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アドミオール

「ここか」


 隣町から北へ進んだところにある森。そこを東へ進むと、洞窟の入り口はあった。

 ベルでも感じ取れるくらい、強い魔力が漂っている。ここなら、質の良い魔導銀ミスリルが採取できるだろう。

 周囲もしっかり整備されていて、普段は鉱夫が出入りしているのも推察ができる。だが、今は人っこ一人もいない。


「チャコ、どうだろう」


 ベルよりも遥かに探知能力に優れるチャコに委ねると、チャコは険しい表情を浮かべていた。

 あまりよくないものを感じ取っているようだ。


「確かに、すごく膨らんでる感じの魔力があるよ。それがシルバーゴーレムなのかも」

「位置はわかる?」

「方角くらいなら」


 充分だ。

 ベルは頷くと、洞窟の中へ入っていく。鉱夫が出入りするだけあって、中もしっかりと整備されていた。松明もあるし、道もきれいで歩きやすい。

 しばらく進むと、様子は一変した。ところどころに破壊の痕跡が見えるようになり、鉱石が道に散乱し始める。

 明らかな戦闘の痕跡もあった。


「近いよ」

「うん」


 チャコの警告にしたがって、ベルは包丁と鉄串を抜く。

 シルバーゴーレムは、その名の通り、銀でできたゴーレムだ。アイアンゴーレムの一種で、物理防御力と魔術防御力の両方を兼ね備えた厄介なゴーレムだ。知性も高い。


 ──先制だけはされないように。


 ベルは気を引きしめる。

 シルバーゴーレムは攻撃力も侮れない。魔法こそ使えないが、巨躯の上に運動能力も高い。強固な身体を活かした物理攻撃は、絶対に直撃を受けてはならない。

 特にこの狭い中で暴れられたらたまったものではないだろう。

 そんなシルバーゴーレムの対処方法は簡単だ。

 身体のどこかに刻まれた、EmethのEを消すこと。古典的かつ明瞭。


 ──でも。


 シルバーゴーレムは、もうシルバーゴーレムではないかもしれない。

 何せここは魔導銀ミスリルが採掘できる洞窟だ。その魔導銀ミスリルを豊富に摂取していたら?

 いや。

 摂取しているはずだ。

 ベルは確信する。

 シルバーゴーレムの知性はあれば、自分をより強くするものが何かくらいは分かるし、自己判断で摂取もする。


「この壁の向こう側だと思う」


 考えを深く潜らせるベルの隣で、チャコが足を止めた。

 時を同じくして、ベルも結論に至る。

 ほとんど反射的にベルはチャコを抱きしめ、飛び跳ねた。


 刹那だった。


 壁が赤熱して一気に溶け、爆裂させながらゴーレムが姿を見せる!

 そこら中に真っ赤な岩石が飛び散り、ベルたちはかろうじてその範囲から逃れていた。

 だが、そこに追撃がやってくる。

 シルバーゴーレムの掌が光りを放ち、魔法陣を展開。ちりちりと周囲の温度が上昇した。


「あっぶなぁ――――!?」

「こっち」


 咄嗟の判断で、ベルは大きく後ろに飛び下がり、わかれ道を左へ。直後、猛烈な炎が周囲を焼き払う。

 熱量が、高すぎる。


「《凍結》」


 反射でベルはスキルを解放し、氷の壁を展開し、炎の直撃を避ける。

 だが、ひと息つく間などない。

 氷がどろどろと融解していく中で、チャコが過敏に耳を動かした。やや遅れて、ベルも全身に寒気を感じる。


「おにいちゃん! 壁!」

「──だったら、こっちから……っ。《賽の目切り》!」


 素早くベルはスキルを放ち、壁を賽の目状に切り裂く。今まさに突撃しようとしていたシルバーゴーレムは、前につんのめった。

 ベルは一歩踏み込んで手を突き出す。


「《扇ぐ》」


 暴風が荒れ狂い、賽の目になった岩をゴーレムに叩きつける!

