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動き出す策謀

 洞窟から、チャコとアドミオールがまず飛び出す。

 情けなくアドミオールは地面を転がり、その傍でチャコは華麗に受け身を取って起き上がる。ややあってから、ベルも飛び出してきた。


 ――っがぼぉおんっ!


 直後、洞窟の入り口がまるで火吹き口のように炎を吐き出す!

 その熱量はすさまじく、周囲の草木をあっという間に焦げ付かせた。


「おにいちゃん!」

「大丈夫」


 コックコートのあちこちを焦がしながら、ベルは端的に答えた。

 実際のところ、割と大丈夫ではない。

 あちこち打撲しているせいか地味に痛いし、熱によって火傷もしていれば、水分も多分に失ってしまっている。身体の悲鳴は無視できないレベルにあった。


 でも、これで終わりにできるから。


 ベルは顎に向けて滴る汗をぬぐい、猫背姿勢で前をにらむ。その手には、しっかりと包丁が握りしめられていた。

 まるで地獄の番人かのように、渦巻く炎の中からミスリルゴーレムが姿を見せる。


「もう無理、魔力切れだ」

「私も、かな……」


 二人の疲労はベルよりも色濃い。

 魔法を連打していたせいだ。つまり、二人のフォローは期待できない。


 それで構わなかった。


 ミスリルゴーレムを仕留めるのは、ベルの仕事である。

 ここが勝負処。

 呼吸をゆっくり整え、仕掛ける。


「――《屠殺》」


 地面を這うように低い姿勢からの加速。

 ミスリルゴーレムは素早く反応し、ベルを包み込むようにして、半円状に魔法陣を展開する。全て、火系統だ。


「おにいちゃん!」


 チャコの警告を受けて、ベルがさらに加速する。

 魔法陣が完成するよりも刹那だけ早く、ベルはゴーレムに肉薄した。

 さくり。

 優雅にも見える手ぶりで振るわれた長包丁から真空刃が放たれ、ミスリルゴーレムの肩口を抉り、片腕を切断する。

 さらにもう一撃。ミスリルゴーレムの反対の腕が、肩から切り裂かれる。

 だが、即座にミスリルゴーレムの魔力が高く反応し、切断された腕との再縫合を狙う。もしここに豊富な魔導銀ミスリルがあれば、その速度はすさまじく、追いきれなかっただろう。

 ベルはそのミスリルゴーレムの魔力が最も高く反応する部位――心臓目がけて包丁を突き出した。

 まるで魚を捌くような手さばきで、美しく心臓部分だけがくりぬかれる。


「――――!?!!!?!?!???!?」


 ミスリルゴーレムが、声のない悲鳴をあげた。

 そのくりぬかれた心臓部分に、《Emeth》と切り刻まれている。

 動力源を綺麗に奪い去られたミスリルゴーレムの肉体は、あっさりと瓦解していく。

 しっかりと核を握りしめて、ベルは安堵の息を吐いた。


「おお。なんという手さばき……! あのミスリルゴーレムをたやすく切り裂いた!」

「おにいちゃんはすごいんだから!」


 なぜかチャコが自慢げに胸をはる。ベルは苦笑しかできない。

 アドミオールはそんなチャコの頭を優しく撫でながら、ベルを見た。


「実力者であろうと見込んでいたけれど、ここまでのレベルだとは思わなかった。さぞやランクの高いお方では?」

「え、あー……その」

「おにいちゃんはSランク傭兵だからね」

「え、Sランクぅっ!?」


 しれっといいはなったチャコに、アドミオールは声を裏返した。


「え、まさか、英雄の一人ですか?」


 ベルは慌てて否定する。

 ベルの中で英雄といえば《雷神》のリアである。あんな人と肩を並べるなんてとんでもなかった。ベルはまだまだ実力そのものでは低い。


「いやはや、しかしSランクの方に手助けしていただけるとは。本当にありがたい。この御恩はしっかりをお返しさせていただきます。後で所属してらっしゃる傭兵ギルドを教えてくださいね」

