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嵐を呼ぶ女と始末

「こんのっ……ドアホウがぁっ!」

「いっでぇっ!?」


 ギルド会館に戻って報告した直後、リアは怒鳴り散らしながらブランの頭にげんこつを叩き込んだ。

 ごちっ。と金属に殴られたかのような快音に、ブランは悲鳴をあげてうずくまった。


「お前な、あれほど! ちゃんとしろって! いっただろうが!」

「ぐえぇぇぇ……で、でも」

「でももへったくれもあるか! お前分かってるのか、お前一人の暴走で、みんなが死んでもおかしくなかったんだぞ! ことの重大さを認識しろ!」

「うぅ……」

「切り抜けられたのはベルがいたからだ! そのベルも危険な状態になったんだからな!」


 リアは容赦なく叱りつける。

 仲間であるパーティを危機にさらしたのだから当然だ。助け合うはずの存在が足を引っ張っては意味がない。


「プリム! お前ももっと強くコントロールするようにしろ! 結局引っ張られたら、元も子もないぞ!」

「ご、ごめんなさい……」

「ということで二人は後でみっっちりと補習だ。いいな?」


 拒否権など、そこにはなかった。

 静かになったところで、ベルが持ち帰った水晶のようなものを見る。


「……んで、これか。間違いなく、精霊のコアだなこりゃあ」


 リアは触れれば凍傷を起こしそうなくらい冷えた核をひょいとつまみ、ため息を漏らす。


「見事なもんだ。凍っているが、品質は最上級。換金したら結構な金額になるぞ」

「え、そうなんですか?」

「チャコちゃん目が金貨になってるぞ」


 苦笑しながら指摘し、リアは続ける。


「しかし、スタンピートではなく、スライムに擬態した精霊とはな……レアすぎる」

「このあたりで、精霊なんて聞いたことないですしね」


 プリムが沈んだ表情でいう。

 精霊は出現しやすい地域とそうでない地域がある。自然奥深い地域だと出現しやすい。逆に、宿場街の周辺は出現しにくい。

 これは精霊が自身の活動源でもあるアニマを好むためで、上質で豊かなアニマは自然奥深いエリアに多いからだ。ここ宿場街ではアニマはそうそう発生しない。


「しかもスライムに擬態するなんてな……この感じなら、もうほとんどウンディーネだろ。だとしたら知性も手にしていたはずだ。わざわざ下位存在に擬態する理由などないんだがな」

「と、いうことは……?」

「なんらかの要因が関係している、ということだな。それが何なのかまでは分からないんだがな」


 チャコの問いかけに、リアは腕を組みながらうなり、ふと顔を上げた。耳が僅かにぴくぴくと動く。応じるようにチャコも動かすと、何かに気付いた。


「下がうるさい……?」

「何やらもめてる感じがするな。いつものバカ騒ぎじゃあない」

「女の人の声がしますね」


 ブランも音をとらえたらしい。普通の耳しかもたないベルとプリムは首を傾げるばかりだが。


「いってみよう。みょーな感じがしやがる」


 ぶるっと身震いひとつしてから、リアは部屋を出る。ベルたちも後に続いた。

 一階に降りると、早速金切り声がやってきた。声量もそうだが、耳から頭にキンキンと響いてくる嫌な声だ。


「「うるさっ」」


 チャコとブランの獣人二人組が早速耳を両手で覆い、リアとプリムも不快に眉を寄せる。


「だからっ! ここにっ! ワータシのエリザベスちゃまがとらわれているんでザマスの! 早くワータシに返すザマスの!」

「そうおっしゃられてもですね……」

「ムキーっ! たかだか卑しい傭兵ギルドの受付の分際で、ワータシに口答えし続けるなんて! なんという浅学ザマス!」


 受付で騒いでいるのは、どうやって歩くのだろうと問いかけたくなる程にけばけばしい彩りの派手なドレスに身を包んだ、そのドレスに負けないくらいけばけばしい顔の女性だった。

