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夕方の教室に、俺は一人座っている。
かなり体力を消耗していた。
まさか初日に身体を触られそうになるとは
思わなかった。
しかも、朝っぱらから不可侵表明をしてきた
警戒対象外の武藤からだ。
上野の言っていた以上に、挙動不審で何を
考えているのかさっぱり分からない。
もしかしたら、最要注意人物かもしれない。
後から上野に聞いたところによると、
彼女は並ならぬ観察眼を用いて保健委員の
職務に心血を注いでいるそうだ。
保健委員はサボり仕事とみなしている者が
多い中、武藤は異常なほどその仕事を真面目に行っているらしい。
その観察力は侮れない。
武藤に保健室へ連行されそうになった時、
確かに俺は体調が悪かった。
暖房の効いた部屋は蒸し風呂のようで、
正直意識も朦朧としていた。
制服を脱いで少しでも体温を下げたかったのだが、冬にそんなことをするヤツはいない。
武藤には最もらしいことを言ったが、
果たして彼女に通用するのか……
しかし、同じ過去を繰り返す気はない。
今度こそ、俺はここで生き抜いてみせる。
俺は握りしめた拳をしばらく見ていた。
冬の夕日が教室を臙脂に染め上げる。