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苦手な方はご注意ください。

勇者なんかに任せられるかよ!

作者: メオン

「おい、聞いたか? 王様が魔王を倒す秘策を使うらしいぞ」


 怠け癖のある同僚ウルドザードがその情報を持ってきたのは、気が狂いそうな晴天の下、代わり映えのしない荒野を見下ろしている時だった。

 しかし、秘策と言われて思考を巡らすもそれらしい単語は思いつかず、俺はウルドザードに首を振って答える。

 ちなみに魔王っていうのは1年前程に現れた、魔物を統べる王らしい。この世に恨みと絶望を抱いた人だと言う説もあるが、本当かどうかは知らない。


「おいおいジョシュア、真面目に仕事をするのもいいが、こういう常識くらいは知っとけよな。

まあ今回は俺様が説明してやる。いいか……」


 その後延々と回りくどく喋り始める親切で暇人なウルドザードの説明を纏めると、勇者とやらを異世界から召還する魔法が秘術らしい。

 それだけを説明するために10分間も話し続けるウルドザードにはある種の才能があると思う。

 とりあえずいい加減ウザくなってきたな……


「で、その勇者とやらを呼んでどうするんだ?」

「どうするって……魔王退治してもらうに決まってるだろ!」

「いや何故わざわざ召還する? そんな事をするくらいなら魔王を溶岩の中に召還した方が早いだろ。」

「かぁー! 分かってないな、ジョシュア・エンライト! 魔王を倒すのは勇者だと、古来から決まってるじゃないか!

それに魔王なんだから溶岩くらい泳げるに決まってるじゃないか!」


 馬鹿馬鹿しい、絵本や物語の勇者など、後付された神格化に過ぎない。勇者は少数精鋭で魔王を倒しているが、そんな少数で倒せるものなら脅威とは言われない。それに魔王だから溶岩を泳げるって何だ。それなら我が国の王様フィーデル12世はあらゆる職業をこなせるのか?という所だ。少人数で撃破出来る事も含めれば、実際はたまたま魔物を統一する能力を持ちえた個体に過ぎないと俺は思っている。

 そもそもだ、何故異世界から勇者を召還する必要がある? この魔王の電撃的策略で半数の大地を奪われた世界でも、奪われたそれはほぼ最初の数ヶ月の話。それ以後は拮抗し、場所に寄っては追い返しているところもある。捜せば勇者と呼ばれるに値する存在くらいはいるだろう。何故この世界の中からの召還でなく、異世界なのか、そこが俺には気になった。ウルドザードなら知っているだろうか?


「そもそも何故異世界なんだ?」

「曰く、異世界人は俺らよりもよっぽど強いらしいぜ。 こんな所で兵士なんてやらず、勇者のお供として活躍したいぜ!」


 ポージングをキメながら言うウルドザードが限りなくウザイ。

 いや、そんな事よりも……今俺が言いたい事はただ一つ。俺はウルドザードへと顔を向けそれを伝える義務がある。


「で? 見張りの仕事をサボってお前は何やってたんだ? ウルドザード」

「勇者のお供になる為の訓練さ!」

「……具体的には?」

「必殺技の練習をしていた!」


 殴りたい、非常にイイ笑顔で言い切ったコイツを殴りたい。そんな降って沸いた衝動を必死に抑えながら、俺は勤めて笑顔を浮かべて続きを聞く。


「…………ちょっとやってみてくれ」

「おお? 何だ興味あるのか? 本来なら手の内を晒すなんてのは以ての外なんだが……親友のお前には特別に見せてやろう。俺が6歳の頃から必死に考案し続けた、究極完全無敵の超絶凄い瞬間魔法を併用した必ず敵性物体を破滅に導く殺戮の最強高速剣術を! しかとかつ目して見よ!」


