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短編

勇者様のクロコやってます

活動報告に以前書き散らかした「黒子視点」の再掲示です。

なんか、名前で検索するとこれが出てくると言う意味不明な現象を確認したのでちゃんと載せる事にしました。

「お願い☆死んで」

「嫌です」


 クーラーの無い部屋に蝉のうんざりする鳴き声。

 交差点に面した部屋なので停止発進する車の排気ガスが直接部屋に流れ込む。しかし窓を開けなければ室温はあっというまに40度を越える。

 南西に向いた部屋のカーテンも無い二つの窓からは、太陽の放つ必殺の殺人光線が必ず殺すと言わんばかりに照りつけて、俺と少女っぽい何かの肌をローストする。

 丸いちゃぶ台に置いた麦茶のグラスは俺と同じくらいに汗をかいているのに、目の前の少女っぽい何かはまるで涼しい顔。汗一つかいてない。それだけで、こいつの頼みがどんなものであれ断る理由は充分である。


 何でこんな事言われているのか、説明しよう。事態は五分ほど前にさかのぼる。

 

 あんまり暑いのでコンビニでアイスを買う振りでもしつつ涼もうと、中身の無い財布をポケットに突っ込んで表に出ようとした。

 だが、靴が温い。掴んだドアノブが温まっている。さらにドアを開けた瞬間、温められたアスファルトの埃っぽい臭いが流れ込んで来た。


「これはムリ。コンビニ行く前に干上がる」


 で、愛しの冷蔵庫を諦めて、部屋に戻り辛うじて冷たい窓ガラスに頬をくっ付けていた時、目の前の道路で大事故が発生した。道路をふらふらと歩いていた学生らしき男が、背後から迫ってきたトラックに跳ねられてバラバラになった。

 ボグゥッっという籠った打撃音の直後に響き渡る甲高いブレーキの音。順序は間違ってない。


「うわー、コンビニ行ってたらアレ目の前で見ちゃってたのかも。うわ、ひでぇ。マジ真っ赤。人ってウソみたいにバラバラになんのな。マジ人形みたいだ」


 運転席から飛び起きて来て頭を抱えて絶叫する運転手を眺めながら、不謹慎な野次馬をしていると、真後ろから甲高い少女の声のような幻聴が聞こえてきたわけだ。


「なんでアンタが死んでないのよー!」って。


 そしてここから、少女っぽい不審者のターン。


「本当は貴方が死んでいたはず」

「むしろ今すぐ死ぬべき」

「お前は生きてちゃいけない人間なんだ!」


 との三連撃。

 あんまりの酷い言いぐさに絶句しつつも、「だって暑かったんだもん」と太陽のせいにした所、少女はポケットからリモコンの様なものを取り出して「ヤバッ!」と呟くと、空に向けてピッ☆ と何か操作をした。

 気のせいだろうか。少し暑さが和らいだような気がする。


 そしてそこからは不審者少女のイイワケ四連鎖。俺はばよえ~んと呟くのみ。


「ちょっと温度設定間違った位で表に出ないとか弛んでる。私のせいじゃない」

「貴方が外に出なかったせいで、関係ない人が死んでしまった。私のせいじゃない」

「間違って死んだ人のフォローもしないといけない。今月始末書がヤバい。なんとか私のせいじゃ無くしたい」

「貴方に生きていられると私が困るから貴方は今すぐ協力すべき」


 大体把握した所で、冒頭に戻る。


「お願い☆死んで」

「嫌です」


 つまり、あんたは神様かなんかで、ちょっとしたミスで死者まで出しちゃったと。で、もみ消したいから今俺を殺してつじつま合わせよう、と。そう言う事ですか? と聞いてみたら。


「はい、そうです」


 と涙目で答えやがる。

 まぁ俺の灰色のラノベ脳を持ってすれば推理する事は容易い訳だよ、外見からして髪の毛青いし空中に浮いてるし。


「でもさ、俺を殺してもトラックに轢かれた人は戻ってこないでしょ? 代わりにおれが生きてるから数字の上ではつじつま合うんじゃないの?」

「合いませんよ。轢かれた人はイケメンなんですから」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


 BGM:セミ&警察のサイレン


「・・・・・・」

「あー。ごめんなさい?」


 謝られても。傷ついた俺の心に謝罪とロリ可愛い彼女を作ってくれる事を要求する。いっそお前が俺の彼女になれ。外見だけならストライクだ。


「お断りします」


 心を読むの禁止な? 