 表情が分からないくらいに分厚い化粧が施されていて、もはや能面になっている。

 あまりの異様さに、誰もが近寄れない。

 サブマスターをのぞいては。


「なんだあのウザいオバハンフルコンボは」


 遠慮の欠片もない正直な感想を、サブマスターは嫌そうな表情を一切隠さずにいう。


「な、なーんザマスか! 今、その汚らしいにも程がある言葉、ワータシに向けたザマスか! そこの無精ヒゲの汚らわしい男!」

「汚らわしいって二回使ってんぞ。語彙力まで化粧に費やしてんのか? っていうか分厚過ぎてもはや人間やめてんじゃねぇか」

「んなっなっ、ななっなあああああ!」


 分厚い化粧にひび割れを起こしながら、女性は激昂する。

 一切遠慮しないで空気を読まないサブマスターは、この場面においては無敵だった。


「おい、どういうことだ?」


 リアは女性ではなく、困り果てていた受付に事情を問う。


「あ、あのっ、いきなり来られて、ずっとエリザベス、エリザベスって……」

「エリザベスちゃんザマス! 下賎のものが呼び捨てにするんじゃありませんことよ! 恥を知りなさい!」

「あ?」


 罵倒も過ぎる物言いに、リアは不機嫌を表に出した。


「おい厚塗りババァ。今なんつった?」

「なっ……!?」

「俺の大事な大事な部下に、なんつったよ今、オイコラ」


 リアは本気で怒っていた。もし相手がそこらのチンピラであれば、首から上がもう消し飛んでいてもおかしくない。

 それをしないのは、何かしらの事情があるからなのだろう、という最後の良心の理性だった。


「なんザマス! この野蛮草昧な男は!」

「俺はここのサブマスターだよ。だから俺にはアンタに問い質す権利がある。どういう理由があって俺の大事な大事な部下にクソ下らねぇ言葉を投げてくれてんだ? あぁん?」


 ドスの利いた低い声は、重圧感がある。女性は能面ながらもその態度で怯えを見せるが、すぐに偉そうにふんぞり返った。


「どういう理由があって? 決まっているザマス! ワータシの可愛い可愛いエリザベスちゃまがここにとらわれているザマス! どういう理由があってこんな胡散臭くてどぶ水臭い場所に監禁されているのか、ワータシが聞きたいところザマスね!」

「人の職場をよくもまぁケチつけてくれるもんだな? しまいにゃ侮辱罪でしょっぴくぞ? んで? そのエリザベスちゃまってのはなんなんだ」


 一応話を聞いたのは、言質を取るためだ。もし関係のない内容なら、一撃で仕留めるつもりである。


「決まってるザマス! ワータシのカワイイペットのエリザベスちゃま……って、ウゴラアアアアアアアアアアっ!!」

「なんだ今のゴリラの雄叫びみたいなのは」

「エルリィィィィイイザヴェスちゃま!」

「随分と威勢よく舌巻いたなおい厚塗りババァさんよ」


 だが、厚塗りババァには届いていない。ただぷるぷると震えながらリアの持つ精霊に指を向けている。リアは怪訝になりながら精霊へと視線を落とし、鼻で息を漏らした。

 ベルもなんとなく感じ取った。

 すべてがつながっていく。


「あんたが飼ってたのか、この精霊」

「そうザマス! エリザベスちゃまです! 精霊よりも特別な存在ザマス! それなのに、なんという酷いことをっ! どういうことザマス!」

「……こいつはウンディーネになりかけてた。そのせいで湿地に多大な悪影響を与えていたんだぞ? 討伐対象になるのは当然だ」

「そんなの知ったことじゃないザマス! これは問題ザマス! 人様の所有物を傷つけるなんて、傭兵の分際で!」


 厚塗りババァに聞く耳はない。怒りに身を任せているせいなのか、元からなのか。

 そんなこと、リアにはどうでもよかった。


「いっておくが、精霊の飼育は違法だぞ」

「それこそ関係ないザマス! ワータシは! この街で最も長に近い、キノキテニアの妻シーブルにあるザマス! 本来会話することさえ叶わぬ天上の存在ザマス!」

「……会話が成立してない気がする」

「気、というか思いっきりだわ、あれ。本当に理解に苦しむんだけど。っていうかキノキテニアって捕まったよね」


 プリムが不快感を表に出すと、チャコも同意する。ブランは完全に理解を放棄している。

 ベルだけが、厚塗りババァことシーブルの言葉の意味を理解していた。

 完全に、というわけではないが、あの理不尽なものいいの意訳程度は可能だ。


「たぶん、自分はえらいから、そんな法律には縛られない、的な。というか、法律より、えらい、的なことを主張してるんじゃないかと」

「その通りザマス。そこの大きいだけが取り柄のような唐変木、よくわかっているじゃないザマス」

「うっわぁ、最低」


 思いっきりベルにまで痛罵を浴びせるシーブルに、チャコが攻撃を開始した。


「何? 顔を見たら罵倒する病気か何かにかかってるの? そんなに偉いならただちに教皇直属のエリート極まる医師サマにでも診断してもらったらどうなの? まぁたぶんそんなの未来永劫無理なんだろうけど。器小さそうだもんね、あんた」

