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契約

 ポテトゴーレムのポテトは、芋の中では最高級の一つだ。土壌となるゴーレムは養分も魔力も豊富であり、とても芋とは思えない旨味に溢れている。

 だが、それだけに扱いは非常に繊細で、下ごしらえを間違えると、一気に旨味を失い、通常の芋よりも遥かに劣る粗悪品になってしまう。


 故に、ポテトゴーレムのポテトを扱えるようになるイコール一流の料理人として認められる基準点とされている。


 そしてベルは、ポテトの処理方法を熟知していた。ベルをあっさりとクビにした料亭では扱わせてもらえなかったが、それより以前にしっかりと下積みを経験しているのだ。

 ポテトの処理の真髄は、温度だ。

 沸騰するかしないか、ギリギリの熱さの、塩をいれたお湯で軽く湯通しするのだ。


「うわ、すごい」


 鍋を眺めていたチャコが、目を見開いた。

 あっという間に芋から灰汁が出て、鍋の色を変化させていく。


「余剰分の養分、不純な魔力、これらを弾き出すんだ」

「不純物を取り除くのね」

「うん」


 湯通しを終えたら冷水で軽くしめれば下ごしらえの終了である。

 ベルは早速、芋を二つ蒸かす。

 その間に塩とバターを用意しておき、さらに別の調理にも取りかかっていく。手数の多い平行作業だが、ベルは平常心でてきぱきとこなしていく。

 頭で考えるよりも、手が覚えているのだ。


「ん、できた」


 芋を蒸かしおえたところで取りだし、ナイフで十字に切れ目を入れる。

 皮を花が開くように剥いてから、芋も真ん中を押し広げるように広げて塩をひとつまみと、バターを一欠片落とす。


 じゅんわり。


 バターが濃厚な色を残したまま溶けて芋に染み込んでいく。最高の具合だ。


「チャコ」

「味見? やったぁ!」

「熱いから、気を付けて」

「うん!」


 チャコは大事そうに受け取り、なんども「ふうふう」と息を吹きかけてから一口。

 はふり。

 ほこり。


「あふっ、はふっ」


 湯気だけを口からこぼしながら、チャコは目をきらきらさせる。

 もぐもぐと口を動かすと、さらに顔を赤くさせた。


「んっ、お、おいひぃぃ~~~~っ」


 歓喜の声をあげて、チャコはもう一口。悶絶するように身をよじらせた。

 ベルは微笑みながら、自分も蒸かし芋を一口。しっとり、ねっちり、もっちり。

 とろみさえ感じるような食感だが、ほくほく感も消えていない。内包しているのは、甘みさえ感じる芋の強い旨味。

 それが塩気とバターのコクで爆発的に増幅されているのだから、美味しくて当然だ。


 チャコは小さい口をいっぱいに動かして、芋をひとつ綺麗に食べ終えた。


 いつもは旨味に乏しい、ぼそぼそした芋なので余計にだろう、チャコは満足そうな顔だ。

 ぺろり、と、唇についたバターを舐めとり、チャコは頬笑む。


「美味しい! お芋ってこんなに美味しいんだ」

「最上級品にもなれば、これだけで主食になるからな」

「うんうん、全然なるよこれ!」

「これを、もっと美味しくするんだ」


 ベルはコトコトと煮込まれる鍋を見つめる。

 そこには、料理人としてのプライドが見えた。



 ▲▽▲▽



 静かな空間に、陶器の器の澄んだ音。

 ギルドマスターは、白いナプキンを首に巻きながら、うきうき顔だった。何が出てくるのか、本当に楽しみにしている様子だ。ちなみに監視役として、隣にはリアがどっしりと居座っている。

 そこに、ベルは料理を運んでくる。


「へぇ……」


 並んだのは、ポトフに蒸し芋、ポテトフライ、ブルスト、そしてローストポークに葉野菜のサラダ。

 ギルドマスターは、まず迷うことなく蒸し芋に手をつけた。

 丁寧にフォークで切り分け、とろっとバターが溶けた部分を食べる。


「んふっ、これは、とてつもなく美味しいですね……バターも塩も素朴なのに」

「だからこそ、旨味が引き立ちます」

「うん、そうだね。自己主張の激しい食材だと、お互いケンカするからね」


 いい味だ、とギルドマスターは丁寧に食べ終え、次にポトフへ。

 コンソメでしっかりと煮込まれたスープには野菜と芋の旨味、そしてブルストのコクが溶け出している。反対に、野菜にもその旨味がしっかりとしみこまれている一品だ。

 ちゅる、と、スプーンでまずスープ。

 ギルドマスターは恍惚の表情で鼻から息を漏らした。


「ああ、美味しいね、これは」


 思わずだろう、笑みをこぼしている。


「なんて深みのある味だろう。このトマトもいい。トロトロなのに、一切荷崩れしていない。素晴らしい技術だ。それにブロッコリー、アスパラ。味がしっかりとしみこんでいるのに触感が失われていなくて、技術が光っているね」