 息継ぎ無しに言い切った阿呆を、冷めた目で見ながら、俺はこっそりと左手に呪紋を刻み始める。

 俺の指が宙を走り拳の上に模様を描く度に、左手の発光が強まるが、奴はそんな事は気にしていない。知っている筈だから気が付いてないんだろう、馬鹿だし。

 ある程度納得が行くほどに光始めたところで左手を身体の後ろに隠し終え、奴に視線を向けると、丁度やつの奴の方も準備が終わったようで、非常に殴りたい笑顔を向けてきた。


「いくぞ! 必・殺、魔・剣・開・放・獄・門・斬! …………フッ」


 しゅぱぱぱ、と残像を残して走る刃は見事なものだと思う。流石剣術大会4位に残る腕前だ。

 その軌跡を目で追い、両刃の剣を鞘に納めたウザードに、俺は1つの疑問を口にする。


「で、どの辺に魔法があったんだ?」

「ふ、運が悪かったな。今日は修行で魔力が底を付いていたんだ」

「お前の魔力は、常に、魔法が使えない程度にしか無いだろうが!」


 歯を光らせて言ったそいつを、俺は衝撃強化の魔紋を刻んだ左手で殴り飛ばしてやった。




 見張りの仕事を交代に来た後輩に引き継いだ俺は、夕日の城の中をなんとはなしに歩いていた。

 王都勤めは上官の性格、王族への礼儀、宮廷マナーなど面倒なところは多々あるが、豪華な城を歩いていられる楽しみがあると俺は思う。勿論、限度はあるのだが。豪華で荘厳な城の景色は目に映えるし、見ることは稀ではあるが、国家を挙げて磨き上げた姫が風景にいるタイミングなど芸術的なものを感じる。今だって夕日が染め上げた白い床と外に見える整えられた木々が幻想的な光景を作っていたりする。

 そういやそれを同僚に言ったら変な者を見る目で見られたが何故だろう? とか悶々と考えていたら変な場所に出てしまっていた。横を見れば木々が鬱蒼とし始めており、思わず庭師仕事しろと言いたくなる光景で頭が痛くなる。城勤めが城で迷子とか話にならないぞ、と考えていた矢先だった。


「勇者召還の儀式の準備はどうだ?」


 勇者というワードに俺の耳が思わず反応する。思わず物陰へと身を隠す俺を誰かが見たら、指を刺して衛兵通報モノだろう。俺も兵士だけど。


「ハッ、仰せの通り、準備万端整っております」


 渋い声に追従するひねくれた感じのする若い声、渋い声の方が偉い……というかコレは大臣の声か? それに若い方は宮廷魔術師の声に似ているような気がする。何でそんな偉い人が……と疑問が浮かぶが、すぐに思い直す。世界をかけるような術式だろう。


「そうかそうか、この魔法はこの国を左右する秘術、お主ならば可能だろうが、失敗は許されぬ。抜かりのないようにな」

「承知しております。一通りの確認を終えた現在、部下達に再確認を行わせている所でございます。また、召還前には私自ら最終確認も行います」

「ならば、問題ないな……」


 三重チェックとか相当な念の入れようだな……というか国を左右するのか? 世界じゃなくて?

 さらりと流れたその単語が気になった俺は、声の主がいなくなるのを待ってその魔法陣を見ることにする。声が自分がいた場所の先の扉からしているのは承知の上、魔法は使用せず木に登って姿を隠す。 下手に魔法を使えば、位置はバレずとも存在がバレるからだ。相手が宮廷魔術師なら尚更探知されて終わる。特に周囲に注意を払っていない相手ならば魔法を使わず隠れた方がマシ、というわけだ。

 完全に日が沈むまで木の上で隠匿した俺は、人気がない事を確認した上で進路上にあった扉を開ける。扉を開けてみればすぐに夕闇に輝く魔法陣が目に入る。魔法に詳しいわけではないが、方陣系魔法ならば俺も使い手、何か分かる事はあるかもしれない。そう、魔法陣に近づいた時だった。


「ほう、鼠がいると思いましたら……ジョシュア・エンライト君ではありませんか?」


 声と同時に突然部屋が明るくなる。慌てて剣に手を伸ばしつつ振り向けば、そこには宮廷魔術師クリストの姿があった。


「王宮兵士とはいえ、一兵士の身の貴方が何故こんな場所に?」


 ねちっこい視線に身震いしつつも、勤めて平静を装い答える。 どう見ても俺は首の危機だ。


「歩いていたら怪しい密会の気配を感じたので、念のため確認を」

「何処から聞いていましたか?」


 全く誤魔化されてくれない。しかも目が笑ってない。どう見ても俺は死の危機だ。


「……勇者召還の儀式の準備がどうだ? から三重確認まででございます。」

「……嘘は言っていないようですね。いいでしょう。見逃してあげます。剣術大会8位の魔剣士ともなれば、国にとって得がたい人材ですからねぇ」

「お褒めに預かり光栄です」


 案外あっさり見逃された事に安堵しつつも、俺はそそくさと部屋を出ようとする、クリスト怖い。ふふふふとか笑ってるのが怖い。こんな王宮にいられるか! おれおうちかえる!