「んなっ……!」

「大体化粧がケバいを通り越して奇抜変装みたいになってるし。化粧っていうのは、自分をさらに綺麗に見せたりするためのもの。あんたはそれを超越しすぎててもう顔面コメディみたいになってんじゃん。顔面何センチ塗りたくってるの? 皮膚呼吸できなさ過ぎて顔面の皮膚窒息してない? ヤバくない?」

「ペラペラと舌だけは回る小娘ザマスねっ……!」

「ほら化粧に亀裂入ってるけど」

「んな、な! 名誉毀損この上ない!」


 相当怒っているのだろう、シーブルはさらに顔面に亀裂を走らせていく。


「名誉毀損はそっちでしょ。なんのいわれもないのに罵倒してくるとか、育ちとか疑う前に魂の存在そのものを疑うわ」

「いわせておけばっ……! 汚らわしい獣人の分際で!」

「そこまでにしておけ。とりあえず厚塗りババァ。あんたは精霊無断飼育違反及び名誉毀損で拘束だ。いっとくけど、あんたの頼みの綱だろうキノキテニアはとっくにお縄についてるぞ。出してもらえると思うな?」

「……へ?」


 リアの断言に、シーブルが間抜けな声をあげる。直後、シーブルの背後から傭兵たちが迫り、覆い被さるようにして拘束した。

 一瞬のできごとに、シーブルは抵抗さえできない。


「ちょっ、え、えええっ!?」

「夫婦そろって宿場街に迷惑かけるとか反逆罪も視野に入れないとな。気持ちのいい取り調べがあると思うなよ? あんたの罪は、状況によっちゃ拷問さえ許される重罪だ」


 リアはしれっとさらっと脅しをいれる。


「ちなみに。キノキテニアはもう七キロも体重が落ちたそうだぜ?」

「ひ、ひぃっ……!?」

「そういうことだ。おい、詰所につれていけ。俺の名前出せよ。それと、取り調べは最初っから全力でやっていいって付け加えとけ」

「わかりました!」


 警備担当をしていた傭兵たちは一斉に頷くと、さっさとシーブルを連れていく。

 平穏はようやくやってきた。

 特に罵声を浴びせられ続けた受付の女の子は疲弊しているのか、ため息が深い。

 リアはそんな女の子の頭をぽんと撫でた。


「災難だったな。今日はもう上がっていいぞ」

「いいんですか?」

「構わん。リフレッシュしてこい。疲れただろうしな」

「ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げるのを手を振って受け入れ、リアは手に余していた精霊の核を何度か空中に投げてから、ベルにパスした。

 反射的に受け取ると、リアはにやっと笑った。


「そいつはたった今から、ベル。お前のもんだ」

「……自分の?」

「不法所有していた飼い主は拘束されて一切の権限を失った上に、そいつはドロップ品だ。所有権は完全にお前さんのもんだよ」


 ベルはまじまじと精霊の核を見つめる。

 純度の高い魔力で満たされている精霊の核は、食べるとそれだけで魔力で満たされる。高名な魔法使いほど求めるものだが、ベルにその必要はない。ベルに魔法の才能はない。

 チャコならば、とも思うが、チャコの適性は炎だ。水と氷である精霊の核を食べても意味はないだろう。


「……うーん」


 完全に持て余している。

 精霊の核は売却できないのは知っているからだ。


「それならば、ご自身のパートナーにされてみてはいかがですか?」


 穏やかな声は、ギルド会館の入り口からやってきた。一斉に視線を送ると、そこには長い金髪を美しく携えた、長耳の男がいた。

 とたん、リアの表情が変わる。


「ギルドマスター!」


よかったらブクマや評価等、いただけるとうれしいです。

次回の更新は夜予定です。


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新連載はじめました! フルコメディ魔法少女モノです! ぜひ読んでお楽しみください!
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