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午後の教室、
授業が始まる前の緩やかな時間。
「おい、雪降ってね?」
誰かの声の後、部屋に歓声が響いた。
「この時期に雪とか珍しいな。
何年ぶりだろ?」
上野がクラスメイトに尋ねる声がする。
私も窓の外を見た。
確かに外を白いものがいくつも舞っている。
視線を横に流す。
五十嵐は一人ボウっと空を眺めている。
あんな間抜けな顔でも五十嵐だと
様になるのだから、世の中不公平なものだ。
それよりもさっきから気になっていたのだが
「五十嵐」
声をかけたが反応がない。
まあ、朝あんなことを言ったから
かもしれないが、もしかしたら……
「……ん?え、あ、なに?」
「お前、大丈夫か?」
「え?」
「いや、良くないだろう。
ちよっと、一緒に来い」
近隣にいた生徒がこちらをガン見している。
ったく、私が話しただけで天災扱いだ。
私は義務を果たしているというのに。
自分がそういうふうにしてきたのだが……
廊下に出ると教室の入り口で
困惑顔の五十嵐が立ち止まっている。
「あー、どこいくの?」
「どこって保健室だが」
「いや、大丈夫だよ。俺なんともないよ?」
「何言ってるんだ、その洋ナシみたいな
青い顔で言われても説得力ないぞ」
「洋ナシ⁉︎」
真面目なヤツは授業料だの
進度についていけなくなるだの
無理をするヤツが多い。
その姿勢に異論はないが、
冬はインフルエンザなど油断できない。
保健委員としては見逃すわけには
いかないのだ。
「とにかく行くぞ」
弱っているヤツにはゴリ押しだ。
私は五十嵐の腕を掴んで引こうとした。
「触るな‼︎」
突然五十嵐は叫び、私の手を払った。
五十嵐の声が廊下に響き、
教室から何事かと生徒達が顔を出す。
「す、すまん」
私は呆然としたまま、声を絞り出した。
「いや、いいよ。俺も大声出してごめん。
俺昔からちよっと病弱でさ、冬はけっこう
体調崩すんだけど、今日はほんと調子
いいんだ。だから、大丈夫だよ。
多分武藤が俺の顔色悪いと思ったの、
肌が白いから蛍光灯の加減でそう見えた
だけだと思うよ」
穏やかな顔に戻った五十嵐は一気に
そう言うと、教室に戻った。
野次馬の生徒たちになんでもないと手を振る五十嵐は何事もなかったような態度だ。
だが、私はしばらくそこから動けなかった。
叫んだときの彼の表情が焼き付いてしまっていた。
それは
ーー恐怖