 そんな俺を知ってか知らずか、足早に部屋を去る俺の背後に言葉は続く。


「そうそう、この魔法陣ですが……簡単に言えば異世界から勇者となる人材を召還し、魔王を倒す事を強要する代わりに人智を超える力を授ける魔法ですよ。異世界人は何故か強大な力を授かって明確な悪を与えられると、喜んで倒しに行くらしいので。」


 全く信じがたい話ですが。力ある奴隷が無料で手に入る魔法なら、貴方だって使うでしょう? その言葉に理解しがたいものがあり、言い返そうと足を止めた俺に奴はさらに続ける。


「まあ、これは王の、いえ王宮全体の意向ですから、一般庶民出の貴方には理解できないかもしれませんが……口に出してはいけませんよ? 貴方の身体が爆発してしまうかもしれませんからね。 逆らうなんてもっての他です。」


 朝差し出された水差しで心臓が仕事放棄なんてのもあるかもしれませんね? という言葉に背筋が凍る思いがし、俺は逃げるようにその部屋を去った。




 翌朝兵士長に休暇を得た俺は、今まで働いた5年分の給料で出来た貯蓄を手に、石で舗装された大地を踏みしめていた。正確には辞職を叩き付けたら説明を要求され、給料は出ないが休暇扱いにしてやるからいつでも帰って来いと追い出されたのだが、正式に休暇らしいから休暇で問題ない。

 目指すは衣類屋と道具屋、目的は町の外にいる魔物退治――腕試しを行うに当たって必要な、旅の必需品である雨風を凌ぎ寝床にもなる外套と、傷を癒す薬草を煮詰め魔術加工を施し即効性を高めた薬湯、火興しにも使える松明と火口箱だ。剣や鎧、砥石などは自前で持っている。剣は親父の形見の古びた片手半剣、鎧は剣術大会の商品として送られた鎖帷子だ。後は小剣も持っているが、これは自衛や採取用というべきモノで、武装とは言い難い。

 この鎖帷子、鎧の裏地に魔術紋が刻まれており、自動修復と錆止め、簡易の中和能力を持つ優れ物だが……今気がついたが施したのはクリストの野郎だった筈だ、気が付かれたのはそれでか?

 いつも見張られているんじゃないだろうな、という悪寒を伴う事実に鎧を棄てたくなってきたが、全財産の王国紙幣7枚では鎧を買えないので諦めるしかないだろう。ちなみにこの紙幣、魔術加工が施されており耐水耐候性に破れ難いという性能、価値も納得の魔貨10枚、金貨100枚、銅貨1000枚分である。これ1枚で教会配給引換券に換算して9年分、独り身なら5ヶ月最低限の文化的生活が保障される。換算して自分で恐ろしくなった。

 しかし、道具屋にたどり着いて見ればさらに恐ろしい、薬湯が王国紙幣1枚で1つという現実が待ち受けていた。いや、おかしいだろう。5ヶ月分の文化的生活権利と引き換えで1つかよ。思わず道具屋のおっさんに問い詰めればこうである。


「最近魔物の被害が激しくてね、材料が値上がりしているんだ。それに対し薬湯の需要は増えてる……これでも安いほうなんだよ? 兄ちゃん」

「参考までに聞いておくが……薬草を持ち込んだら幾らで買い取ってくれるんだ?」

「状態によるが……そのまま薬に使えるなら魔貨1枚だね。粗悪品でも金貨1枚かな。兄ちゃん、狩人さんか何かかい? 」


 ちなみに王宮兵士の俺の給料が魔貨5枚といえば分かるだろうか? 恐ろしい値上がりっぷりが。 ちなみに狩人っていうのはそのままの通り、魔物や採取物を刈り取る専門職の事を指す。見入りと待遇は凄い良いらしいが死亡率が高く、そこそこの収入で安定した兵士と対を成す職業といえる。……まあ腕のいい狩人は町を支える大事な人材になるから、町人達から局地的な勇者扱いを受ける浪漫がある。その為志望者が後を立たず、男の子にとっては兵士と双璧を為す人気職業なんだが。


