めての再開だった。


 どうしたらいいか分からず戸惑っていると、アルスターはくすりと笑った。

 空気のように希薄なのに、どうしてか目をそらせない圧倒的な存在感。

 これこそが、アルスターだった。


「どうしてここに……!」

「アドミオールからの依頼をこなした帰りだよ。何か楽しそうだからやってきたんだけど、まさかお前がいるとはな」


 にたにたと、人をくったような笑みでアルスターはいうと、ベルの肩をぽんぽんと叩いた。

 ちょっと痛い。

 ベルは抗議めいた視線を送るが、アルスターに気にする様子はない。


「師匠……」

「積もる話は後だろう? なるほど、大罪の悪魔か。随分とまぁ時代遅れ(ロートル)なものを呼び起こしたもんだ」

「『なんだと……?』」

「あ、ごめん話に入ってこないでくれる? 今君はお呼びじゃないし、これからも呼ばないから」


 露骨な反応を示したフリークに、アルスターは手をめんどくさそうに振りながらやっつける。

 とんでもない嫌みのこもった挑発行為だが、アルスターからすれば普通である。


「ベル。久々に師弟コンビといこうか。あの空を埋め尽くす大群は僕が引き受けよう」


 あの大群を? なんて疑問はでてこない。

 アルスターならなんとかする。ベルは確信を持てていた。実際、さっき薙ぎ払った。


「あの時代遅れ(ロートル)はお前が倒せ、ベル」

「師匠……」

「やり方は覚えているね?」


 有無をいわせない確認に、ベルは頷く。


「けど、そのためには……必要なものが」

「もうすぐ揃うだろう。それまで時間稼ぎすればいいだけの話じゃないか。とってもシンプルだ。うーん、僕好み」


 気持ち良さそうに深呼吸して、アルスターは上空を再び睨んだ。


「それじゃあ、いこうか」

「相変わらず、自分の意思は無視ですか」

「必要ないだろう? 君はすでにやる気だ」

「……否定しません」


 そう。

 ベルには活力が湧いていた。


「それじゃあ、また後で」


 ふわりと、アルスターは空に浮かび上がると、いきなり弾丸のように加速した。

 その直線上にはフリークがいたが、まったく気にすることなく撥ね飛ばした。


「『ぐはっ!』」

「ちょっと前方不注意なんじゃないの!」

「『それは貴様だろうが!』」

「はいー? なーんで僕がお前なんかを認識して進路を考えてやらないといけないのさ。自分のことをどれだけ偉いと勘違いしてるの。ちょっと鏡っていうか色々と見直してきたら?」