 無言でうなづく不審者少女。わかってねぇ。


「じゃあさ、あんた神様とかなんだろ? 俺をイケメンにするってのどう?それでつじつまが合う」

「あの轢かれた人は性格も良くて頭もいいんですよ。性癖は残念なモノ持ってますけど」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


 どうしろっちゅーんじゃ。


「で、御提案なんですけど」

「流すなよ」

「提案と言うか、選択肢は無いんですけど」

「無いのかよ」


 会話すら打ちきられて目の前に取りだされるフリップ。いつ用意したんだ?


『トラックに轢かれる:2飜』

『一発:1飜』

『神様:3飜』

『猫:2飜』

『白い光に包まれた:2飜』(日射病の疑いアリ)

『ワイルドドローフォー:4枚引く』


「こういう状況ですので、彼は数え役萬なんです。なので私の支払いでチートとハーレム付けて異世界に転生させないといけないんですが、その為の点数がちょっと……」


 え! なに、そういう仕組みなの?

 驚きつつも、俺は暑くて働かない頭を必死に動かして、指を折って数えてみる。足りないよな?


「数え役萬にはちょっと足りなくないか?」

二枚目(イケメン)にはドラがのるんです」


 さらに、フリップを見直した不審な神様の意味不明な説明は続く。


「私のドローフェイズに引いたカードの効果で、トラックで轢いたのがイケメンだった場合山札からイケメン以外を手札に加えて即時プレイできるっていうのがあるので、あなたは私の手札扱いなんですよ。トラック事故自体をカウンター出来なかったので、私のライフで受けない様にする為にあなたをグレイブヤードに送るのは必須なので」


「麻雀じゃないのかよ! いみわからん、もー好きにして下さい」


 俺が呆れてそういった瞬間。


「了解しました。どんな形であれ承諾を得ないと駒には出来なかったんですよ。ご協力ありがとうございます☆」

「え、いや、そういう意味じゃ」


 俺の意識は真っ白に塗りつぶされ、気が付くと見知らぬ場所に……ねぇこれは何飜なの?



 気が付くと、森の中。遠くで何かが燃えているような煙と、金属を打ち合わせる様な音と悲鳴が聞こえる。


「展開早いよ! なに、俺も転生するの?」


 目の前にクルリと回転しながら少女神が降りてくる。スカートの中が見えるが、パンツは穿いてなかった。だが白い光が邪魔をする。くそぅ。DVD買うよ!


「本来、轢かれた残念な方にはチート能力付けて異世界に送るのがルールです。ですが、私はそれを支払う点数がありません。このままだと神界の地下で強制労働間違いなしです。なにせ異世界転移を支払っただけで、もうリーチも出来ないありさまです。」

「うん。意味はわからないが大惨事なのは良くわかる」


 リンシャン連発して役が化けたり、指の握力で白を創ってドラ72とかするんだろな、神々のゲームって。


「なので、私の駒である貴方の寿命やら人としての評価を点数に還元して、貴方を精霊みたいな変な生き物に変えておきました」

「おいっ!何勝手なことしてんだよ!」

「本当なら貴方が死ぬはずだったんだからいいじゃないですか! それにこれはお得な買い物なんですよ!」


 詐欺師の売り文句にしか聞こえん。拒否権本当に無いのか? 


「ほらほら、勇者のつもりの轢かれナイスガイが早速イベントに遭遇ですよ! 盗賊とゴブリンとオークの群れが貴族の乗った馬車とエルフの村を襲っているのを助けに行ったので、フォローしてあげて下さい!」

「まって、展開早すぎるよ! 説明を! 説明をして下さい!」

「はいはい。時間を止めるのもタダじゃないんですからね。あなたのツケにしますからね『時よ!』」


 ズギューンと灰色になって止まる世界。そして始まる説明タイム。

 ・まず俺は精霊みたいな変な生き物になった。

 ・轢かれガイは異世界転移しているけれど、チート能力は無い。

 ・だから、俺がなんかサポートしなきゃいけない。おーけー?


