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18/30

隣町

 ベルたちは、許可をもらって隣町に繰り出していた。

 宿場街には武器、防具屋はあるが、品揃えには期待できない。どちらかというと、武器や防具の研磨や手入れの方に注力している。そのため、新しい装備を整えるには、隣町へ出る方がいい。

 リアのすすめで高速移動馬車に乗り、隣町へ。

 高速で走れる馬を何頭も駅伝形式で乗り継ぐこの馬車は、料金こそ高いものの、かなりの速度で移動できる。半日以上はかかる距離なのに、ベルたちは昼を少し回るころには到着していた。


「うっわぁー、おっきいね、ここ!」

「そうだね」


 宿場街とは規模の違う街並みだ。建物も高いし、品ぞろえも段違いだ。

 隣町は、このあたりでは一番規模が大きい。

 二本の街道に挟まれているから発展した背景もあって、行き交う人々も様々だ。

 ベルとチャコはきょろきょろと見回りながら、目当ての防具屋を探す。


「ねぇ、おにいちゃん。本当にいいの?」

「何が?」

「装備だよ。私よりもおにいちゃんが先なんじゃないの? 見映え的にもさ」


 リアに説得された言葉そのままを使って、チャコは訴えてくる。

 ベルの格好は、傭兵というより職人の格好に近い。七分袖のコックコートに、腰巻きタイプのショートエプロンに、厚手のパンツとブーツ。メイン武装となる包丁類は布巻き包丁ケースに巻かれ、腰のポーチになっている。その他の道具類も同様だ。

一応、膝当てや籠手をつけてはいるが、コック帽を被ったらそのまま料理人である。


「自分は、大丈夫」


 ベルは僅かに微笑みながら、コックコートをつまむ。肌触りがよく、いい素材だ。これは料亭時代に支給されたものではない。


「これは、頑丈だから」

「その包丁も?」

「うん。師匠からもらった」


 職場で使うと取り上げられそうだったから今まで使わなかった。ベルの宝物であるが、その性能は恐ろしく高い。

 実はリアにお願いして鑑定してもらったことがあるが、これ以上の性能をもつ武器は、この国では手に入らないとさえいわれた。


 事実、ワイバーンや精霊さえもあっさりと屠れる性能がある。


 だからこそ、ベルに装備の一新は必要がない。ブーツや籠手は安物だが、耐久性はしっかりとあるものを選んでいる。


「そっか……」

「チャコ」


 ベルは、ゆっくりとチャコの頭を撫でる。


「チャコは、妹だから」

「心配してくれてありがとう。この恩は絶対に返すんだからね」

「うん」


 ようやくチャコが調子を戻す。

 あちこち寄り道しそうになりながら、ベルはようやく目当ての防具店を見付けた。

 ドアを開けると、からんからん、と乾いた鐘の音。すぐ先にあるカウンターには、いかにも頑固そうな店主が不機嫌そうに肘をついていた。



「らっしゃい」


 声も威圧がある。

 怯むベルをよそに、チャコは中へ入った。

 陳列されている商品は最低限のものだったが、どれもこれも高品質なのはすぐに分かった。


「あ、あの……」

「あぁん?」

「私、軽業師なんですけど、私に似合う装備が欲しいんです」


 ギラリと睨まれ、ベルは息を止めそうになる。すぐにチャコが割り入った。


「オーダーは」

「なるべく、頑強なのを」


 ぶっきらぼうな問いかけに、なんとかベルが答える。

 すると、店主はチャコを素早く観察する。数度だけ顎を撫で、鼻を鳴らす。


「……頑強、か」

「はい」

「この子は優れた獣人だ。魔力も気力も十分にある。身体能力も獣人の中でも高い。よっぽどのドス娘じゃない限り、早々傷はつけられないんじゃないか。確かにまだまだこれからってとこだが……弱そうなのは魔術干渉だな」


 滑らかな分析に、ベルは店主の瞳が片方だけ変化していることに気付いた。

 うっすらとだが、青白い光をまとっている。


 ――あれは、《鑑定眼》だ。


 先天性の能力の一つで、対象の能力を見透かすことができる、トンデモ能力だ。

 とはいえ、個人差がかなり激しい能力でもあり、この店主がどこまで鑑定できるか不明だが、少なくともチャコの弱点は見抜けるようだ。

 ベルは少し警戒しつつも、店主に金の入った麻袋を手渡す。

 小銭ばかりの重さだが、店主は眉を一つはねあげた。


「いいだろう。軽くて頑強、か。どっちかというと、物理攻撃よりも耐魔術性能が高い方がいいだろう。見る感じからして傭兵初心者だろうしな」


 そこもしっかりと見抜かれていた。


「いいだろう。悪いが、この支度金では足りない。だが、技術料としては足りる。つまり、素材を集めてこれば、その分で差し引きすることができる」

「素材?」

「そうだ。欲しいのは、魔術繊維糸だ。魔導銀ミスリルに、火吹き蜘蛛の女王の糸、黒巨蛇ブラックサーペントの皮と牙」


 どれもこれも高級品だ。

 ベルは目が飛び出そうになった。だが、魔導銀ミスリル以外は持っている。リアから討伐報酬として受け取っていたのだ。チャコに目線をうつすと、戦利品を管理しているチャコは頷いた。

