望郷・羈心・偶成・稱小説・阿里阿陀耳
望郷
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相似山河改衆城
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夷如祖地爲生耕
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睿因流恨異郷土
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遠嘆舊都非我京
【句形】
七言絶句、仄起こり、下平7庚(城、耕、京)
【語釈】
睿…東晋の初代皇帝、司馬睿。劉淵によって首都を追われ、建康に遷都した。
【訓読】
相似たる山河衆を改たむる城
夷 祖地のごとく生のために耕す
睿は因り恨を異郷の土に流し
遠嘆く 旧都 我が京にあらざるを
羈心
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天性施人雄躍心
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人皆不必出舊林
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離群難處醉閑寂
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常御齊驅黄壤沈
【句形】
七言絶句、仄起こり、下平12侵(心、林、沈)
【語釈】
離群…孤独に生きること。東晋・謝霊運・登池上樓「離群難處心」
常御…時間の変わらない流れ。東晋・陶淵明・雑詩「歳月有常御」
黄壤…黄泉の国。
【訓読】
天性 人に雄躍の心を施すに
人皆 必ずしも旧林を出でず
離群 閑寂に酔ふに処しがたきに
常御ひとしく駆りて黄壌に沈ましむ
偶成
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我所爲文唯我能
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雖陶豈識此趣凝
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然思至意亡微愛
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常著應推才自騰
【句形】
七言絶句、仄起こり、下平10蒸(能、凝、騰)
【語釈】
至意亡微愛…あまりに極まった情熱は好きな心を損なう。荘子・人間世篇第四「意有所至而愛所亡」
常著…文章をいつも書き続けること。東晋・陶淵明・五柳先生伝「常著文章自娯、頗示己志」
【訓読】
我がつくる所の文は唯だ我のみ能くす
陶といへども豈に識らんや此の趣凝りかたまるを
然れども思へ至意は微愛を亡ぼすなり
常に著すはまさに才の自ら騰るを推すべし
稱小説
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素隱賢人以爲虚
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近求非理與怡如
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今人無笑莊君話
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小説同盈足語書
【句形】
七言絶句、仄起こり、上平6魚(虚、如、書)
【語釈】
素隱…隠された進歩を求めること。中庸・第十一章「素隠行怪。後世有述焉」
小説…『ノベル』のことではなく、つまらない話。
莊君…荘子の中には奇想天外な話が多く載っている。
【訓読】
隠れたるを素むるは賢人以って虚しとなす
理にあらざるを求むるに近くも怡如を与ふ
今人笑はず荘君の話
小説同じく語るに足る書に盈つ
阿里阿陀耳
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忠君士武均黄翁
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行軍楚歌不敵雄
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悵而側無田妙計
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徒流砂上老頭蓬
【句形】
七言絶句、仄起こり、上平1東(翁、雄、蓬)
【語釈】
阿里阿陀耳…アリ・アタル。ボアブディルに仕えた伝説的な将軍。1483年、ルセナの戦いでスペイン軍に抵抗し戦死した。
黄翁…三国時代の老将、黄忠。
田妙計…田単が斉を救うために用いた奇策。
【訓読】
忠君士の武 黄翁に均し
行軍の楚歌 雄に敵せず
悵而たり側に田の妙計なきとは
徒らに流る砂上老頭の蓬れ