時在玉門關・螟蜮・慈雲・剥廬・深宮・池魚旅・祕懷
時在玉門關
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人壽兒漸少 白骨代紅顏 人性異松柏 難抗長安閑
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固易傷而破 故征多險艱 利器如金車 徐歩使心奸
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天下榮枯境 時在玉門關 何足詠興廢 素餐事空刪
【句形】
五言古詩、上平15刪(閑、艱、奸、關、刪)。
【語釈】
白骨一句…蓮如上人御書「されば、朝には紅顔)ありて夕には白骨となれる身なり」
松柏…論語・子罕「歳寒、然後知松柏之後彫也」
金車…易経「九四 來徐徐、困于金車」
玉門關…敦煌西北に存在した、西域への関所。
【訓読】
人寿にして子は漸く少なく 白骨紅顏に代はる
人の性は松柏にことなり 長き安閑に抗ひがたし
固より傷つき破れやすし 故に多くの険艱を征す
利器は金車のごとく 歩を徐くして心をして奸ならしむ
天下は栄枯の境 時は玉門関にあり
何ぞ興廃を詠むに足らん 素餐空しく刪るを事とす
螟蜮
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田盈螟蜮火炎飜 草木無言常廣繁
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菜盡枯焦猶獨健 可知天地不亡源
【句形】
七言絶句、平起こり、上平13元(飜、繁、源)
【語釈】
螟蜮…ずいむし。稲を食う。晋・陶淵明・怨詩楚調「炎火屢焚如、螟蜮恣中田」
火炎…日照り。
【訓読】
田は螟蜮に満ちて火炎ひるがへる
草木言ふことなくして常に広く繁る
菜ことごとく枯焦するに猶ほひとり健し
知るべし天地亡びぬ源なりと
慈雲
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邁邁慈雲蔽酷光 雖居隆暑樂貪涼
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唯憂富國忘身利 不復三寒夏再昌
【句形】
七言絶句、仄起こり、下平7陽(光、涼、昌)
【語釈】
貪涼…江戸・江馬細香・夏夜「深夜貪涼窓不掩」
忘身…資治通鑑「又有甚者、桀紂乃忘其身、亦猶是也」
三寒…適切な気候。「三寒四温」
【訓読】
邁邁たる慈雲酷光を蔽ふ 隆暑にありといへども涼を貪るを楽しむ
唯だ憂ふ国を富ませ利に身を忘れ 三寒を復せず夏再び昌んならしむるを
剥廬
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形影常同處 無間魍魎消 難居于甚近 一遠剥廬凋
【句形】
五言絶句、仄起こり、下平2蕭(消、凋)
【語釈】
魍魎…影のまわりにつく薄いもや。
剥廬…易経・山地剥「君子得輿、小人剥廬」
【訓読】
形影常にところを同じくするに 間なくは魍魎消ゆ
甚だ近きには居りがたし 一たび遠ければ廬を剥がるるがごとく凋へん
深宮
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深宮長莫計 渡世自傾冥 難享潤身德 富何容敎寧
【句形】
五言絶句、平起こり、上平9青(冥、寧)
【語釈】
深宮…貞観政要・尊敬師傅篇「古來帝子生於深宮、及其成人、無不驕逸」
潤身德…大学・伝六章「富潤屋、德潤身」
【訓読】
深宮長じて計なし 渡世自づから冥に傾く
潤身の德はうけがたきに 富は何ぞ容れて寧からしめん
人境旅
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世言人境旅 何廣在池魚 不及遷騫道 内征如泰初
【句形】
五言絶句、平起こり、下平8庚(魚、初)
【語釈】
遷騫…司馬遷は全国を行脚し、張騫は中央アジアを歴訪した。
泰初…原初の境地。楚辞・遠遊第五「超無爲以至清兮、與泰初而爲鄰」
【訓読】
世は人境の旅を言へども 何ぞ広くゆかんや池にある魚
遷騫の道に及ばず 内に征かば泰初に如らんや
祕懷
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無種人源何不擧 投情力亂委縱語
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何空趁媚事餔糟 興盡新邦來後侶
【句形】
七言絶句、仄起こり、上声6語(擧、語、侶)
【語釈】
力亂…論語・述而第七「子不語怪力亂神」
趁媚…唐・韓愈・石鼓歌「羲之俗書趁姿媚」
餔糟…楚辞・漁父第七「衆人皆醉、何不餔其糟而歠其釃」
【訓読】
種なきは人の源なり何ぞ挙がらざる
情を力乱に投ずれば委ほしいままに語るに委ねよ
何ぞ空しく媚を趁ひて事糟を餔ふを事とせんや
興は邦を新しくすることに尽くし後の侶を来たらしめんことに尽く