千亡萬死・天祥・補亡志・無王・重鼎・流血百里
千亡萬死 2025/5/30
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千亡萬死固平生 何必哀傷限令名
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邁邁白沙揚日没 奈何天摘誕宏精
【句形】
七言絶句、平起こり、下平8庚(生、名、精)
【語釈】
白沙…曽子「白沙在泥、與之皆黑」
【訓読】
千亡万死固より平生 何ぞ必ずしも哀傷令名に限らん
邁邁たる白沙揚がりては日に没す 天の誕宏の精を摘むをいかんせん
天祥 2025/6/2
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氣尚三寒後四温 三燔四冷意希元
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曾求吉兆誠因理 如是誰亡讖緯存
【句形】
七言絶句、平起こり、上平13尤(温、元、存)
【語釈】
讖緯…讖緯書。九歌第四・懐沙「玄文處幽兮、矇瞍謂之不章」元から薄暗い所にあって見えなかった黒い模様が浮き立ちだす世の中となってきた。
【訓読】
気は三寒後のち四温を尚ぶに 三たび燔け四たび冷え 意の元いなることまれなり
かつて吉兆を求めけるは誠に理による かかれば誰か讖緯の存するをほろぼさん
補亡志 2025/6/15
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當代文人應補亡 丘求古禮曾新芳
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道皆從俗盡經國 故實宜耽如良糧
【句形】
七言絶句、平起こり、下平7陽(亡、芳、糧)
【語釈】
補亡…文選の最初の部。詩経にない部分を補完するという気概によって名付けられた。
故實…古い礼儀作法に関する知識。
【訓読】
當代の文人まさに亡きを補ふべし 丘の古礼を求めしもかつて新しき芳ひなりけり
道は皆俗よりして経国に尽く 故実宜しく耽ること良き糧のごとくなるべし
無王 2025/6/16
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軒昂民士起無王 乞治濛濛是亦昌
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桀紂驕威多立壁 三皇保德莫成疆
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不羈宜順天中命 自縛將從地上相
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放伐希全仁德建 大民宜語完禅讓
【句形】
七言律詩、平起こり、下平7陽(王、昌、疆、相、讓)
【語釈】
仁德建…千字文「德建名立、形端表正」
活活一句…東晋・謝霊運・登石門最高頂「活活夕流駛」
【訓読】
軒昂たる民士無王なきに起こる 治を乞ふこと濛濛たるに是また昌んなり
桀紂威を驕りて壁を立つること多きも 三皇徳をたもちて疆をなすことなし
不羈宜しく天中の命に順ふべく 自縛まさに地上の相に従ふべし
放伐は仁徳の建つを全うすることまれなり 大民宜しく語りて禅譲を完ぐべし
重鼎 2025/6/19
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獨墺同言異大君 竝壯久以靡寧源
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墺喪臣國棄宗廟 獨合其疆爲子孫
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民始桓桓善去別 邦終慼慼厭成藩
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虞哉社稷毀難復 誰轉甘棠奉禁園
【句形】
五言律詩、平起こり、上平12文(君)13元(源、孫、藩、園)
【語釈】
獨墺一句…ドイツとオーストリアは国としては違うが民族として同じドイツ人であった。王家が異なるゆえに異なる国として存在してきた。
靡寧…国家の政。「王事靡寧」
墺喪…オーストリア=ハンガリー二重帝国の崩壊後にハプスブルク家の王を追放し、共和国となったオーストリアではドイツとの統合を望む世論が巻き起こり、最終的にヒトラーがドイツをオーストリアを併合する(この事件をアンシュルス Anschlussと呼ぶ)。しかしナチス支配下における収奪は最終的にオーストリア国民にドイツとは別の国であるという意識を覚醒させた。
甘棠…召公奭が下に憩いながら裁判をしたというやまなしの木。人々は彼の仁徳を慕って木を切らなかった。
【訓読】
獨墺同言大君を異にし ならびにさかんなること久しきは靡寧の源を以てす
墺臣国をうしなひ宗廟を棄て 独其の疆を合はすること子孫のためたり
民始めは桓桓と別を去りしことを善せしに 邦つひに慼慼として厭藩を成すことを厭へり
虞へなるかな社稷(この)たるれば復しがたく 誰か転ぜんや甘棠禁園に奉られたるを
流血百里 2025/6/21
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千里風腥利國興 甚凌呉越永難朋
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擒王不得止承戰 愈益高高楚土憎
【句形】
七言絶句、仄起こり、下平10蒸(興、朋、憎)
【語釈】
擒王…唐・杜甫・後出塞第六「射人先射馬、擒敵先擒王」
楚土憎…史記・項羽本紀「楚雖三戶、亡秦必楚」
【訓読】
千里風腥し利国の興 甚しきは呉越永く朋なりがたきを凌ぐ
王を擒ふとも戦を承ぐを止むるをえず ますます益さん高高たる楚土の憎しみ