プロローグ3
私はひとつ息をつくと、
再び足を踏み出した。
足元でなるザクザクという音に
耳を傾ける。
肩にかかる重みが煩わしくて、
カバンを雪の上に投げた。
静寂の空間で、
自分だけが動き出すこの緊張感。
そして、それを凌駕する高揚感。
真っ白な雪がまるでライトのように
私を照らす。
そして私は跳んだ。
ドビュッシーの月光。
星が瞬く。
ーーー奪われた、私の舞。
もう以前のようには動かない体。
それでも息は止められないように、
私は踊ることを捨てられない。
音のないクラシックに合わせて
私は跳ぶ。
振り上げた足とともに舞い上がった雪が
月明かりに輝いた。
最後にアラベスクをきめて、
雪にダイブ!
「……アハハッ」
上がった息のまま笑うと、冷たい空気が
喉を滑り落ちた。
しかし、
左足の痛みが、わたしを現実に戻す。
夢の終わりはあっけない。
わたしはため息を吐くと、上体を起こした。
ザクッ
突然立った自分以外の音に
私は急いで振り向いた。
ワイシャツの後ろ姿が
一瞬木々の間に見えてすぐ消えた。
あの人に見られたのだろうか。
いや、
ただ通り過ぎただけかもしれない。
今までこの時間に人と会った
ことがなかった分、動揺した。
高ぶっていた気分はすぐに
冷めてしまって、私はまた人に会わない
うちに去ろうと急いで立ち上がった。
冬にワイシャツ姿だったおかしさに
気づいたのはずいぶん後だった。