 語りながら、ギルドマスターは次々と食べていく。

 最後はメインといわんばかりに、ブルストだ。


「ほふっ」


 じゅんわりと煮込まれたブルストは柔らかい。

 強烈な旨味こそスープに溶け出しているが、だからこそ肉の味わいがしっかりと残されている。この絶妙さ加減に、ギルドマスターは舌鼓をうった。

 これだけ美味いブルストが、焼かれたもの。


 ぷつっ、とフォークで突き刺すと、肉汁があふれ出る。慌ててギルドマスターは行儀悪く肉汁をすすり、さらにかじる。


 ぱききっ。

 と子気味良い音。

 ブルストはあっさりと噛みちぎられ、ぷるんと肉の断面を見せつけた。


「これは、とんでもなく美味しいっ! ただの肉じゃないね!?」

「はい。熟成させたオーク肉を使ってます」

「熟成させた……それは美味しいはずだ。たまらないね」


 いいつつ、ギルドマスターはローストポークもあっという間に平らげ、最後にポテトフライも一度も手を止めることなく食べ切った。

 ちなみにリアも同じものを食べているが、一言も物言わずに平らげている。ずっと真剣な表情だったのが怖いが、こちらも綺麗に食べたので、美味しいのだろうと思われた。


「最高だ……これは、完璧だよ」

「そうですか。よかった」


 ベルは胸を撫でおろす。

 ここまで神経の尖らせた料理は久しぶりだったので、ベルはようやく安堵できた。


「素晴らしく魔力が満たされていくよ。これで約束を守らなかったら、僕は極刑だね」

「当然だ」

「それじゃあ、早速やろうか。魔力が満ち足りている間に済ませておきたい」


 ギルドマスターが立ち上がるのを見て、ベルは慌てて懐にしまいこんでいた精霊の核を渡す。ギルドマスターは笑顔で受け取り、ぐっと胸元で抱きしめた。

 最初は、ゆっくりと。

 穏やかな風が渦巻き、やがて光が満ち足りていく。


「な、なにこれ。鳥肌がっ……」

「とてつもない魔力量のせいだ」


 ざわつくチャコを、ベルだ抱きしめ、リアが何かを展開してくれた。どうやら魔術的な結界のようだ。落ち着けたのか、チャコが息を吐く。

 その間にも渦を巻く風はどんどんと強くなっていく。

 もはや近寄ることもできない。

 ベルがビリビリと痺れさえ感じていると、光がようやく収まっていく。


「――できたよ」


 やや疲れた声で、ギルドマスターはいう。

 膨大な魔力を吸い上げた精霊の核は、どくどくと脈打つように光っていて、胎動しているようにも見えた。

 慎重な手つきで、ベルはギルドマスターから核を受け取った。


「しばらくは君の微弱魔力だったり、気力だったりを吸い取って、君を主して認識していく。十分になったら、精霊として孵化するよ。楽しみにしておいてね」

「……はい。ありがとうございました」

「お礼の程は。僕も美味しい食事をありがとう。大変よかったよ」

「いえ」


 素直に手放しでほめられて、ベルは嬉しかった。

 今まで、チャコを除けば、料理で褒められたことなどなかったからだ。確かに、今回は特に上手くできた。運も味方になっているのだろうか。

 なんて考えていると、リアは満足そうにしているギルドマスターの首根っこをつかんだ。


「さぁ。ギルドマスター。まだ余力はあるよな?」

「はい?」

「これからたぁぁっぷりと書類仕事が待っているからな?」

「え、あれ、え、ええ、ええええええええ……」

「逃れられない宿命と思え。じゃあベル、チャコちゃん。後でな。二人はちゃんと最終試験に合格だから。書類やら何やらは後で持っていく」


 笑顔でいい残して、リアはギルドマスターを引きずりながら部屋を後にした。


「え、えっと……」

「とりあえず、精霊ゲットできたしいいんじゃない?」


 困っていると、チャコも苦笑しながらいった。


メシテロでした。

ベルは更に強くなります。

ブクマ等、応援お願いいたします!


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