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罪火

作者: グロリオサ

この小説は、部活の部誌にも書く予定です。


特にそれと言った紹介や作者自身の考えはありませんが、少しだけでもいいので貴方の考えを深く示しながら読んでいただけるとありがたいです。

罪火




__誰が僕の誕生を祝福した?




「燃えろ。」




__誰が僕の存在を肯定した?




「焼けろ。」




放った小さな火はみるみる内に広がり、やがては全てを包んだ。

パチパチと火の跳ねる音とブワリと巻き上がる熱風が此方まで伝わってくる。

ふと見上げると、キラキラと光る夜空の星に真っ黒な煙が掛かり、空に新たな夜を作り上げられていた。

あれらは先程までは木クズやら人間だったのかもしれない。

「もしそうだとしたら滑稽なもんだな。」

”そびえ立っていた屋敷だけでなく、人間も全て灰へと変えて行く。”

それが僕にとっては快感だった。

狂ってる?イかれてる?上等だ。

簡単なんだよ。殺すのなんて。

通りすがりの人間に石を投げつけるようなモンなんだ。

僕は殺していない。

殺したのは火だ。

僕はきっかけを作っただけだ。

なのに、なんで僕は悪者となる?

何故、追われる身となる?

「解らない。」

フっと鼻からため息を漏らした。

落ち着いたからか、微かな声が聞こえた。

一人の子供の声だ。

我が子を守るかのように抱え込んでいた元人間であろう物体に縋り付いている子供は、母さん母さんと、ギリギリ残っていたピンク色の服の切れ端を握り締め、叫んでいた。

あぁ、そうか。そいつはこいつの母親なのか。

ふと、子供と目が合った。

その悲しさと悔しさと怒りと憎しみに濡れる目はまるで雨のようだ。

「お前が!お前が母さんを殺したのか!!」

「僕は殺していない。火が勝手に殺した。お前の母さんとやらが勝手に死んだ。」

「違う!お前が殺したんだ!!」

「僕は直接手を下していない。」

「開き直るんじゃねぇよ!そんなのただの言い訳だ!!」

「僕は事実しか言っていない。」

「煩い!殺してやる!!殺してやる!!」

子供はそう何度も叫んだが、結局は母親にしがみつき、わんわんとまるで赤子の様に泣くだけだった。

……今思うと何故この子供を殺さなかったのだろう。

それは解らない。

だが10年経った今でもあの時の目が忘れられないのは確かだ。

あの雨が頭の中で未だ降り続いている。

止むことはまるで無い。

「やはり、解らないな。」

走って逃げる事すらせずに堂々と歩いてその場を去った僕の背中に、まだ矢が刺さっているらしい。

しかもワイヤーも張られているのか、時々は思い出して後ろに引かれる感覚に襲われる。

夜も安心して眠れない日が続いた。

「何だ……何なんだ……?」

この僕が、心の奥底であの子供を恐れているというのか……?

そんなはずは無い。

だって僕は全く悪くないのだから。

そう、僕は悪くない。

僕は悪くない。

僕は悪くない。

僕は悪くない……?