「ほーけーが『おーけー?』とか言ってるウプププ☆」

「神様ー!こいつより偉い神サマー!ここにミスをもみ消そうとしてる神がいますよー!」


 割とマジで殴られた。拳の部分で腎臓のあたりを。


 作戦タイム・アゲイン。


 美少女神サマの良くわかる、勇者の背後で働く精霊のお仕事。

 1:轢かれ男は何の能力もないので、黒歴史になりそうな呪文を詠唱してファイヤーとか言い始めたら、ガソリンまいて火を付けて上げて下さい。

 2:轢かれ男は大した知能もないので、後で思いだしたら顔から火が出そうな呪文を詠唱してフリーズランス! とか叫んだら、冷凍庫に入ってる氷でも投げて下さい。

 3:轢かれ男はろくな体力もないので、動画で撮られてる事を知ったら土下座してでも取り返したくなるような格好で、剣とか振り回し始めたら、貴方が適当に斬って上げて下さい。

 4:貴方は透明です。

 5:必要な道具は、アイテムボックスに入っています。


 なんで棚なんだよとか、動画撮るのやめてやれよとか、いろいろ突っ込みたい所はあるけれど、とりあえず優先順位の高い質問から。


「アイテムボックスとかあるなら、なんであいつに付けてあげないの?」

「貴方の寿命を還元して捻出したポイントで買った能力は、貴方にしか付けられないんですよ。彼は死んじゃったのでポイントないし、徳とかを還元しても蘇生で点数が尽きてるし。異世界移動は私の支払いですから、私も轢かれ男もポイントは空っぽなのです。理解しましたか?」

「でも、蘇生して異世界送りにする所までは轢かれ男と神様のポイントで支払えたんですよね」

「ギリギリだけど」

「俺、死ぬ必要なくない?」

「あー……えっと、チート能力を授ける分がなくて。あなたが、彼のチートです」


 理解した。しちゃった。


「つまり、轢かれ男の無双ごっこの黒子をやればいい、と?」

「イグザクトリィ」


 畜生、いちいちムカつくな。


 そこからの日々は辛い物だった。

 常に轢かれ男の真後ろ30cmを歩いて、『目覚めよ我が深紅の瞳に宿りし炎の精霊王よ!』とか叫び始めたら、轢かれ男の目を覗き込んでそこに映っているのがどのゴブリンなのか確認してから、該当するゴブリンBさんにチョークスリーパーを掛けて寝かせてからガソリンを掛けてマッチで火を付ける。瞳の色は黒いんですけどね。なんかそういう設定らしい。

 呪文の長さによってかけるガソリンの量は変えているのだが、一度間違って『焼き尽くせイフリートよ!』とか言われただけなのにポリタンク一個いっちゃった事がある。俺はイフリートじゃねぇよとか思ってたら手が滑ったんだ。

 あたり一面延焼してたけど、轢かれ男は「フッ!今のはオメガファイアでは無い……ただのフレイムだ」とか言ってた。ファイアかフレイムか統一してくれると嬉しい。


 「植物を急成長させてツルで敵を縛る魔法で捕まえて見せるぜ!」とか言われた時は辛かった。猫獣人の盗賊娘を捕える為に使いたかったみたいだけど、目線がエロイので何を期待しているかは俺にもわかった。エロ触手的な縛り方をしなきゃいけないんだろうけど、棚型アイテムボックスの『樹』っていうネームタグの着いた引き出しには種とジョウロしか入って無い。さすがにどうにもならないので種で眼潰ししている間にアームロック掛けてやったよ。


 高い所からスタッと華麗に着地できると思いこんで崖からダイブしやがった時は、さすがにどうにもならないかと思ったけど、触手の時の経験を活かして拘束系魔法の準備にと、わっか付きのビニール紐を用意しておいたので助かった。この紐が首に引っかからなかったらゲームオーバーだった。轢かれ男は崖の壁面に激突して気を失ってたけど、そのまま崖下まで運んで寝かして置いたら、飛び降りるのは危ないと学習してくれたみたいで。それ以降は飛び降りなくなった。


 この飛び降りの件で俺もまた学んだ。こいつが余計なことをしなければいいんだ。未だ名前も知らない轢かれ男が危ない所に近づかないようにと、轢かれ男が寝ている間に酒場から盗んで来たドワーフの火酒をたらし続けてみたりもした。

 毎朝二日酔いになれば大人しくしてるだろうと思ったんだけど、イケメンな轢かれ男は、宿屋の娘とか治療院の見習い治療師とかに心配されてフラグ立てちゃうもんだから、悔しくてもう妨害工作はやめた。

 宿屋の娘とその母親と三人で、ベッドの上の大運動会を繰り広げるのを枕元で膝抱えて見てたよ。もし透明人間になったらぜひやりたかった二つのうちの一つがこんな所で叶うとは思ってもみなかった。もう一つのやりたかった事は、精霊みたいな変な生き物になった俺には性別を示す器官が無いので無理だった。悔しくなんて無いやい。


