(2)
今回、短めです。
本来なら、ここで試合を見ていたエリザがファレスのもとへ行き、強く握り締められていた彼の手に、辛そうな表情を浮かべながら自分の手をそっと添えて…
『…ファレス様。そんなに強く握り締めていては、手のひらに傷を負ってしまいますわ』
…と、手の力を緩めさせる、エリザベスがファレス王子を思いやる場面が見られる筈なんだけど。エリザは何かを考えているような難しい表情のままファレスを見ていた。
「ねぇ、エリザー…」
小さく名を呼ぶ。エリザに私の言いたい事は伝わっている筈だ。ファレス王子のところに行ってあげなよー、と。
これは、決して二人をくっつけたいからってだけじゃないからね!?
「ハァ…やっぱり見に来るんじゃなかったかな…。私もまだまだ、だわ」
エリザは『まあ、私の場合はフラグ立つ訳でもないからね。少しだけ…あの人と話してくるわ』と。どうしたらいいか解らず、おろおろしている審判をしていた男子生徒とファレスの下へと向かって行った。
結局。エリザは『仕方のない奴だなー』みたいな顔をしていたけど、本当は…多分、少しはファレスの事が気になったのではないかなと思った。
何だかんだ言っても、前世の記憶を思い出す前から…小さな頃から知っている幼馴染みでもある訳だし。
「………幼馴染み、か…」
そう呟いて、ふと脳裏に蘇ったのは…
『絵麻ー!擦りむいちまったー!手当てしてくれよー!ここ、ここ!肘のとこ!』
『絵麻ー!風邪だって?見舞いに来てやったぞー!って、うわっ!?こっち向いてクシャミすんな!汚えな!?…あー。ほら、鼻水垂れてんぞ。ティッシュ使え…俺のじゃないけど。それから、これ。お前オレンジジュース好きだろ?やるよ』
『絵麻ー!これ、見てくれよ!俺の車だぞ!格好良いだろう?特別にお前を助手席に乗せてやる!泣いて感謝するがいい!…あ?バカッ、傷を付けようとすんじゃねぇよ!悪質すぎるぞ!!』
もう、ぼんやりと…顔もよく思い出す事ができない幼馴染みとの記憶だった。
上手く言えないんだけど…悲しいような、切ないような…けれど懐かしくて、懐かしくて…思い出せた事が、嬉しくて。涙が出そうだった。
(―――元気に、しているかな?…うん、アイツなら。きっと元気にしてるよね)
あれは、絵麻の日常の中のほんの些細な事に過ぎなかった事だ。でも、その些細な事が、どれだけ幸せな事だったのか…今ならよく解る。
今の私…エレンも乙女ゲー厶の主人公なんてポジションだけど、決して不幸なんかじゃない(こんな言い方したらエリザに怒られそうだなぁ。私なんて悪役令嬢よ!?って、ね)…けれども。
「……忘れたく、ないなぁ」
エリザとファレスの恋仲ではなくても、友情はあるだろうやり取りを見ていて、そう思ってしまったのだった。
ふと、目が合ったエリザに口パクで『先に帰るね』と告げ、軽く手を振って。私は一人剣技場を後にした―――。
サブイベント『幼馴染み』をクリアしました。
“ここまでのストーリーをセーブしますか?”
→YES
NO
…って!おいおい。人がしんみりしてる時に、これはないだろ!?え?仕様?仕様なのこれ?!