「悪いよ。」

「!?……誰だ!!」

「場合によっては君の味方となり、場合によっては君の敵となる者さ。」

突如僕の目の前に現れた男はニヒルな笑みを浮かべ、僕に手を差し出した。

掴めと言うように。

謎の虚無感にこれこそ狂ってしまったのか、そして謎の劣等感にこれこそイかれてしまったのか……。

僕は半分は敵であるその男の手を……掴んだ。

「ようこそ、こちらへ。」




***




「君の名前は何と言うんだい?」

「僕に僕の名を聞くのか?」

「君が一番君の名を知っているだろう?」

「僕は僕の名を知らない。」

「そうなのかい?」

隠すまでもない。僕は僕の名を知らない。

いや、忘れてしまったのだ。

親に何度もその名を囁かれていた気はするが、覚えていない。

僕の名をもう一度聞きたいが、もう聞けない。

両親は僕がまだ餓鬼だった頃、ある男に焼き殺されたからだ。

だから僕もその男を焼き殺してやった。

そうか、その時からか。僕がそこらの屋敷を燃やすようになったのは。

僕の昔住んでいた屋敷に似ているそれの中で輝く笑い声が、僕を怒りに染めた。

何故僕はこんな目に遭っているというのにこいつらは遭わない。

いくら待ってもこいつらは僕と同じ目に遭わなかった。

なら、僕がそのきっかけを作ってしまえばいい。

それから始まった殺人……いや、僕自身は殺してはいないが。

「名前が無いと不便じゃないかい?」

「どうせそこらの奴には名乗らない。」

「私が君を呼べないだろう?そうだな、”スラング”なんてどうだい?」

「何でそんな名前なんだ。」

「私の名前がブウムだからさ。」

「意味が解らないな。」

「ブームスラングを知っているかい?」

ブームスラング……確か南アメリカに生息する蛇の事だ。

人間と同じような視覚を持っていて、この目を活かして空中に飛んでいる鳥さえも捕まえることができるまるでスナイパーの様な奴。

基本的にはおとなしい性格で、人を故意に襲ったりすることはないらしいが、一度目を付けられたら逃げられない。

毒はヘモトキシンという強力な毒で、人間が噛まれれば数時間以内に死ぬ。

この毒の厄介な所は、血液を固めることができなくなる作用がある事だ。

傷口のいたるところから出血が起こる。

そんな作用があるにもかかわらず腫れや痛みなどがほとんどないため、毒蛇だと気づかずに症状が進行し、手遅れになる場合が多い。

……と、昔読んでいた本に載っていた。

だが僕とその蛇に何の関係があると言うのか?

