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要注意人物?『ルイス・カナン』

朝からサーサーと静かに降り続く雨。それは、昼になっても一向に止む気配を見せなかった。


なので、普段は外で食べている昼食だけど、今日は仕方なく教室で食べている。自作のサンドイッチを心の中で、美味い美味いと自画自賛し、黙々と口に運ぶ。


何故、今日は騒がないのか(いや、いつも騒ぎたくて騒いでいる訳ではないんだけどね)と言えば理由は簡単だ。話し相手が居ない。それだけ。


ちなみに、普段はエリザと一緒に昼食を取っているんだけど、エリザは今日は食堂に行っている。(家同士で付き合いのある侯爵家のご令嬢の先輩から、昼食に誘われてしまったので断われなかったらしい。上級の貴族も大変だね)だから、私一人だ。ちょっと退屈だ。


しかし。退屈だからと言って、私一人で食堂に行く気は無い。

食堂に行くと、親の権力を傘に来たモブ嬢達が何処からともなく、うじゃうじゃ湧き出てきて色々とギャーギャーうるさいからね。

そこに、エリザが居たら居たで…モブ嬢に加えて、第二王子の婚約者へのゴマすり勘違い集団も(俺の家は侯爵家で偉いんだぞー!とか、ウチは由緒ある公爵家だ…等と、爵位を継いでもいない癖に普段からムダに偉ぶるヤツが)エリザに自分を売り込み、あわよくばファレス王子への橋渡しをして貰おうと目論んでやって来る。


そして、ついでに私も。エリザと付き合うには身分が不釣り合いだとか(一応、従姉妹なんですけどね…)、下級貴族は平民並に逞しい神経をお持ちなのねぇ等など。遠回しに、ネチネチネチネチと、ねちっこいイヤミを言われる。面倒な事この上ない訳だ。


まあ…教室は教室で、学院では少ない平民組の皆さんが仲良くランチタイムをしているから…こっちは、こっちで居辛いんだよね。

私の場合…下級貴族だから、あからさまに避けられたりとか嫌がられたりはないけど、できればあまり関わりたくないのだと思う。(だって、みんな目が合っただけで物凄い速さで視線を逸らすんだよ……私、噛み付いたりしないよ?)


長くなってしまったが、そういう訳で普段は別の場所で食べていると言う訳だ。


「あれー?珍しいね、エレンが教室でお弁当なんて。それに一人とか、もっと珍しいな!」


いや、平民組にも例外が居たな…。て言うか、あんたは隣の隣のクラスだろう!?何故ここにいる!


そう口から出掛かった言葉を、咀嚼していたピクルスと一緒に飲み込んだ。


声を掛けてきた彼の名はルイス・カナン。

サラサラした真っ直ぐな栗色の髪に、明るめの茶色の目をした少年で、人懐こく、爽やかな笑顔が密かに女子に人気の『いつなみ』攻略対象だ。

最初、攻略対象のルイスだと解らなくて、初めて声を掛けられた時。気さくに話してしまったら、友達認定をされてしまっていた…。

何故、攻略対象だとすぐに気づかなかったのかと言えば…


『いつなみ』でのルイス。彼は初登場時は大人しい少年で、前髪も長め、黒縁眼鏡を掛けていて顔を隠していた筈なんだけど…何故か、前髪短いわ、眼鏡も無いわ、おまけに明るいわ…で。しかも、同じ学年に“ルイス”という名前を持つ男子生徒が四人も居た。(攻略対象が本当に居るのか、クラス発表の際に全クラスの発表を見て、名前だけは調べていたんだけど“ルイス”に関しては『多いなっ!?』って思ったんだよね…)

なので、モブのルイスだとばかり思っていたのだ。『いつなみ』通りならば、地味眼鏡…いや、控え目で大人しい眼鏡を掛けた少年がルイスなのだから。


知り合ってしまったものは仕方ない、と。会えば世間話をする位の仲だったりする。


「…っ、ええ。今日は外、雨でしょう?だから、ここで済ませようと思って。エリザは今日は食堂に行っているの。そう言うルイスこそ、うちのクラスに何か用事?」

「俺はライアンに借りてた本を返しに来たんだ!」

「…こんなに明るかったら、普通…気づかないよね」

「ん?何だ、エレン」

「ううん、何でもないわ」


ライアンとは彼の友人で『いつなみ』作中では名前しか出てこなかった男子生徒。クラスメイトの一人だ。


キョロキョロと教室内を見回してみる。ライアンの姿は見えない。


「ユージーン君(ライアンの名字だ)、居ないみたいだけど?」

「ああ、今先生に呼び出されて教員室に行ってる。教室(ここ)で待っててくれって言われたんだ!…なあ、ところでエレンが食ってるやつ、美味そうだな!」


サンドイッチが入ったランチボックスを指して、ルイスは『美味そー!』とキラキラした目を私に向けてくる。お腹空いてるのか?