 煽りが軽妙だ。

 ベルは懐かしさに微笑んでしまう。チャコもクチガ立つが、やはりアルスターの弁舌は遥かに上回ってくる。


「あの人が……おにいちゃんの師匠?」

「うん。規格外」

「それはすぐに認識できた」


 チャコは目を細くさせながらため息をつく。そこへ、ギルドマスターとリアがやってきた。


「おいベル、今の御仁は……」

「まさかも何も、アルスター様ですよね」


 あのギルドマスターが様付けである。

 それに足る人物であると理解するけれど、ベルは違和感を覚えていた。

 とはいえ、いちいち口には出さないので、黙って頷く。

 息を飲む二人に、ベルは口を開く。


「師匠が悪魔の大群を引き受けてくれます。それと、自分たちであの大罪の悪魔をどうにかしろ、と」

「大罪の悪魔って……あいつはマモンだろ?」

「悪魔の中でも、防御力が高い個体です。現に、我々の攻撃がほとんど通用しない」


 リアとギルドマスターが唸る。

 深刻な表情で相談をはじめる二人に、ベルはまた話しかける。


「……条件さえ揃えば、倒せます」


 一瞬だけ、沈黙が落ちた。

 本当に虚をつかれたような顔でリアとギルドマスターはベルを見てくる。

 なぜか圧を感じて、ベルは二歩くらい下がるが、チャコに押し留められた。


「おいマジか、ベル! 相手はあの大罪の悪魔だぞ!」

「殺す方法を知っている、と?」


 ベルは圧倒されつつも頷く。


「師匠に、習いましたから」

「アルスター様ってなにものなんでしょうね、本当に……」


 神か何かじゃないだろうかとベルは本気で思っているが、口にはしない。


「とはいえ、仕留められるんだな? その条件ってなんだ?」

「精霊です」


 ベルは腰巻きの中にいれていた精霊の宝玉ともいえる珠を取り出す。

 びっしりと亀裂が走っていて、拍動している。


「精霊の覚醒、か……」

「おい、後どれくらい時間がいるんだ?」

「正確ではないですけど……たぶん、もうすぐ。後は精霊の気分とかによりますからね」


 ギルドマスターは難しい表情で答えつつ、魔力を高めていく。

 リアも鼻を鳴らしてからため息をついて、大剣を肩に担いだ。

 上空ではひっきりなしに花火のような爆発が立て続けに起こっている。アルスターが戦闘をはじめているのだ。


「ま、それまで時間稼ぎってこったな」

「チャコも協力する!」

「おーおー、そうだな。こりゃ総力戦になるからな。少しでも数はいた方がいい」

「じゃあ……俺も」


 低い唸りにも似た声で、瓦礫を押し退けながら姿を見せたのは、怒りに全身を獣化させつつあるブランだった。

 かなりの怪我を負っていたはずだが、もうほぼ完治している。獣人の再生能力だ。

 ブランはプリムをお姫様抱っこしながら、獰猛な牙を見せつつ空に浮かぶフリークを睨み付けていた。


「ブラン! お前……」

「プリムを……俺のプリムを……こんなになるまで追い込んだあいつを……許せない」


 涙を、血涙を流しながら、ブランは怒りを露にする。


「その意気込みやよし。けど、連携は忘れるなよ」

「もちろん!」


 リアの念押しに、ブランは頷く。


「『話し合いは終わったかい? 雑魚が何匹集まったところで意味がないってこと、その身に刻み込んでやろう!』」


 吠えながら、フリークは全身から闇を放ち、いくつもの球体を展開、一気に投げつけてくる!

 一瞬のアイコンタクトで、全員が散開する。

 ベルはチャコを抱き締めつつ左へ跳び、闇の球体を回避。


 ばきばきと不自然に地面が抉れていくのを見ながら、ベルはフリークを睨む。


 フリークは上空。

 前衛はブラン、ベル、チャコ、リア。後衛はギルドマスター。編成としては偏っている。うまく立ち回らないといけないだろう。


「私とリアが落とします! ブラン、ベル、回り込んで! チャコちゃんは援護!」


 ギルドマスターが鋭く指示を出していく。

 誰も文句をいわず、てきぱきと動いた。


「『死ね!』」

閃光烈穿刺プリズムランス!!」


 フリークが攻撃を仕掛けるより早く、ギルドマスターが魔法を放つ!

 次々と閃光が穿ち、全身に光の槍で貫通されながらフリークがバランスを崩す。そこにリアの落雷が決定打となって、フリークは撃墜された。

 そこにベルとブランが襲い掛かる!

 すさまじい勢いで肉薄し、ブランは地面に叩きつけられたばかりのフリークの後頭部をひっつかむと、荒々しく地面にめりこませる。


「『ぐあっ!』」

「グルガアアアアアアアアアっ!!」


 怒りの咆哮を吐き出したまま、ブランはフリークの脇腹を蹴り飛ばしてベルへ送る。

 ベルはすでに包丁を構えていた。


「《微塵切り》!」


 スキルが発動する刹那、フリークが超人的な反応を見せて回避、片腕だけ消し飛ばされるだけに終わる。

 それだけでなく、反撃の構えまであった。

 素早くチャコが躍り出る。


「《狐火》っ!」


 焔がフリークの顔面で弾け、たまらずフリークはのけぞった。そこへリアが背後から大剣を叩き付けて地面に沈めた。


「『無駄だと』」


 生肉の引きちぎれるような音を立てて、フリークは腕を再生させる。更に反対の手でリアの大剣の追撃を受け止め、弾いた。

 カバーするようにブランが牙を剥いて文字通り飛びかかるが、再生の終えた腕で斬り飛ばされる!


「『いった!』」

「ぎゃんっ!」

「ブラン!」

「治癒は私が!」


 血を撒き散らしながら地面を転がるブランを受け止め、ギルドマスターは懐から薬瓶を取り出した。

 瞬間、フリークの放った衝撃波がギルドマスターを吹き飛ばす!


「『雑魚が何匹集まったところで!!』」

 

 稲妻を纏ったまま、リアが低い姿勢で斬りかかるのを、フリークは大剣ごと踏み潰して阻止し、稲妻を腕のひとふりだけでかき消す。

 追撃とばかりにもう一度腕をふるい、放たれた衝撃波でチャコとベルも弾かれた。

 とてつもなくデカい拳で殴られたかのような衝撃だ。


「かはっ……!」


 地面をなんどももんどりうって、ベルはようやく止まる。


「『大罪の悪魔をなめるなよ! 死ね!』」


 フリークの宣言。充満する闇と瘴気。

 本能が危険をしらせる。


「ぐ…………」

『……まったく。せっかくの目覚めだというにに、こう臭いとたまったもんじゃないね』


 その声は、ベルの腰からやってきた。




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新連載はじめました! フルコメディ魔法少女モノです! ぜひ読んでお楽しみください!
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