「私はブウム。元はスナイパーだった。でも改心して今は普通の人間さ。そしてこれからの君の名はスラング。君は毒。でもいつかは人間となれるさ。」

「僕は元から人間だ。」

「いいや、毒さ。君の放つ毒は小さいもののすぐに全体へ広がり、やがては全てを侵食する。」

ブウムはまたニヒルな笑みを浮かべ、僕の腕を引いた。

「今から私の家へ案内しよう。間違っても燃やさないでくれよ?屋敷では無いからね。」

「……。」




***




着いた所は本当に普通の家だった。

所々雨のせいで出来た赤茶色の跡やコンクリートの欠けている所があり、その古さが伺える。

でも補修している所もあるから、放ったらかしでは無いのだろう。

「いい所だろう?私のお気に入りさ。」

ブウムはポケットから鍵を一本取り出し、扉をそれで開けた。

ギギギッと金属の錆びた様な音を立てながらその中を覗く。

「……!」

正直拍子抜けだった。

外装とは裏腹に、内装はまるで高級レストランのような華やかさだ。

少し暗めの艶のある壁に、柔らかく暖かさを感じる照明。

そしていつも鳴らしているのだろう、ゆったりと流れる音楽。

その暗さとは対照的に、高めのテーブルにひかれたクロスは真っ白で清潔感がある。

天井は結構高めで、飾り物の瓶がたくさんの照明のように華やかに煌めいている。

胸に詰まっていたいろんな物が解かれるような感覚がした。

「……僕はここにいていいのか?」

「君の好きさ。」

「……。」

僕は近くのテーブルクロスに手を添えた。

こんなにも素晴らしい空間を燃やすだなんてまっぴらごめんだ。

住んでいいと言うのなら住み続けてやる。

「やはり気に入ったようだね。安心したよ。」

「……僕は何をすればいい。」

「ん?」

「お前は僕にこの家を与えた。それに対しての条件や施しがあるはずだ。」

「何だい。私にお礼をしたいのかい?」

「お前が普通の人間であるのなら、情けだけで居場所は与えない。」

「それもそうだね。」

「何が望みだ?金なら今頃灰になってるぞ。」

「金欲しさに家は渡さないさ。君が金を持っているのなら家は自分で買えるはずだからね。」

「なら何だ。」

「私の話し相手となってくれよ。」

「話し相手だと?」

解らない事だらけだ。

僕と話して何が楽しいというのだ。

元スナイパーと聞いて只者では無いとは思ってはいたが、ただの物好きの様だ。つまらない。

「まあまあ、そんな嫌そうな顔をしないでくれよ。お茶もお茶菓子もあるんだから気軽にね?」

そう言って本当にお茶を入れ始めたブウムを横目に、僕は高めの椅子に腰掛けた。

……スラング。

これが僕の新しい名前か……くだらない。

名前なんて一体何になるというんだ。

漫画だったか小説だったかは忘れたが誰かが言っていた。名前なんてものは飾りにしか過ぎないと。

他人の考えを受け入れるのは嫌いだが、これだけは僕も共感した。

こんな飾り、燃えて灰になってしまえばいいんだ。

どうせ、パチモンでもある。

本物はとっくにこの世界の分子程の小さなものとなってきまっているはずだ。

もしくは消滅しているか。

もうここまで来ればどうでもいい。

「スラング。」

「!……何だ。」

「あ、嬉しいなぁ。家と同様に名前も気に入ってくれたみたいだね。」

「仕方が無いからお前の前でだけこの名の人物でいてやるよ。」

「素直じゃないなぁ。」

ケラケラと口元だけ笑っているブウムは僕の目の前に紅茶とスコーンを置いた。

こんなものを口に入れるのはいつぶりになるのだろうか。

……屋敷に住んでいた頃以外ありえないだろうな。

あの時は紅茶はクセが強すぎた為に無理して飲んでいた気がする。

スコーンは味が無くて粉っぽくてパサパサしていて、正直お菓子なのかと疑っていた。

でも人間の味覚は変わるというものは本当で、今の僕には本当に美味しいものに思えた。

ふと、手元のカップを見た。

紅茶の中に映り込む紅茶とスコーンを楽しむ僕の姿はまるで……自分の両親を見ているかの様だ。

そうだ、僕は両親のあの表情が大好きだった。

だから火がその表情をドロドロに溶かしてしまった時、酷い怒りを覚えたんだ。

でも火は何度水をかけても消えてくれなかった。

なら火元を断てばいい。

そう思った僕は火をつけた人間を…………!!

「今の僕もあの時の男と同じって事か……。」

「あの時の男とは誰だい?」

「僕の両親を殺した男だ。」

殺したのは火ではなくあの男だった。

あの子供の母親を殺したのも火ではなく、この僕だった。

あの子供は昔の僕に似ている。

だからこそ怖かったのかもしれない。

「僕は、あの時僕の両親を殺した男と同じやり方で、人を沢山殺めてしまった……!」

「スラング……。」

「僕は、ただ羨ましかっただけだ!!羨ましいと思える事が全て無くなったら火をつけるのは辞めようと思っていたのに、一向に無くならない!!」

「……。」

「なぁ、ブウム。」

「何だい?スラング。」

「僕はどうすればいい?人殺しは、これからどうすればいいんだ?」

「……人殺しは、これから改心すればいいんじゃないのかい?」

「改心……?」

「罪を受け入れ、償えばいい。」

「罪を受け入れ、償う……?」

そうすれば、いいのか?

でもそんなものに縁のなかった僕には罪の償い方なんて解らない。

「具体的に、何をすればいい?」

「そうだね。これからゆっくりと考えて、そしてゆっくりと消化していけばいいさ。」

「……。」

「大丈夫。時間はたっぷり残っているだろう?」

「……あぁ。」

ゆっくりと時は過ぎ、カップの中の紅茶の色はいつの間にか濃くなっていた。




***




あれから僕はブウムと共にこれまでやってきた罪を償う為に、いろいろな所を回った。

今更自分のやって来たことに嫌悪を抱き、吐き気がする事もあったが、グッとそれを押さえ込んで耐えた。

だから無事にここまで来れた。

そう、僕が最後に燃やした元屋敷の所まで。

そこは手が行き届いていなかったのか、あの時のままだった。

「スラング。私はここで待っているから、行って来なよ。」

「あぁ。」

大きな花束を抱え、そびえ立っていた屋敷の前に立つ。

そこに吹き付ける微風に、あの時舞っていた熱さはもう無かった。

全ての熱が冷め、まるで僕を受け入れている様に思える。

「……。」

そっと、あの時の母親と子供のいた所に花束を置いた。

それの花弁は揺れ、数枚風に囚われて行く。

なんて華やかな雨だ。

「……やはり、何と言えばいいのか僕には解りません。今僕がここで謝っても貴方達は戻ってこないでしょう。刑務所へ入って規則正しい生活を送ったとしても、それで罪を償った事にはならないでしょう。だから僕は殺してしまった人間の分まで、いやそれ以上に沢山の人間を助けたいと思っています。」

