表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/30

憎悪の増幅

「まさか、スタンピードか!」

「いえ、どうも周辺の魔物がこぞって襲ってきているようです!」

「どういうことだ……? くそ、すぐに緊急クエストを出せ! それと周辺の街にも援護を要請! 出し惜しみすんな、すぐにやれ!」

「は、はいっ!」


 檄を飛ばされ、職員は慌てて部屋を後にする。

 リアは足を踏み出しかけたが、なんとかとどまった。


「このあたりの魔物は強くねぇ。街の防衛機能は弱いっていっても、最低限の防護柵はあるし、有事の際の対処方法もある。しっかりやればどうにかできる。問題は指揮だが……」

「た、たたた、大変です!」

「どうした?」


 また別の職員が駆け込んできて、リアは眉根を寄せた。

 魔物の襲撃なら耳にしている。だが、それとは違う様子だった。


「サブマスター、このギルド会館に宣戦布告されました!」

「……はぁ?」

「ちょ、それ、えぇっ!?」


 とんてもない爆弾発言に、リアは眉をつりあげ、チャコも目を白黒させて驚く。ベルも思わず硬直してしまっていた。

 宣戦布告。

 傭兵ギルドに。

 いったい、どこのだれが。

 さすがにリアも動揺している。


「その、ファブニル騎士団と名乗っていまして……」

「ファブニル……? ああ、キノキテニアが連れてきたへっぽこ騎士団か」

「その、ファブニル男爵自ら率いて侵攻してきているのです。諸悪の根源はギルド会館にあり、大義は我らぞ、と」


 リアの表情が完全に固まった。ぷるぷると指先が震えている。


「…………あ?」


 たったその一言で、周囲の空気が一気に冷え込んだ。部屋の内装の色が全部失ったかのようだ。

 寒気を覚えていると、リアが静かに立ち上がる。


「わかった。そのクソ騎士団は俺に任せろ」

「サブマスター?」

「やりようはいくらでもある。任せておけ。ベル。お前はまだ動くなよ」


 人差し指を向けられて、ベルはくぎを刺される。

 ベルは何度も頷く。

 満足そうにリアは親指を立てて、部屋を後にした。


「だ、大丈夫かな、リアさん……」

「あの人なら、なんとかすると思う」


 どうにも胸騒ぎがする。

 ベルはあえてそっちは口にしなかった。リアはいつだって自分たちを導いてくれる人だ。どんな困難にも真っすぐ立ち向かう強さがある。


 きっと、大丈夫だと思えた。


 ベルは静かにため息をつく。

 いきなり魔物の群れの襲撃。騎士団の侵攻。そして、自分たちのギルド活動の禁止。できすぎたタイミングだ。カンの鈍いベルでも分かる。

 そう。分かりやすすぎる。

 そこが、どうにも引っかかる。

 そっと窓からギルド会館の方を覗くと、見るからに騒がしい。次々と傭兵たちが集まってきては、飛び出していく。街の奥の方角からは、赤い光――火の手が見え始めていた。




 ▲▽▲▽




 ――ああ。どうして、こんなことになってしまったんだろう。


 息が切れる。

 痛い。

 血のにおい。

 痛い。

 意識が、途切れる。

 息遣いが、荒い。

 足が重痛い。

 いやだ、もういやだ。

 肺が苦しい。

 喉が乾いてひりつく。

 酸素が、追いつかない。


 どれもこれも悪条件だ。


 それなのに、ブランは足を止められなかった。

 獣人という強靭な肉体でなければ、とうに倒れているだろう距離を、血の足跡を残しながら踏破し、ようやく街へ入っていく。

 どういうことか、街は相当な騒ぎになっていた。

 すっかり鈍くなった嗅覚をすんすんと研ぎ澄ますと、近くで膨大な魔物の生臭いそれが漂ってきているのを察知した。


 ――魔物が、群れでやってきてる? まさか、そんな!


 動揺しつつも、ブランの足は止まらない。

 魔物の群れへは、すでに先輩傭兵たちが向かっている。こんな傷だらけの自分が参戦したところで、どれだけの戦力にもならないだろう。それ以上に、今、ブランにはそんな余裕がなかった。


 ベル。ベル、ベル!


 ただひたすらに名前を呼びながら、ブランは街を駆け抜けていく。

 びきびきと体が悲鳴をあげるたび、体が獣になっていく。こうして強化してやらないと、肉体を保っていられない。


「助けて……助けてくれ、ベル!」


 ブランは最後の力を振り絞るようにして、ギルド会館へ駈け込んだ。


「助けてくれ……姉さんが、姉さんがっ!」


 そう手を伸ばした刹那だった。

 ブランの背中が、踏みつけられる。

 否応なしに地面に叩きつけられ、ブランは弱った肺から空気の全てを漏らした。一気に酸欠になって、景色がぼやける。

 それでも手足を動かすが、ブランの背中を踏みつけるそれはあまりに強大で、身動き一つ取ることを許さない。


「『ひどいわね、ブラン』」


 それは、プリムの声で語り掛ける。


「『姉さんは、ここにいるわよ?』」


 ――否。プリムの声を騙る、深淵なるものの声だった。




 ▲▽▲▽




「……ほう、無事に攻撃が始まったようだな」


 双眼鏡から街の様子をみながら、イーストはほくそ笑む。

 町の南側からは魔物の群れ。街の北側からはファブニル騎士団。この挟撃にギルドは大きく揺さぶられている。当然、ギルド会館本部はほとんどもぬけの殻だろう。

 そこへ、フリークが突入する。

 ベルをここへ連れ出すのだ。

 そして、生まれたことさえ後悔するような、残虐な目にあわせてやる。

 フリークは足元に幾つも転がる木箱を蹴破る。

 がらがらと中から落ちるように飛び出てきたのは、剣やナイフ。棘のついたムチや、槍など、様々な道具。武器だけでなく、拷問用の器具もあった。


 いったいどれだけの悲鳴が聴けるだろう。


 いったい、どれだけの血が流れるだろう。


 いったい、どれだけの涙を見れるだろう。


 イーストは、心のわくわくが止まらなかった。

 ただただ、ベルへの膨らんでいく一方の復讐心で充満していた。


「わが息子の仇……今、果たすぞ……!」


 イーストはぎょろっと濁った眼を、月明りに照らした。

 心が躍る。

 どこまでも黒く、どこまでも真っ黒に。

 全ての策はそのために練り上げたものなのだから。


「ベル……ベル……べるぅぅううううううううううう――――っ!」


 力の限り。

 まるで獣の雄たけびのように、イーストは叫び、吠え、怒鳴りちらし、自ら手にもった剣で自分の周囲の草花を薙ぎ払う。


 殺したい。ああ、殺したい。


 嬲り殺したい。

 ゆらりと体がのけぞってから、猫背に戻る。

 ぼとり、と、ゆだれが落ちる。


「さぁ、早く、早く。我のもとへ」


 声がしゃがれているのにも気付かず、イーストは渇望を口にした。

 その影が、不気味なほどに歪んでいることにも気づかず。


「あ、ああ、ア、アアアアッ……!」




どんどん展開していきます。

次回の更新をお楽しみに。

ブクマなど、応援ぜひお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載はじめました! フルコメディ魔法少女モノです! ぜひ読んでお楽しみください!
スレたOLは元鉄拳魔法少女~拳で世界を二度救う~
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