 破砕音が響き、シルバーゴーレムが倒れる。

 ベルは素早くチャコをまた抱き上げてダッシュした。


「ねぇおにいちゃん、さっきのって魔法だったよね?」

「うん。だからあれはもうシルバーゴーレムじゃない」


 全力で洞窟を駆け抜けながら、ベルは目をさらに細める。


「ミスリルゴーレムだ」


 いった直後、背後で猛爆。

 爆風に襲われると同時にチャコを抱きしめ、その爆風にのる! コックコートが炎によるダメージを軽減してくれるが、熱さはやってくる。

 ベルは痛みをこらえながら、なんとか着地した。


「おにいちゃん大丈夫!?」

「平気」


 短く答えつつ、ベルは包丁を構えた。

 やるしかない。だが、ベルは周囲を見てため息をついた。


「ここじゃ、《屠殺》できない」

「え?」

「周囲に魔導銀ミスリルが多すぎる」


 ミスリルゴーレムの動力源は、魔導銀ミスリルだ。ここまで豊富にあると、仕留めても再生される。

 倒すには、なんとかして洞窟の外へ連れ出さないといけない。

 端的に説明すると、チャコの顔が青くなった。


「そんなのって……あのバカみたいな攻撃を回避しながら洞窟の出口目指すってこと?」

「うん」

「無謀過ぎない?」

「いやー、そこまで無謀でもないと思うんだな」


 チャコの疑問に答えたのは、ベルではない。二人が慌てて振り返ると、そこには飄々とした様子の壮年がいた。白髪交じりの髪も髭も、くるくるしている。

 壮年は愛想よく笑って手をあげた。


「やぁ」

「って誰!」

「僕かい? 僕はアドミオール。この洞窟の責任者の一人だよ。事情はそれで察してほしいといえばほしいんだけどね?」


 ちらりと見るだけで、壮年――アドミオールはしっかりと武装している。

 つまり、アドミオールもミスリルゴーレムをどうにかしようとしているのか。


「いやぁ、君たち、かなりの実力者と見込んでのお願いだ。僕に協力してほしい。理由は単純だよ。僕だけじゃあどうにもできないからね、あのゴーレム」


 それはベルたちも同じだった。

 あの苛烈な攻撃を二人だけで捌き続けることは非常に困難だ。


「それ、作戦があるってこと?」

「もちろん。僕にはあのゴーレムの攻撃を、一定時間封じることができる。でも、それは連発できるわけじゃないし、集中だっている。その攻撃を封じる時間よりも時間がかかるんだ」

「つまりそのチャージしてる間、私とおにいちゃんがゴーレムの攻撃を引き受けるってこと?」

「君は本当に慧眼だね。その通り。そうすれば、より安全にあのゴーレムを外に連れ出せるんだ。そうすれば、君が倒してくれるんだろう?」


 ベルは黙って頷く。

 ミスリルゴーレムの《屠殺》方法は知っている。


「それじゃあ、早速スタートといこう!」


 アドミオールの言葉がまるで合図かのように、炎の向こうからミスリルゴーレムが姿を見せる。その蜃気楼のせいだろうか、威圧感が抜群だ。

 すかさずベルが前に出る。アイコンタクトでチャコに指示。

 僅かな油断もできない。

 張り詰めた空気の中で、ベルは地面に包丁を走らせる。


「《乱切り》」


 爆発的に地面が乱れ切りされ、《扇ぐ》のスキルで風をまとってゴーレムに躍りかかる。 瞬間、ゴーレムも風の魔法陣を空中に出現させ、岩石を一気に薙ぎ払う!

 荒れ狂う中、チャコは両手を掲げた。


「《狐火》っ!」


 炎を着弾させ、ゴーレムの気を引き付ける。

 ゴーレムは地面を踏み抜き、衝撃でつぶてをいくつか生み出すと、そのままチャコへ蹴り飛ばす! だが、チャコは身軽な動きで回避した。

 壁につぶてが突き刺さる。


「一撃目、いきますよ! 《ミスリル・フレイル》」


 アドミオールから、光の波動が放たれる。

 直後、ミスリルゴーレムの動きが明らかに鈍った。


「なにこれ……魔法?」

「本来はミスリルそのものに干渉する採掘用の技術魔法なんだけどね。ミスリルゴーレムに使うと、一時的に体をうまく操れなくなって、攻撃もできなくなるし魔法も使えなくなる。その間に相手を引き付けるだけ引き付けていこう」

「わかった」


 ベルは頷きつつ、ゴーレムをひきつけるように洞窟の出口へ向かう。

 しばらく移動すると、ミスリルゴーレムの動きがよくなってきた。魔法の効果切れらしい。タイミングを見計らって、チャコが仕掛ける。


「いくよっ!」


 ミスリルゴーレムが雄たけびをあげるように口を開くのと同時に、チャコはあらかじめ拾っておいたらしい、先端の尖った石礫を投げつける。

 ミスリルゴーレムはカウンター気味に地面をけり抉り、礫を飛ばしてくるが、チャコは壁を蹴って天井に飛び上がり、さらにその天井を蹴って着地。見事にやり過ごす。


「《短冊切り》」


 そこへベルがフォロー。

 壁が短冊型に切り取られ、まるで矢の雨のように飛ばし、ミスリルゴーレムへ叩きつける。轟音まき散らし、ミスリルゴーレムが怯む。


「《狐火》っ!」


 たたら踏むミスリルゴーレムに、チャコの魔術が炸裂する。

 ダメージらしいダメージはないが、ヘイトを集めるには最適のようだ。

 降り注ぐ鉄槌のような短冊形の岩石を風の魔法で強引に弾き散らし、ミスリルゴーレムは魔法陣を展開する。

 火の魔法陣だ。


「《凍結》」


 すかさずベルが氷の壁を生み出し、魔法をやり過ごす。


「《ミスリル・フレイル》っ!」


 氷の壁が溶けてなくなる頃合いに、アドミオールが魔法を展開し、ミスリルゴーレムの動きを大きく鈍らせる。

 そんなことを何度も何度も繰り返し、必死に引き付けて。


 ベルたちは、ようやく洞窟の外へ脱出した。


次話から物語が大きく動きます。

ご期待ください!


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