助け方は何でもいい。

ごみ拾いだって家事だって、何だっていい。

小さい事から大きな事まで、今の自分の出来る事ならば。

そう、どんな事でも……。

「なら、早速助けてくれよ。」

「!!」

ふと耳に入った男の声に、視界に入ったライラーの赤い火。

変わりきっていない少し高めのその声は異様なまでに僕の心を掻き乱した。

恐らく彼は……。

「なぁオッサン。俺さ、ずっと昔から凄い心臓が痛いんだ。オッサンの姿見たらさ……それが増したんだよ。」

「そうか……それは大変だな。」

「だろ?俺はさ、オッサンがこの小せえ火で丸焦げになってくれれば治ると思んだけど、どうだ?」

ふ……と、煙臭さが鼻をくすぐった。

あんな出来事があったというのに、よくこの赤い火にトラウマにならなかったな。

あの時の僕と似ているのはこの行動だけでは無かったようだ。

「……やはりお前は、あの時の子供か?」

「そうだよ。覚えたんだな。」

「君が僕の改心するきっかけだからな。」

「改心?また馬鹿にしてるのか?お前が今している事は償いじゃ無い。ただお前だけが満足する方法を押し付けているだけだ。」

あの時と同じ悲しさと悔しさと怒りと憎しみに満ちた目と共に、ライラーの上を踊る火が少し膨らんだ気がした。

僕が子供の頃に見た大きな火を思い出し、体が震える。

怖い。凄く怖い。

でも僕はそれを押さえ込み、男に聞いた。

「どうしてここにいるのが僕だと解った?」

「お前は知らないだろうけど、俺は結構しつこいんだよ。例えお前が別の国へ逃げようが、別の世界へ逃げようが、何処にでも殺しに行ってやる。」

「あの時の僕にとっちゃ見逃してやったようなものなのに、何故僕への復讐の為にその命を使う?確かに君の母親は僕が殺した。でも僕は今こうして……。」

「確かに改心したらしいな。でも罪を憎んで人を憎まずとは低俗な事だな。」

「それは……。」

「謝っても母さんは戻ってこない。お前が刑務所に入って規則正しい生活を送ったとしても、それで罪を償った事にはならない。確かにそうだな。その通りだ。でも、違う!!」

「……。」

そうか、違うのか……。

なら何が合っているのだろうか?今の僕にも解らないな。

でも、解る事は少しだけある。

罪を憎むのではなく僕を憎めば良かったんだ。

大罪そのものだからな。

……いつでも覚悟は出来ている。

この長い年月をかけて全部の罪を回って来たのだから。

結局、一番の償い方は”死ぬ事”なのだ。

この世からのお別れなのだ。

……死人は死人を作らない。

「燃やせ。(殺せ)」

僕は沢山貰った。神以上の加護を。

それに背いたのだから、死以上の報いを…………。

「せいぜい地獄で会わないようにしようぜ?」

「そうだな。」

投げつけられたライラーの小さな火は徐々に大きくなり、やがては僕の身体を包み込んだ。

この炎はとても……冷たい。




***




__誰が俺の誕生を祝福した?




「燃えろ。」




__誰が俺の存在を肯定した?




「焼けろ。」




また一つ、大きな屋敷が粉々に崩れていった。

焦げ臭い匂いが鼻を掠めるたび、笑いがこみ上げてくる。

”そびえ立っていた屋敷だけでなく、人間も全て灰へと変えて行く。”

それが俺にとっては快感だった。

狂ってる?イかれてる?上等だ。

簡単なんだよ。殺すのなんて。

通りすがりの人間に水をぶっかけるようなモンだ。

俺は殺していない。

殺したのは火だ。

俺はきっかけを作っただけだ。

なのに、なんで俺は悪者となる?

何故、追われる身となる?

「解んねぇな。」

だって俺自身は人を殺していないんだぜ?

そう、俺は悪くない。

俺は悪くない。

俺は悪くない。

俺は悪くない……?

「悪いよ。」

「!?……誰だ!!」

「場合によっては君の味方となり、場合によっては君の敵となる者さ。」

突如現れた男はニヒルな笑みを浮かべ、俺に手を差し出した。

掴めと言うように。

謎の虚無感にこれこそ狂ってしまったのか、そして謎の劣等感にこれこそイかれてしまったのか……。

俺は半分は敵であるその男の手を……掴んだ。

「ようこそ、こちらへ。」




__終わり無き、罪の世界へ。


END


この小説を読んでいただき、ありがとうございました。

所々伝わらない描写があったかもしれません。

所々意味の分からない表現があったかもしれません。

それでも結末が分かった今時点でもう一度読んでみてください。

もしかしたら最初の印象とは違うかもしれません。

うち自のこの作品にそんな素晴らしい要素があるかどうかは定かではありませんがね。

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