「よかったら、一つ食べる?」

「えっ、良いのか!?いやー、悪いなぁ!」


とか言っといて、ルイスはササッとサンドイッチを一つ取っている。素早いな。


「頂きます!…ふわっ!ふまひっ!」  


ばくっと、一口で半分位を口の中に入れ、もぐもぐと咀嚼しながら『うわ!美味い!』と言われて…


おいおい。食べながら喋るなよーと、思ったけど。美味いと褒められたコトは…ちょっと嬉しかった。


「そう?それなら良かった。でも、飲み込んでから喋ってね?」


そう言うと…ごくんと。口の中の物を飲み込み、ルイスはニカッと、今日は全く顔を出す気配がないお日様みたいな明るい笑顔を浮かべて『おう!』と元気よく返事をしてきた。


…ホントに『いつなみ』のルイスとは、違うなぁ。


『いつなみ』のルイスは、最初は凄くオドオドした態度を見せているけど、段々エレンと打ち解けて来ると、実は腹黒い(おまけにトゥルー以外のエンドだとヤンデレ化したり、睡眠薬入り紅茶で眠らされて強引に駆け落ちさせられてたり…おまけにBGMがまた、ぴったり合っていたから余計に怖かったんだ、これが)正体を見せて来るキャラなんだけど…


今のルイスは…爽やかワンコ系?


「おい、エレン。どうしたんだ?具合でも悪くなったのか?」


ピタッ


ルイスが私の前髪を上げて、額に手を当てた。


「ん〜、熱は無いみたいだぞ?でも…念の為、医務室に行くか?」

「う、ううん。大丈夫よ、ルイス。心配してくれてありがとう」


心配そうな表情を浮かべながら。首を傾げ、私と目を合わせるルイス。


「それなら良いんだけど、無理はするなよ?」

「う、うん…!」


やべー、このワンコ撫で回してぇ!!と、暴走仕掛けた所に…


「ルイス、待たせてごめんな〜!」


ライアンが、やって来た。あ、危なかった。右手が不自然に上がっちゃってたからね!


「おー、ライアン。いいよ!少ししか待ってないし、エレンと話してたから退屈しなかったし。あ!本ありがとなー!」

「そっか!それなら良かった!…けど、マリノーラさんに失礼な事しなかっただろうな?」

「してないよ!」


むしろ、私が失礼な事をしそうになっていた所です…!とは、言えない。


「エレン!ライアンが来たから俺は教室に戻るね!…その、さっき貰ったサンドイッチ美味かった!今度また食わせてくれよ!」

「ええ、また機会があったらね」

「おう!楽しみにしてる!んじゃ、ライアン。待たな!」


そう言って、ルイスは自分の教室へと帰って行った。


「…何かルイスがご馳走になったみたいで、すみません」


ライアンが後頭部に手を当てて『いやぁ、うちの息子がすみません』みたいな態度で軽く頭を下げた。と言うか実際、親の台詞のようだ。


「いえ、私も一人での昼食でしたから、ルイスと話していて楽しかったです。彼は、とても明るい人ですね」


そう言うと…


「ははは…そうですね。今はあんな風に明るいですけど、昔は今と違って、あいつ凄く大人しかったんですよ〜」


『想像できないでしょう?』と続けるライアンに、いつから今のようなルイスになったのか聞いてみようと思ったけれど、ライアンはルイスから返して貰った本を机の中に、そして…自分の弁当を鞄から取り出すと『それでは』と会釈して、昼食をとる平民組の仲間達の元へと行ってしまったのだった…。






それから、間もなく。


「…ただいま」

「おかえり、エリザ。お疲れさまー」


エリザは食事を手早く済ませて、席を立って来たようだ。


「何か、周りがゴチャゴチャ煩くて食べた気がしないわー」

「よしよし。頑張ったエリザには、エレン特製スタミナサンドイッチをご馳走しよう!」

「え?何。マムシとか入ってんの?」

「入ってないよ!?」


無理でしょ!マムシ入りとか無理でしょー!?


「冗談。頂くわ…あー、サンドイッチとか懐かしいわ。美味しい」

「ふふっ、でしょ?たまに食べたくなるんだよね。日本でならコンビニでも買えちゃう物なのにね〜」


『いつなみ』の世界…と言うか、少なくともこの国にはサンドイッチが無い。似たような物としては、ホットドッグが一番近い物かもしれない。

パンはコッペパンやロールパン、クロワッサンが主流な為か、食パンは見た事が無かった。だから、小さな頃。サンドイッチが食べたくなった時、家に居る料理人(うちは料理人と言っても一人しか居ない)に、食パンの絵を書いて、こういうパンを焼いて欲しいと頼み込み、よく焼いて貰ったものだった。

ちなみに今も時々、実家から食パンを焼いて送って貰っている。


「さっきもね、ルイスに一つ上げたんだけど好評だったよ。サンドイッチ、美味かったって」

「…ルイスって、ルイス・カナン?」

「うん」


頷くと、エリザは思案顔になった。え?何?どうしたの?


「あのー、エリザ?どうしたの?」

「……なんで」

「え?」


エリザはハムとチーズの挟まったサンドイッチを見つめて呟いた。


「ルイスは『サンドイッチ、美味かった』と言ったのよね?アンタは、これをサンドイッチという物だと彼に教えたの?」

「うん、そう言ってた…けど、サンドイッチだとは教えてない。………あ、あれ?なんで…」


そう言えば、ルイスは当たり前のように、サンドイッチと口にしていたから…気付かなかった。


「えっ?えっ?…エリザが教え…」

「られる訳がない」

「…よね」


エリザと二人で顔を見合わせる。


「ルイス・カナン…怪しいわね」

「うん。臭う。臭うよ、エリザ」


と、言ったら『私が臭いみたいに言うな』と怒られた…。






とりあえず、『ルイス・カナン』は要注意人物みたいです。


“ここまでのストーリーをセーブしますか?”

→YES

 NO



…うん?セーブ?…するよ、するする。(今は、ルイスの事で頭が一杯です)


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