おとなしく私を抱きしめろ
「おとなしく私を抱きしめろ」
「ふえ!?」
放課後の美術室。夕日がわずかに窓から漏れ出る。もともと極端に少ない美術部員は、俺と彼女の2人だけだ。なのにこの状況はなんだ。
「無駄口たたくな。いいから早く」
彼女に迫られ、半ばヤケクソで彼女を抱き寄せた。細い腰、柔らかい肌、感じる息づかい。彼女も僕の体に腕をからめ、ぎゅうぎゅうと体を押し付けてくる。甘い匂いが鼻をくすぐった。
恐るおそる、彼女の腰にまわす腕に力を込めた。恋人関係でもない彼女に、僕はこれ以上どうしていいかわからない。
「どうしました。何かあったんですか」
「……」
彼女は何も言わない。代わりに俺の体を思いっきり締め上げてきた。ちょっとちょっと、 本当にどうしたんだ。いつもの強気な部長はどこにいったんだ。
「……頭もなでろ」
思わず吹き出しそうになったが、ここでからかうのは良くない。片方の手で、彼女の小さな頭をゆっくり撫でる。どれくらい時間がたったんだろうか。ひどく長く感じた。少し体を離して、様子をうかがう。
「落ち着きました?」
彼女はこくんとうなずくものの、体は震え、鼻をすする音が聞こえる。
はあ、仕方ない。
「もう少しだけですよ、部長」
「すまん、小峰」