早朝出知未暑之風・捨才・民嘉名・馬童歌・思生・眞士節何在
早朝出知未暑之風
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穿白蒼天焚玉陽 保神辛以早朝涼
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清風微撫却炎熱 中濕粗衣去外粧
【句形】
七言絶句、仄起こり、下平7陽(陽、涼、粧)
【語釈】
焚玉…晋・謝霊運・還旧園作「焚玉發崑峯」
【訓読】
白を穿つ蒼天玉を焚やす陽 神を保つには辛うじて早朝の涼しさを以てす
清風微かに撫づとも却つて炎熱たる 中りて粗衣をぬらし外の粧ひを去る
捨才
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先人厚學志文強 相遠何言文越疆
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書劍雙才終擇劍 國盈千駟賞心亡
【句形】
七言絶句、平起こり、下平7陽(強、疆、亡)
【語釈】
相遠…人間は学んでいくにしたがって一人一人違った者になっていくことをいう。
書劍…唐・高適・唐・人日寄杜二拾遺「豈知書劍老風塵」
千駟…論語・季氏第十六「齊景公有馬千駟、死之日、民無德而稱焉」
【訓読】
先人学を厚くして志は文強たり 相遠しとは何の言ぞや文は疆を越ゆ
書剣ふたつの才あれどつひに剣を択び 国千駟に盈つるも賞心亡ぶ
民嘉名
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青蠅諤諤越呉情 宜獲善隣三者行
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旭日菊華何以益 因君必不姓嘉名
【句形】
七言絶句、平起こり、下平8庚(情、行、名)
【語釈】
三者行…論語・述而「三人行、必有我師焉」
旭日菊華…民衆からではなく、国家や御偉方から与えられたもの。そんなものによりたのむことに利益があろうか、の意。
【訓読】
青蠅諤諤たり越呉の情 宜しく三者の行ひに善隣を獲べし
旭日菊華何ぞもって益せんや 君に因りては必ずしも姓の嘉名ならず
馬童歌
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許多天下馬童徒 自利無憂忠節拘
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亂極皆好傷管鮑 落英唯識鳥啼塗
【句形】
七言絶句、平起こり、上平7虞(徒、拘、塗)
【語釈】
馬童…呂馬童。項羽に仕えたが後に裏切り、戦場で彼と会った時には顔をそむけた。
管鮑…打算や損得勘定を抜きにして厚い友情と信頼を関係を結んだ管仲と鮑叔。
【訓読】
許多なり天下の馬童の徒 自ら利して忠節に拘はるるを憂ふるなし
乱極まらば皆好みて管鮑を傷り 落英ただ識る鳥の塗に啼くを
思生
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鬼如延佇地 樂土若黄泉 九逝曖其別 思生玄又玄
【句形】
五言絶句、平起こり、下平1先(泉、玄)
【語釈】
鬼…死者の霊。
樂土一句…ラテン語の寸言Et in Arcadia ego(私〈死〉はアルカディア〈楽園〉にもいる)を踏まえる。
九逝…何度も肉体から魂が遊離すること。
玄又玄…極めて深遠なこと。老子「玄之又玄、衆妙之門」
【訓読】
鬼もし地に延佇せば 楽土も黄泉のごとくならん 九逝其の別を曖かにせん 生を思ふは玄のまた玄
眞士節何在
百言渾渾廣 邪智潜爭鳴 自人失實來 阿世徒求榮
佞臣勸由徑 誰知張儀情 雖壯惑太一 於是悟士誠
前途帯慘氣 高低路不平 宜建格物基 内養撫劍聲
【句形】
五言古詩、下平8庚(鳴、榮、情、誠、平、聲)
【語釈】
由徑…小道にたよる。論語・雍也第六「行不由徑」
張儀…諸国を遊説の間にさまざまな苦労をしたが、「舌さえあれば十分だ」と言って
太一…道教における神の一柱。
士誠…孟子・公孫丑章句下「士誠小人也」
【訓読】
百言渾渾として広まるに 邪智争鳴に潜む 人実を失いてより 世におもねりて徒らに栄を求む
佞臣径によるを勧め 誰か知らん張儀の情を 壮と雖も太一に惑ひ ここにおいて士の誠を悟る
前途惨気を帯び 高低路平らかならず 宜しく格物の基を建て 内に撫剣の声を養はん