「あ、はい」

「今はすぐにでも鉱夫たちを招集して、ミスリルの流通を再開させないと」


 アドミオールは腕をまくった。



 ▲▽▲▽




 ベルたちは隣町に戻り、店主に報告を済ませた。

 アドミオールから心ばかりのお礼だから、といわれて渡されたミスリルをもって。


「やってくれたか! すごいな!」

「えっへん! 他の素材もちゃんとあるよ」

「な、いつの間に……」

「元からもってたの。たまたま」

「たまたま?」

「たまたま」


 これは本当なのだから仕方がない。

 店主は懐疑的ながらも、素材を受け取る。軽く人撫でしただけでその品質に唸る。ベルがシメたものなのだから、一級品だ。


「素晴らしいな……分かった。俺が最高の腕を注いでいいのを作ってやる」

「やったあ!」

「ミスリルの流通、本当にありがとうな」

「いえ」


 ベルたちにしても報酬はある。

 本来であれば、ベルの持ってきた支度金では遥かに足りないであろう代物が手に入るのだから。それだけで十分な価値があるといえる。

 とはいえ、今回はギルドを通じて受けた依頼ではないので、ベルやチャコの功績として数えられることはないが。


「納品まで三日くれ。そうしたら届けよう」

「わかりました。ありがとうございます」


 ベルとチャコはぺこりと頭を下げて、店を後にした。


「それじゃあ、帰ろうか」

「うん。ごはんにしないといけないしね」

「うん」


 そっと差し出されたチャコの手を、ベルは握り返した。

 あの店主はかなり腕が立つ。きっととてつもなく上等なものを納品してくれるはずだ。



 ▲▽▲▽



 一方、プリムたちにも新しい試験が課せられていた。

 ベルたちとは一歩遅れてではあるが、彼らの卒業試験である。

 割り当てられた任務は、ゴブリンの群れの討伐。戦闘を得意とするブランと、サポートを得意とするプリムであれば、連携さえしっかりとれれば難なくこなせるレベルである。


 ここ数日、二人はリアのつきっきりの訓練を受けて、成長を遂げていた。


 リアが施したのは、二人の絆を深めることで可能とした、連携の強化。もちろん精神的成長を(特にブラン)望んでスパルタを叩きこんであるが。

 その成果か、ブランは落ち着きを手にし始めていて、プリムの指示ならば耳にできるようになっていた。

 プリムの方も、精神的成長を遂げていた。

 ブランに対してなら遠慮なく指示が出せるようになっていた。自分自身の能力が伸びたことも手伝っているようだ。


「──《膂力強化ストロング》!」


 プリムはブランの後方から魔術を展開する。鮮やかな光が、ブランを強化した。


「――《筋力低下ダウン》! 《足枷鉄重スロウ》!」


 重ねて、プリムがデバフ魔法を二連続で発動させる。

 二重のステータス低下をくらったゴブリンたちが、明らかに動きを鈍らせる。そこへ鉈を構えたブランが容赦なく襲い掛かる。

 荒々しい一閃は、ゴブリンの手にしていた粗悪な棍棒ごとゴブリンを切り裂く。

 荒い切り口から、血が飛び出すが、ブランはさっとバックステップで回避し、左右から迫ってくるゴブリンを引きつけながら鉈を横薙ぎに払い、ゴブリンの腕を切り払う。


「ブラン、右から五匹、なんとかして」


 プリムは指示しつつ、ボウガンを放ってゴブリンにトドメをさしていく。


「分かった!」


 ブランが迫ってくるゴブリンの群れに挑みかかり、プリムはデバフをかけながらボウガンの矢を装填する。

 猛然とした勢いでゴブリンに挑む間、プリムは左側をにらむ。

 迫ってきているのは三匹。


「《敏捷強化アジリティ》」


 自分の敏捷性を高め、プリムは魔法を唱える。


「《火炎弾フレイムブリット》」


 指先から炎の弾丸を放って牽制し、ゴブリンを足止めする。


「ブラン、次は左、三匹くる!」

「おうっ!」


 ブランが神経を高ぶらせすぎて我を失う前に、プリムがブランに思考させるような指示を出していく。

 嫌でもブランは集中を分割することとなり、理性が働く。

 ブランはプリムによって戦いやすい環境を整えてもらいながら、常にプリムを護るという制限によって、より効率よく戦えていた。


「これで……ラストぉ!」


 最後の一匹が始末される。

 すっかり慣れてしまった血飛沫を見て、プリムは安堵した。


「プリム!」

「ええ、これで終わったね。任務完了。ちゃんと最後まで理性が保てたね」

「おう!」


 かけよってくるブランの頭を、プリムは微笑みながら撫でてやる。尻尾が嬉しそうに左右へ揺れていた。

 少し時間がかかってしまったが、それは次への課題でいいだろう。


「それじゃあ、戻って報告しよう」

「そうだな……っていいたいとこだけど」


 ブランは鋭い目付きで振り返り、鉈をまた抜き構えた。

 ほとんど同時に、影が姿を見せる。

 瞬時にしてプリムも戦闘態勢をとった。


「誰だ、あんた。妙に魔力が臭いけど」

「おやおや。さすがは狼の獣人。鋭いことだな」


 影は緩やかに色を取り戻し、一見は爽やかそうな青年に変貌をとげる。

 町中で笑顔で話しかけられたら、ついつい応じてしまいそうになる魅力があった。とはいえ、ブランのいうように、何か異質なものをプリムも感じとっていた。


「はじめまして。僕はフリーク。これから君たちを絶望の淵へ案内するよ」



ここからストーリーが一気に動き始めます。

ご期待ください。

よかったらブクマなど、応援お願いいたします。励みになります。

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