巴塞羅那・古蘭尾・鳥居二首
巴塞羅那
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死生同処語城奇
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外寇頻来復主慈
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是亦國糧包府壁
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至今民盛願無羈
【句形】
七言絶句、平起こり、上平4支(奇、慈、羈)
【語釈】
死生同処…985年七月一日、後ウマイヤ朝の侍従アルマンソルはバルセロナを破壊する。バルセロナ伯ボレル二世はフランク王国からの独立の必要性を強く感じ、カタルーニャの成立の契機となった。
外寇…バルセロナはナポレオンによる侵略や20世紀の内戦においても戦場となった。
包府壁…スペイン継承戦争後、バルセロナを監視するために建設されたシウタデラの城壁。20世紀末取り壊された。
無羈…カタルーニャはスペイン王国の一部となってからもたびたび独立運動が巻き起こった。
【訓読】
死生処を同じくす語城の奇
外寇頻りに来たりしも主の慈しみに復す
是亦国の糧なり包府の壁
今に至りて民盛んにして無羈を願ふ
古蘭尾
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緝緝古蘭曙
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玄黄宿寸聲
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如攻如怖懼
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耳朶世尊驚
【句形】
五言絶句、仄起こり、下平8庚(聲、驚)
【語釈】
古蘭…ムハンマドが神から啓示された経文であるクルアーン。クルアーンは大きく聖遷以後のマディーナ時代と以前のマッカ時代の二章に分かれており、基本的に後の部分ほど初期の啓示となっている。また、マディーナ時代の啓示が長く、具体的な法規定や戒律などの言及が多いのと違って、マッカ時代の啓示はほとんどが短く、難解で祈祷文的な性格を帯びている。
緝緝…ささやくさま。小雅・巷伯「緝緝翩翩」
【訓読】
緝緝たり古蘭の曙
玄黄寸聲に宿る
攻むるがごとく怖懼せしむるがごとく
耳朶に世尊の驚きあり
鳥居第一
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深緑來源立鳥居
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安招怪異古郷閭
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人聲不至無復見
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更絶神威照寂墟
【句形】
五言絶句、仄起こり、下平7魚(居、閭、墟)
【訓読】
深緑来たる源に 立てる鳥居
怪異安く招く古郷の閭
人語臻らずまた見られずとも
神威更に絶まり寂墟を照らす
鳥居第二
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遠呼王命進軍社
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建逐蕃神姿豈雅
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帝國一崩沈怨恨
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今唯殘跡老荒野
【句形】
五言絶句、仄起こり、上7魚(居、閭、墟)
【語釈】
遠呼一句…戦前、海外植民地に建てられた神社を指す。戦後、全て廃止された。
【訓読】
遠く王命を呼び進軍する社
建たられ蕃神を逐へば姿豈に雅びならん
帝国一たび崩ずれば怨恨に沈み
今唯だ残跡 荒野に老ゆるのみ