サブイベント『幼馴染み』が発生しました。
「う〜ん、良い天気ね!こんな日は洗濯物がよく乾きそうだわ!ねぇ、エリザ。そうは思わなくって?さて、と。そんな訳だから、私は今からお洗濯をしてきますわ!」
雲ひとつない青空から優しく降り注ぐ太陽の光がとても眩しくて。木々からは、元気に鳴き、羽ばたいて行く小鳥たち!ああ、今日も素敵な一日になりそう!
「良い天気なのは認めるけど。どこの主婦だよ。少なくとも“エレン”は洗濯なんてした事ないでしょうに…こら、どこへ行く気よ?エレン」
「頼む。エリザよ、見逃してくれ。私は、そう。洗濯がしたいのだ…命の洗濯という洗濯を!」
「あー…ハイハイ。そういうのは…まった来週〜!」
「来週もっ、絶対に見てね!ミャハ☆…って、何つまらない事をやらせるかなー」
「乗ったアンタもアンタだけどね」
さて、エリザとコントをしていても良いのだけど(え?良くない?)…まあ、話が進まないので、今の状況を説明しましょう!
今日は、ヒロインのエレンが居るメインイベントではなく、サブイベントが某所で起きる…筈。
なぜハッキリ言い切らないのかと言うのは、サブイベントが起きている現場が、今いる場所(女子寮に居るよ!)ではないから。
まあ、私が関わらないイベントだからさー、勝手にやってくれたまえよ!ハッハッハッ!と、我関せずで休日を過ごそうと思っていたのに…このサブイベント。実はエリザが少しだけ関係しているものなのだ。別に行かなくてもいんじゃね?と言ったのだけど、エリザはサブイベントが気になっているようだった。
そんなエリザに『おねがぁい!エリザ…エレンが居ないと、ダメなのぉ!だから一緒に付いて来てぇ〜』と、お願いされてしまったので、苦手な数学の課題を写…教えて貰う事で手を打…ってぇ!?痛いなっ!誰だ!?私の軽いオツムを遠慮なく叩いたのは!うむ、エリザしか居ないな!
「エリザさん?痛いのですけど?」
「何か勝手に変な妄想でもしてそうだったから叩かせて貰ったわ」
「…容赦ないね?頭のてっぺんが痛いんだけど…」
「ハイハイ。痛いの痛いの飛んで行けー」
「わあ!すごーい!痛くなくなったよぉ!……んな訳あるか!普通に痛いわ!」
頭を手のひらで擦っていると、エリザは真面目な顔で…
「ねぇ、エレン。アンタは嫌かもしれないけど、“彼”も攻略対象の一人なんだから、一応見ておいた方がいいわよ。確か、彼とは面識無かったでしょう?だからすれ違う位なら問題ないと思うのよ。…それに。数学の課題の為にも見ておいた方がいいわよ」
そうだ。数学の課題がかかってるんだったな。あれ?サブイベントと数学の課題に何か関係あるの??…あ。見に行かねーなら、数学の課題は見せねーぞ的な意味ですね。わかります。
『とにかく、このサブイベントはエレン関係ないんだし、大丈夫、大丈夫!』と、エリザは私の手を引いて歩き始めた。
「わかったよ。でも…私は念の為、離れて見てるからね?…数学の課題も忘れるな?エリザよ」
「わかってる、任せろ」
エリザは空いている方の手の親指をグッと立ててイイ笑顔を見せてくれた。
向かう先は学院の剣技場。名前の通り、剣の稽古が出来る施設で、休みでも開放されており、そこでは貴族の(真面目な、と付け足しておこう)男性が殆どだけど、騎士を目指す平民の男性や、女性騎士を目指す女性も、少数だけど稽古をしている。
「きゃああああ!お二人共、素敵ーっ!!」
「ファレス様ーっ!!」
「エルヴァ様ーっ!!」
きゃあきゃあと、女子達の黄色い声援飛び交う今日の剣技場は、普段に比べてとても賑やかである。
…と言うのも、ここに第二王子・ファレスと、ヴェルニア国、宰相であり公爵位を持つ、ルーベンス公爵家の美形なご子息…エルヴァ・ルーベンス攻略対象様が居るからだ。
エルヴァは通常、薄い紫色の長い髪を、赤いリボンで緩く一つに束ねて肩から胸元に掛けているのだけど、今日は剣の練習試合をしている為、ポニーテールのように高い位置で髪を結んでいた。(レアな髪型だ…!目の保養になるね!)
そして、髪の色よりやや濃い色の紫の目は、右目だけは昔、ある事をキッカケに視力が落ちてしまい、モノクルを着けているんだけど、そのモノクルがまた彼に似合っていてイイ。ああ、エルヴァ。素敵だなぁ…見ている分にはだけど。
ちなみに、エルヴァは『いつなみ』での私の本命キャラだった。彼は、儚げ&お色気担当キャラだった。そう言うキャラに弱いんだよね〜!(え?この情報はいらない?)
「…んじゃ、私はあの辺の群れになっているモブ嬢達に紛れてるから!エリザ、いってらー!…って、あれ?行かないの?」
「ええ。行かないわよ?」
え?そうなの?
「じゃあ、何でここに来たのよ?気になってたんじゃないの、このイベント」
「ああ、イベントに加わる気は無いのよ。…ただ、せっかく『いつなみ』の世界で、おまけに今は『いつなみ』の期間中でしょ?アンタに協力もするけど、サブイベ位は見たいかな〜って」
え?そうなの?(繰り返しちゃったじゃん!)
「確かに…言われてみればサブイベ位は見たいな。自分が関わっていないやつなら」
「でしょ!?…ねぇ、アンタは見たくなかった?あの二人の練習試合」
見たいか、見たくないかと聞かれたら…
「そんなの…!見たいに決まっているではないか、友よ!…従姉妹よ!」
「別にそこは言い直さなくてもいいわよ」
私とエリザはモブの群れに(いや、多分。殆ど、ご令嬢達だと思うけどね)紛れながら、ファレスとエルヴァの試合を眺めていた。
ガキィィイン…!!
片方の練習用の刃が潰されている鉄製の細みの剣が、空中に高く上がり、すぐに落下し、ドスッと音を立てて土の上に刺さった。
「勝者!ファレス王子!」
審判をしていた男子生徒がファレス側に手を上げ、勝負が着いた事を知らせる。
「ありがとうございました、殿下。殿下は、やはりお強いですね」
エルヴァはファレスに向け、柔らかい笑みを浮かべて優雅に礼をし、練習用の剣を土から抜く為、ファレスに背を向けて、その先にあった剣を引き抜き、剣についた土を振り払った。
「ああ…ありがとう、とでも言えば満足か?…エルヴァ。お前…今の手を抜いていたな?」
ファレスがエルヴァの背中に声を掛ける。そして。エルヴァは、ゆっくりと笑みを浮かべて振り向き…
「…いいえ?手を抜くなどと、とんでもない。私は全力を出して貴方様に負けたのです。ああ、一試合だけと言うお約束でしたよね?それでは、私はこれにて御前を失礼致します、ファレス王子殿下」
ファレスに対しお辞儀をし、審判をしていた生徒にも審判の礼を告げて、エルヴァは、この話はもう終わりだと言わんばかりに、ファレスの話を聞く事なく剣技場の出入口へと颯爽と歩いて行ってしまった。
残ったファレスは、悔しそうにギュッと剣の柄を握り締め、その場に立っていたままだった。