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イベント名『氷の王子の微笑み』(1)

春の穏やかな日差しが降り注ぐヴェルニア国立学院・高等部、校舎裏の一角にて。


「やーだー!やだやだやだやだー!」

「うーるっさいわ!アンタのイベントなんだから、アンタが収集つけて来なさいよ!」

「それが嫌だから嫌だって言ってるんじゃないのー!」


背中辺りまである、緩やかなウェーブが掛かった淡い桃色の髪をバッサバッサと横に振り、明るい菫色の瞳には、わかり易い位に拒絶の色が浮かんでいる。

まるで、小さな子供が駄々を捏ねるように『やだやだ』と頭を左右に振り続ける、そんな今の私の名前は、エレン・マリノーラ。マリノーラ男爵家の令嬢である。なぜ“今の私”と初めに付けたかと言うには理由がある。


私は、前世でハマっていた乙女ゲー厶『〜五つの涙〜』のヒロインである、エレン・マリノーラに転生していた事を知っているからである。


淡々と語ってはいるけど、ここが乙女ゲー厶『〜五つの涙〜』の世界だと知った時には、そりゃもう驚いたなんてものではなく、幼少の私の中に、前世の私、黒髪黒目の純日本人。苗字や他にも細かな事までは思い出せなかったけれど、絵麻(エマ)の記憶が蘇った時には数日の間、熱にうなされ寝込んでしまった位だ。…回復後には、エレンとしての記憶も、絵麻の一部の記憶も、しっかりと定着していたのでホッとした日の事は今もしっかりと覚えている。


そんな訳で、エレン(まあ、私だけど)は今『〜五つの涙〜』の攻略対象の一人。ヴェルニア国、第二王子ファレスのイベントに巻き込まれそうになっているのだ。いや、私がヒロインだから、巻き込まれそうになっている、とは言えないか…。


「ちょっと!エレン!遠い目をして現実逃避するのは後にしてよ!ほら!早くしないと、ファレス王子の顔がボコボコにされちゃう!」

「えー、エリザってば、王子に恋愛感情は無いって言ってたくせにぃ〜!やっぱり気になるの〜?」


憎いね、このこの!ついでに王子と結婚しちゃってよ!という思いを込め、身分は違うけど同い年の従姉妹であり、本来ならば悪役令嬢ポジションでエレンをいじめていた筈のエリザベスを肘で突付く。


「正直に言おう。王子の顔だけは『いつなみ』でも好みであった、と!」


うん、キッパリ言い切ったな。


エリザベスこと、エリザもまた『〜五つの涙〜』、通称『いつなみ』をプレイしていた元日本人の転生者だ。(道理で、いじめて来るどころか嫌味さえも言って来なかった訳だわ。正直、ゲーム内容を知っていただけに不気味だったなぁ…いじめられたい訳じゃないけど)

話せば長くなるので、この話については、今は横に置いておくが、語る機会があれば語らせて貰いたいと思う。


「…顔だけなんだ。まあ、解るけど。顔だけはいいよね、第二王子って」

「でしょう?だから、早くイベント済ませてきてよ!」


そう言った悪役令嬢(正に今、アンタはまごう事無き立派な悪役令嬢だよ…!嫌がる私に王子のイベントをやれ!と言っているところがな!)エリザにグイグイと押されて、隠れて様子を見ていた茂みから追い出されそうになっている。ええい!顔をグイグイ押すな。

いや、待てよ?ここで王子達に見つかってブサ顔を晒して、ドン引かれて…イベント強制終了。それいいと思う。よし、いいぞエリザ!もっとやれ。


ちなみに今起きているイベントは…確か『俺様王子のヤキモチ?』だ。ファレス王子お気に入りの下級貴族の少女エレンと、最近仲の良い第一王子であるスヴェン王子に対し、面白く思っておらず校舎裏に呼び出して牽制をするのだけど、スヴェン王子は済ました顔と態度で、ファレス王子を相手にしなかった。そんなスヴェン王子に腹を立てたファレス王子は、スヴェン王子に殴りかかるが、返り討ちにあい、顔を殴られる。そこへ偶々やってきたエレンが、ファレス王子の怪我を心配し、手当てをし、ファレス王子の好感度は上がる…というイベントだ。

それにしても、私はスヴェン王子と仲良くなってはいないんだけどな。そりゃ学年関係ない選択授業で会った時くらいは挨拶するけどさ…。勿論、ファレス王子とも仲良くなってるつもりはない。同じクラスで席が隣だけど必要以上には会話はしていない。


「ハァ…仕方ないわね。私も手伝うから、もうサッサとこのイベント終わらせない?」

「そうだね…」


ちょっと疲れてきたし。あー今、髪はボサボサ。服も土埃やら葉っぱがくっついてるかも。こんなヨレヨレな女子に手当てされたいとは第二王子も思うまい…。


ガサッとワザと茂みから音を立てて立ち上がり、ワザとらしく『あら?あそこに居るのは…ファレス王子!』なんて言いながら、既に殴る気満々、返り討ちにする気満々(のように見えてしまう)二人の王子達の元へと走り寄って行った。…あれ?エリザは?手伝うって言ったよね?あれー?エリザ、居ないんだけどー!?チッ、後で覚えてろよ!



「エレン…」

「君は、マリノーラ嬢か」


丁度良く…じゃない。ファレス王子がスヴェン王子に殴られたタイミングで二人のもとに着き、二人はそれぞれチラりと私の方に視線を向けた後。ファレス王子は尻餅をついたような格好のままスヴェン王子を憎らしげに睨み上げ、そんなファレス王子にスヴェン王子は、感情の読み取れない表情を浮かべていた。


そして、私はファレス王子のもとへ行こうとしたのだけど…そこで、気づいた。


このままゲーム通りにファレス王子を心配し、手当てをしてしまえばファレス王子の好感度が上がるんだよね…それなら!


私はくるっと体の向きを変えて…


「スヴェン王子!大丈夫ですか!?どこかお怪我はされていませんか?…ああ、手の甲が少し擦り切れて、腫れてしまっています。どうか、私に手当てをさせて下さいませんか?」


ファレス王子ではなく、スヴェン王子の心配を(するフリを)した。


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