 轢かれ男が、見習い治療師さんと路地裏でちゅっちゅらびゅらびゅし始めた時も、真横で声に合わせて腰振ってたけど悔しくなかったし。だんだん楽しくなってきてソイヤソイヤと合いの手を入れてたら声が枯れたけど。


 で、その時だ。

 使ったアイテムが自動的に補充される便利なアイテムボックス……俺の寿命ほとんどと引き換えに買ったらしい機能らしいんだけど、寿命無くなって死ぬわけじゃなくて死ね無くなるみたいなのな。俺透明人間なうえに不老不死。ははっ。

 まぁそれはいいや。アイテムボックスの回復系の引き出しにのど飴とか入って無いかと思って棚の中あっちこっちゴソゴソしてたら……点棒を見つけたんだよ。


 点棒。点数をカウントする為の棒。あの女神っぽい不審者は何て言ってた? 轢かれ男は高い役のつく死に方した。

 女神の点数が足りないから、俺の寿命を点数に還元して使いこんだ、と。ならばなぜここに点がある?


 それから俺は、頻繁に棚の中を確認するように心がけた。

 油にマッチ。製氷室には氷。水も入っているし、紐に砂に粉じん爆発用の不思議な粉、種にジョウロ。剣やハンマーなどの各種武器にスタンガンや200ボルトのコンセントまで。食料や娯楽用品は無い。

 ガソリンとか槍とかの消耗品は自動的に補充されている。あの点棒が元からあったのではないのなら、どこから出てきた?


 もしくは。どんなタイミングで、俺が点棒を取得した(・・・・・・・・・)


 それから数日後、轢かれ男の猫耳盗賊娘との、擬音すら描写できないレベルのノクターン間違いなしな日常を最前線でブリッジしながら眺めていたら、轟運が唸り天啓が炸裂した。


「この猫耳エロ子、せっかく尻尾があるんだからもうちょっと活躍してみようぜ?」とか思って、ちょっとしたお手伝い気分で尻尾の先をさらなるフェチズムの果てへといざなって見た時の事だ。


 ふと、自分が評価されるレベルの何かを成し遂げた気がして。何の気なしに棚を開けたら点棒があった。


 わかった。

 わかっちゃった。


 念の為、さらなる検証を行う。

 透明人間になったらやって見たい事その1の日常的な充足を兼ねて、宿屋の娘さんをスト―キング。

 風呂に入ったのを見計らって、掃除中にパクって置いた汚れ水入りのバケツを轢かれ男の頭上でリリース。


 ザバー! → あらあら早くお風呂に → そう言えば今お風呂にはあの子が → ガチャ → キャアァ! → パチーン!


 棚を開けてみた。増えてたよ、点棒。


 間違いない。お約束的なアクションに点数が付く。

 猫を助けようとしてトラックにひかれるってのも、役がつくわけだもんな。


 俺は既に透明な存在に成り果てているので自分にイベントを発生させるのは難しい。だが、轢かれ男に対してイベントを発生させれば、いいような気はする。責任払いとかに気を付けなきゃいけないが、失う物は何も無い。

 現在わかっている点数の基準は、「猫を助ける」とか「トラックに轢かれる」「ドア開けたら裸でビンタされる」という行為が評価されると言う事。


 ならば、この世界でうまくそれをプロデュースしたのなら、俺かあの女神に点数が入って何とか「蘇生」とか「元の世界に帰還」とかを買う事が出来るのではないだろうか。


 そこで俺は考える。

 「猫を助けてトラックに轢かれて、でもそれは神様のミスでお詫びに異世界に」というのが数え役満だと言うのなら、一体何が『役萬』だというのだろうか。

 アレだ。アレしか無い。


 俺は魔法学園の入学願書を手に入れると、轢かれ男の足元に落とした。都合よく興味を持ってくれたようだ。

 「魔法学園」というだけでも2飜はイケると思うのだが、俺が狙うのは役萬だ。

 異世界者である轢かれ男には幼馴染は居ないので、窓越しに会話させる事も朝起こさせる事も出来ない。だが、クラスメイトの女の子の為にパンは用意した上で遅刻させるなんてのは造作も無い事だ。

 魔法学園に向かう轢かれ男が、曲がり角に差し掛かった所で。


 俺は高らかにリーチを宣言した。

この後、不審者っぽい少女神の変身着替えシーンで点数奪われたり、

二死満塁の局面で代打を宣言して点棒を稼いだりするシーンがありますが省略します。

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