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ふふん。スヴェン王子は“氷の王子”と呼ばれるクールな美形だ。他人はおろか、身内にすら中々気を許さず、人を寄せ付けない…って。取説(あ。取り扱い説明書ね)に書いてあった。


だから、私の事にも興味はないだろうから、氷の王子からの返事は『結構だ』とか『私の事は放っておいてくれ』辺りだろう。そうして、このイベントは失敗するだろう…と読んでの行動だったのだけど…


「…ああ。それでは、宜しく頼む」

「はい!わかりました…わ?」


あ、あれ?なんで?


王子…ああ、紛らわしいな。氷…スヴェンの方ね。彼は、少しだけだけど口角を上げ微笑むと…


「医務室に向かえばいいか?」


そう言って、ゆっくりと。私がすぐに追いつけるような速さで歩き始めてしまった。


そして、戸惑いながらもスヴェンの後を着いて行く途中で、こちらに向かって来るエリザと、すれ違った。


スヴェンが居るから『エリザ、裏切者ー!!』と大きな声では言えなかったけど、その分を目で訴えた。しかし、スルーされた。強いな、エリザ。


エリザは、スヴェンにお辞儀をして私達の横を通り過ぎていく。すれ違いざまに小声で…


「ファレス王子の方は任せて」


そう言い、さっきまでは手に無かった、水で濡らしたハンカチをチラッと私に見せ、ファレス王子のもとへと歩いていった。


あ、エリザが居なくなっていたのは、ファレス王子を手当てする為か。気が利くなー。けど、もう少し早く戻って来てくれてたら、余計な事を言ったりしなかったんだけどなー…。


「どうかしたか?歩くのが速すぎただろうか?」


スヴェンが振り返る。いつの間にか少し距離が開いていたようだ。


「いえ、何でもありません。歩く速さも問題ございませんわ。私がぼんやりとしてしまっただけです。お気を遣わせてしまい申し訳ありません」


少し早足でスヴェンに追いつくと、スヴェンは私の頭の辺りをジッと見ていて、何だ?と思っていると、ふと影が差し…


「失礼」

「えっ?」


…良かった。『でえええっ!?』とか奇声を上げなくて。


「髪に、葉が付いていた」


…うん、良かった。付いていたのが、芋けんぴとかじゃなくて…って!違うよ!何かと思ったよね!先に葉が付いてると言ってくれれば自分で取ったからね!?あー…びっくりした。体がくっつきそうな位に近い距離にドキッとしちゃったよ。


「あ、ありがとうございます」








そんな訳で…HPを削りつつ医務室に来ました。まさかの職員不在により、銀色の洗面器のような器に綺麗な水を汲んで、そこでスヴェンには綺麗に手を洗ってもらってから、小さな木の丸い椅子に座ってもらい、丸めた脱脂綿を一つ、脱脂綿の入ったガラス瓶からピンセットで取り出し、消毒液を染み込ませたそれをスヴェンの手の甲に、ちょんちょんと押し当てて行く。


「…っ」

「あ〜、この消毒液、沁みますよね。私も昔、怪我をした時にお世話になりましたけど、すっごく沁みて、手当てして貰っている最中だったけど椅子を倒して『ぎゃーっ!!』って言って飛び跳ねてしまったんですよ…あ」


大人しく手当てを受けるスヴェンを見ていたら。自分も昔は、よく走り回ったりして怪我をしていたが、前世でも、昔よく一緒に怪我をしていた幼馴染みが居たなぁなんて事を、ふと思い出したりして…つい気安く話し掛けてしまった。


「私ったら。余計な話をしてしまいました、申し訳ありません」


消毒を終えた手に傷薬を塗ったガーゼをあてて、その上から包帯を巻いていく。


「いや、構わない。ここは学院で君も私も、ここでは学生だ。だから、私に対してもファレスと同じように気軽に接してくれると嬉しい」


ちょっ、この人。本当に“氷の王子”なの!?別人じゃないの!?だって、さっきと言い、今と言い、小さくだけど笑ってくれてますよ!?


「スヴェン王子、ありがとうございます。そのように仰って頂けるなんて有難い事です。すぐには…その、難しいかもしれませんが、そのようにさせて頂きたいと思います」

「そうか。では、私の事はスヴェンと呼んでくれ。私も君の事をエレンと呼んで構わないか?」

「ええと…」


いやいやいやいや!随分と心の距離を一気に詰めてくるね!?


返す言葉に困り、視線を彷徨わせていると…


「駄目だろうか?」


ぎゃーっ!!…椅子を倒して跳びはねる事を耐えた私は偉いと思う。


絹糸のようなダークブルーの髪がサラリと左に流れ、あまり表情には出ていないが、ほんの少しだけ形の良い眉を下げ、空色の瞳で私を見つめてくるスヴェンに、ドギュン!と、まるで胸を撃たれたような気分になった。敵襲だ!敵襲だー!!…お、落ち着け?とにかく落ち着くんだ、私!


「だ、駄目ではありません。解りましたわ…いえ、解りました。スヴェン先輩。それから、手当て終わりました。包帯はキツくありませんか?」

「ありがとう、エレン。包帯も問題ない。こちらもありがとう」

「…っ、いえ!いや、その、怪我の手当ては慣れていますからっ!」


は、ははは、私のHPはもう黄色い数字なんだぜ…誰か私に回復魔法をかけてー!この世界に魔法ないけど!






…結局。後でエリザに聞いた話によると、私は『いつなみ』の“王子”のイベントの一つをこなしてしまったらしい…。

何かね『いつなみ』って完全版が出てたんですってよ?それでファレス王子のイベントには分岐が付いたんですって!エレンびっくり!

ああ。エリザ…本当に、もう少し早く戻ってきてくれていたら良かったのに…。


「えっ?知らなかったの?」


普通に驚かれたけど、ね。前世の記憶は全部覚えている訳じゃないからね?

完全版なんて素敵なものが、出ていた事なんて知らんがな…。


とりあえず、イベント名『氷の王子の微笑み』をクリアしたみたいです…。





“ここまでのストーリーをセーブしますか?”

→YES

 NO


…って!待て待て!待って!?ここRPGの世界じゃないからね!?乙女ゲー厶の世界だからね!?……そう、乙女ゲー厶の世界なんだよなぁ。


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