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「……委員会長引いたな」
私は急ぎ足で教室に戻っていた。
部活には入っていないので、教室に置いていた荷物を取って帰るつもりだ。
廊下は夕日が窓から差して黄金色に照らされている。
グラウンドから野球部の掛け声が聞こえた。
見えてきた部屋には明かりがついていなかった。
だれもいないのだろう。
入って私は窓際の自分の席を見て固まった。
私の席には何も異常はない。
しかし、その隣の席に持ち主が寄りかかって窓の外を見ていたのだ。
「五十嵐、残ってたのか」
私は努めて何気ない口調で言った。
廊下での一件の後何度か誤ったのだが、彼は
気にするなと特に怒った様子もなく、こちらから蒸し返すわけにもいかなくなっていた。
「……あぁ、武藤か」
寒くないのか、五十嵐はワイシャツ姿だ。
それにしてもやつれていないか?
一応いい顔なのにそんな老けたら、女子共が
泣くぞ。
「そろそろ帰るかな」
「む、そうか。気をつけてな」
朝関わらないと言ったばかりだが、ヨボヨボの五十嵐はいつ車に轢かれてもおかしくなさそうで、ついお節介をしてしまった。
五十嵐も同じことを考えていたのかクスッと笑って、制服を着直すと教室を出て行った。
私はその姿が見えなくなってもしばらく立ち尽くしていた。
世界は案外狭いのかもしれない。
五十嵐の後ろ姿は、いつか見た変態だった。
確実な証拠はまだない。
だが、今まで誰とも合わなかったあの芝原で
ワイシャツの変態に遭遇したのと、五十嵐が
転校してきた時期が重なっている。
私は自分の席を通り過ぎ、五十嵐が見ていた窓を見た。
さっきまで夕焼けの中降っていた雪が止んでいた。