「いや、王国兵士だが……狩人になるかもしれないってところか。 情報提供感謝する。」

「兵士の兄ちゃんが狩人とは珍しい、だが腕っぷしは期待できるな! 狩人になったらぜひうちに薬草を卸してくれよ!」

「ああ、考えておくよ」


 いい笑顔で言うおっちゃんから、状態の良い薬草10枚と毒消しの葉5枚を買取る俺、ついでに松明と火口箱も忘れない。これだけで紙幣2枚が消えるんだから恐ろしい。しかも街中見て回ったらおっさんのところの薬草が一番状態がいいか、おっさんのところと同質でも値段が高いっていうんだからやってられない。そしてその恐怖はさらに衣服屋で増大する事になる。


「長旅に耐えられる丈夫な外套が……紙幣3枚だと……」

「良質な材料が取れないんです……」


 独身男性がそこそこの生活で1年暮らせる値段とか一体どういう事なんだ? 流石にボッタクリにしか見えない値段設定に、自然と顔つきも恐ろしくなっていたらしい。怯えた様子の衣服屋が慌てた様子で付け加える。


「正直、この町は今、深刻な資源不足なんです。近くの月華森の月狼の毛皮とかを加工できればいいんですが……」

「一体どうしてそんな事態に?」

「輸入経路の不安定化と、この国の狩人の質の低下でしょうか。 今の町の狩人は2~3人でゴブリンを倒すのが精一杯と聞きます」


 今はまだ近場で取れる資源で賄えていますが、このままでは経済もそのうち破綻するでしょうね。という呟きに顔が引きつるのを自覚する。

 ゴブリンとは繁殖力が高い巣を作る生物で、特筆すべき点は力が強いが愚かな事、道具を使う程度の知識はあるが簡単に罠に掛かる程度であり、罠を使えば1人でも倒せる筈なのだが……勇者云々より、この国の行く末が危ないようだ。

 本気で狩人に転職すべきか悩みながら、買い取った外套を羽織り店の古びた木扉を押し開ける。割と評判の店の扉が軋む事に末期感をひしひしと感じながら、魔物と合間見える為に外へと向かうのだった……




 見通しの良い草原を横目に、俺は月華森へと向かっていた。目的地は先ほど決めたが、理由は簡単、外套や薬草といった不足物資の補給だが、根本は勇者などに頼らずともどのくらい戦えるかを試してみたかったからだ。勇者に頼る事無く倒せるようなら、俺が魔王討伐に出ようとも思っていた。愛国心など余り無いが、やはり自分の世界は異世界人の手ではなく、自分で守りたい。そう思う俺は子供っぽいだろうか? 笑ったウルドザードは殴っておいた。奴はふっ飛ばしても数分で起き上がる奴なので遠慮なく殴れるのが良い。

 ちなみに森は町から1日弱という距離、魔紋で頑張れば1日経たず付けるだろうが、無駄な疲労は控えたかったので今回は使用しない。なお、道中の食料は大目の18食分、保存の利くよう加工されたそれらはやや割高だが、それでも銅貨3枚――魔貨に換算して0.03枚、金貨で0.3枚だ。薬草などの吹っ飛んだ値段を見た後だったので思わず胸を撫で下ろしたものだ。

 月華森は王国の南西に位置する森林地帯、その森林地帯より流れた水が王都へ流れ込む立地で、森林奥には華のような形に割れた山頂を持つ、月華山がある。名前の由来はそのまんま、山の山頂が月に向かって伸びる華のように見える事から。なお山はぐるりと国の南から東側全体を覆っており、南東には廃坑があった筈だ。よって、旅人がこの国に来るには森の西側か、町の北側の街路が経路となる。

 俺が今いるのは月華森へ川沿いに整備された街道……を少し川の反対側に外れた位置だ。というのも、川付近は動物等を引き寄せるので必要以上に近寄りたくなかっただけなのだが。

