それが、僕の名だ。
十六歳の夏、僕は死んだ。
そして、異世界に転生した。
待ってほしい、そんないい話じゃないんだ。
現代科学やネット知識を駆使して、異世界で暴れまわるとかそんな話じゃないんだ。
いいかい、普通、転生といえば異世界人に転生する。
僕は、異世界に転生したんだ。
この違いがおわかりだろうか。
つまり、異世界こそは僕で、僕こそは異世界だった。
僕の意識は拡散され、世界中のどこでおこなわれていることだって知覚できた。
火の中、水の中、草の中、森の中、土の中、雲の中――それこそあの子のスカートの中だって。
その気になれば、僕にわからないことはないんだ。
僕の体は、動かない。
当然だ。異世界自身である僕には、体なんてないから。
しいていえば、この大地とこの空が僕の体ということになるだろうか。
動かそうと思えば、動かせないこともないし。
でも、それはなんていうか、指差し棒を使ってキーボード入力しているみたいでもどかしい。
本当の僕の手足ってわけじゃない。
はっきりいって、騙された。
死んだ僕の前に女神さまって人が現れて、契約書を書かされたんだ。
異世界に転生できるというから、喜んでサインした。
皆も気を付けてほしい。日本語は難しいんだ。
異世界人に、とちゃんと契約書に明記していない場合は、担当の部署に問い合わせた方がいいと思うよ。
そういうわけで、僕は異世界をやっている。
タナカ・ヨウイチロウ――それが、この異世界の名だ。