秦墓・一局棋・停駕・天下路・雁道王・崇愷
秦墓 2025/6/26
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秦皇建墓廢山川 地擧悲風荒野連
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安閑有巣無所識 如何自刖致名天
【句形】
七言絶句、平起こり、下平1先(川、連、天)
【語釈】
秦皇一句…世界史の概説書に挟まれた小冊子にあった陳舜臣の文章に、「殷の青銅器や秦の陵墓は環境を破壊し資源を蕩尽して作られたが、それらを継いだ周や漢は質素な器物や墓を建てた」というのがあったと記憶している。
有巣…文明が始まる前に氏族。荘子・盗跖篇「白沙在泥、與之皆黑」
【訓読】
秦皇墓を建て山川を廃せるに 地は悲風をあげ荒野連なる
安閑たる有巣は識る所なきに 如何自ら刖りて名を天に致すをいかんせん
一局棋 2025/6/28
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誰語江湖一局棋 無甘所動主君肢
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雖能不遭周文遇 即果紅塵如漏厄
【句形】
七言絶句、仄起こり、下平1支(棋、肢、厄)
【語釈】
誰語…青年日本の歌「世は一局の碁なりけり」
雖能一句…離騒第一「呂望之鼓刀、遭周文而」
【訓読】
誰か語らん江湖は一局の棋なりと 動かさるる主君の肢に甘んずるものなし
能ありとも周文の遇にあはねば 即ち紅塵に果てぬること漏れたる厄のごとし
停駕 2025/6/29
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君臣迷亂萬民班 一命誰妨徐逐關
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不若泰容停駕士 桑田黍稷復青山
【句形】
七言絶句、平起こり、下平15刪(班、關、山)
【語釈】
徐逐關…徐晃は樊城の戦いで関羽に対して情にほだされず戦った。
停駕士…西晋・潘尼・迎大駕「且少停君駕、徐待干戈戢」
【訓読】
君臣迷乱すれば万民班たれ 一たび命ぜられば誰も妨たげじ 徐の関を逐ひしを
泰けく停駕の士を容るるにしかず 桑田黍稷また青山
天下路 2025/7/5
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何希有終敏 能窮走狗辛 不平天下路 樂道獨如仁
【句形】
七言律詩、平起こり、下平11真(辛、仁)
【語釈】
樂道一句…曽子「仁者樂道」
【訓読】
何ぞ希なる有終の敏さ 能は走狗の辛きに窮まる
平らかならず天下の路 道を楽しまばひとり仁のごとくならん
雁道王 2025/7/6
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古來興稗史 人戀樂郊光 千乘實難破 南柯虚易喪
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相疏今不得 共憤漸窮昌 不若上征惑 焉爲雁道王
【句形】
五言律詩、平起こり、下平7陽(光、喪、昌、王)
【語釈】
稗史…卑俗な、つまらない話。
千乘…千個の車。転じてそれを出せる大国。
南柯…人間の夢の中の、もろい空想の世界。
雁道…中世以来日本人が想像した、北に広がる異世界。ギリシア人のヒュペルボレアとも似通っている。
【訓読】
古來興稗史 人戀樂郊光 千乗の実は破りがたく 南柯の虚は喪ひやすし
相疏たること今は得ず 憤りを共にするは漸く昌んをきはむ しかず惑ひに上征し、 ここに雁道王とならんには
崇愷 2025/7/12
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崇愷爭錢勢制君 酒池閑己壓佞群
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徒囚巧利賊泉勃 通塞終爲富所分
【句形】
七言絶句、仄起こり、下平12文(君、群、分)
【語釈】
崇愷…西晋時代の富豪、石崇と王愷。
徒囚一句…老子「絶巧棄利、盗賊無有」
通塞…通ること、ふさがること。進退。
【訓読】
崇愷 銭を争ひて勢ひ君を制す 酒池にて己をしづむること佞群を圧す
いたづらに巧利に囚はるれば賊泉のごとく勃たん 通塞つひに富の分かつ所となる