兄弟神の過ち
大陸極東の小島には伝説がある。
かつて人と神との距離がまだ近かったころ、この一帯は双子の神の住む地であった。
兄は山に神殿を作り人々に狩りの成功を与える狩猟の神、弟は海辺に居を構え人々に漁の成功を与える豊漁の神であった。
ある日のことだ、ほんの些細なことで二人は喧嘩をした。
酒の席でどちらが人に恩恵を与えるのか、といった内容でもめたのだ。
豊漁による食の恩恵を誇る弟に対して、兄は狩猟による食の充実だけでなく得た獲物の皮をなめし服等の生活に使い生活を豊かにしていると誇った。
売り言葉に買い言葉だろうか、兄と弟はそれをきっかけに激しく言い争いどちらが人により恩恵を与えるかを争うようになった。
兄は野山を行く狩人に解体に困るほどの鹿の群れを、弟は漁師達に網からあふれるばかりの魚の群れを与え続けた。
そんなことがしばらく続いた後、兄弟はとあることに気づいたのだ。
毎年人々から届けられる供物の量が少なくなっていること、そして以前は溢れんばかりの食料に喜び溢れていた人々の顔に以前の生気がないことに。
兄弟は祭壇に祈りを捧げにきた信徒に、人々の置かれている状況を問いただした。
聞くところによると、山・海ともにそもそものとれる量が減っていき、村も限界だというのだ。
驚いたのは双子の神である。
彼らは人々に与える恵みの力を依然と全く同じに与え続けていた。
それなのにどうしてか。
あれらは与え過ぎていたのだ。二人で競うように恵みを与えた結果、山からは獣の姿が消え海からは魚の泳ぐ姿がなくなった。
求められるがままに恩恵を与え続けた彼らは獣や魚の数まで気が回らなかった。
彼らは深く反省した。
兄弟で争うあまり、何も考えずに恵みを与えすぎたことを。
そして彼らは人々に必要な分だけ恵みを与えることに決めた。
人々だけでなく、大自然に息づく獣や魚もその数を減らしすぎることなく過ごせるように。