 だが、疑問はわく。

 チャコは傭兵初心者だ。とても初心者に装備させる素材ではない。


「そんな高級品でつくるんですか?」

「魔術に高い耐久性を持たせた上で、軽量を意識するとなるとな……もちろん、安価なものもあるぞ。その予算で全部を賄うなら、この程度だな」


 店主が取り出したのは、見栄えはそこそこの腰巻風のロングスカートだ。前でボタンをとめるタイプなので、ボタンをはずせば動きに阻害はない。

 スタイリッシュではあるが、ベルは店主が持ってきた性能表を見る。


 ──火爪鼠と雨露蚕の耐魔スカート(性能E)

 【耐火魔術+1.7%】

 【耐水魔術+1.6%】

 【耐雷魔術-1.8%】


 微々たる影響な上に、雷系には僅かだが弱くなる代物だ。ベルは無表情の中にも微妙な空気を漂わせる。

 店主は当然のように性能表を回収すると、最初に提示した装備の性能表を見せる。


 ──火吹き女王と黒蛇の魔導銀製耐魔スカート(性能S+)

 【耐火魔術+77%】

 【耐水魔術+72%】

 【耐地魔術+64%】

 【耐風魔術+69%】

 【耐雷魔術+60%】

 【耐光魔術+55%】

 【耐闇魔術+78%】

 追記:火魔術威力15%UP


 破格だった。

 思わず性能表を落としてしまいそうになる。慌ててキャッチして、ベルは店主に返した。


「な……本当、ですか?」

「この支度金全部を加工技術費に回せばな」

「計算が合わないわ」


 チャコが素早く口を挟む。ベルも頷いた。すると、店主は面白そうに口の端を吊り上げた。


「ほう?」

「これだけ高級素材、材料費がとんでもないことになるのは理解できるけど、加工費だってかかるはず。それを考えれば、支度金だけじゃあ足りないと思うんだけど」

「それに、技術もいる」


 職人はその腕が価値だ。そしてそれは、すべての職人にとって、値段の相場になる。だから必要以上に高くも安くも設定しない。

 ベルも料理人だ。

 職人として、そのあたりのルールはよく把握している。


「かっははは。お前ら、本当に初心者か。ったく。初めてだぜ、交渉する前から看破されるなんてよ」


 自分の頭を何度も叩いて、店主は笑う。


「その通りだ。この取引には裏がある。実はな、魔導銀ミスリルの供給が完全に止まってしまってて、困ってるところなんだ」

「つまり、素材集めにいかせて、その供給が止まった原因を解決させるって魂胆?」


 カンの鋭いチャコは、即座に店主の狙いを口にすると、店主はすぐに認めた。


「そういうことになる。ギルドに依頼をかけちゃあいるが、解決する気配もないし、騎士団の連中はあっさり負けちまいやがった」

「負けた?」

「うちの騎士団の主力は今、応援に出ててな……それでなけなしの二軍みたいな連中が対応したんだが、これまた弱くてな」


 店主は呆れ顔だ。

 どうやら傭兵ギルドの方も同様らしい。


「宿場街の方もゴタゴタしてるみてぇで、そっちにも期待できない。だから、お前さんがたのような上客にお願いしようってことになった」

「……そうか、私たちを試したんですね」


 上客、という単語に引っ掛かったチャコが思い付きでいうと、店主はまた頷いた。


「そういうことだ。もしダメそうなら持ちかけないようにしてた。騙す形になったのは申し訳ないと思う。だが、これしかなくてな」


 頭を下げる店主を、ベルはじっと見た。

 やり方は汚い。だが、店主は実直そうだ。それだけに、魔導銀ミスリルの供給が止まっているのは切迫事態なのだろう。

 見捨てるのは簡単だ。だが、それは許せなかった。


「相手はシルバーゴーレムだ」


 正体を口にされて、ベルとチャコは表情を変えた。またゴーレムか、だ。


「おにいちゃん、どうしよう?」

「やれるだけ、やってみよう」


 どちらにせよ放ってはおけないし、なんとかすれば破格の装備がチャコのものになる。断る理由にはならない。




よかったらブクマなど、応援お願いいたします!


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