 案の定、その懸念が当たったらしく、街道付近に甲高い声が聞こえる。ゴブリンが狩猟を行っているらしい。地に伏し、自分の周囲に特に何も見当たらない事を確認したのち、地面に探知紋を書き込む。この紋は紋が描かれた場所から一定範囲内にいる、生物の存在を探知する魔法だ。魔力を篭めれば篭めるほど、紋が複雑な程詳細が分かるが、今はそんな魔力や時間を使う必要も無いだろう。

 数分程度で紋を描き終えた俺は前方に4つの反応がある事を知る。それ以外には反応は無し。小さい生物には反応しないようにしたので、小動物はいるかもしれないが、今回は関係ない。紋を見てすぐに1つの反応が消えた事から、3匹で狩猟を行っているのだろう。

 奇襲をかけるべきか、戦闘を避けるべきか、ゴブリン相手では古びた刃物等が手に入れば僥倖、収入は殆ど望めないが……先ほどの狩人の話もあったので力試しに挑む事にする。敵数は多いが、獲物を取った直後ならその運搬等で手が取られている筈、その隙を利用する。

 指を舐めそれを宙に掲げ風向きを確認、今回は血で塗れている相手なので可能性は低いとは言え、自分が風上でなければ臭いで存在を察知される恐れがある。幸い現位置が風上のようだ。足元の探知紋は数時間もすれば自壊するが、念のため指で破壊しておく。

 小さい破裂音をさせながら自壊した紋に目をやらず、まず左手に紋を刻む。今回は時間をかけ光らないように紋に工夫をしたものを使用、完了次第剣を抜き、近寄りながら剣に向かい紋を刻む。獲物と見られる物体を2匹係で背負い、その前方を1匹のゴブリンが歩くのを確認したら、光る刃が見つからないよう地面に置きそのまましゃがんで待機、相手がこちらに背後を向けたのを確認し、静かに近寄る。早鳴る心臓に惑わされないよう、足音をなるべく殺し、しかし追いつけるように素早く近づく。

 相手とこちらの距離が10歩程に近寄った時、前方のゴブリンが何か鳴く。その音を聞くや否や走る俺と、振り向いたゴブリンの視線が合った時には6歩に距離は縮んでいた。獲物を持ったゴブリンがそれを投げ捨て、こちらに振り向いた時には手前の1匹を両手に構えた剣で切り捨てる。


「残2」


 この頃には相手が武器を構えていた、棍棒のようなものを持った奥のゴブリンと、槍を持った獲物担ぎの片割れ。槍は元々は長かったが、持ち手の方が折れて短くなったものらしい。

 距離が近い槍の方へ踏み出せば、その動きに釣られ槍を突き出してくる。見え透いた攻撃にほくそ笑みながら、棍棒を持つゴブリンと反対方向に跳ぶ。槍を引き戻し、再度突き出す時に発光する剣を横に振る。


「光刃よ、駆けろ!」


 明らかに届かない位置に振られた刃を、ゴブリンの癖にあざ笑ったのか、笑みを浮かべた首が地面に落ちる。息付く暇もなく興奮した様子で遅い来るゴブリンの棍棒を右に避け、左手をその頭に叩き込めば、弾ける音と共に棍棒が落ちる。吹っ飛んだそいつに、光を失った剣を振り下ろせば片が付く。


「これで狩人2~3人って、やはり質落ちすぎだろう……」


 サシでなら1対1でやれるべき相手という俺の認識は、やはり間違っていないと思う。魔王登場で魔物強化とかそういう可能性は潰えた事に安堵する。そう一息を付いた俺は、恐らく気を抜いていたのだろう。甲高い声を耳にし、咄嗟に振り返った俺の額の横を通り抜ける何か、若干切れたのか焼けるような痛みが走る。

 視線を向ければ最初に斬ったゴブリンが地面に落ちた槍を手にこちらをにらんでいた。殺り損なっていたらしい。やはり慢心は最大の敵か。

 先ほどの槍使いのように足を踏み出し、突き出された槍を横に飛んで回避。今回はそれに合わせて槍の先端を剣で叩いてやる。その衝撃でゴブリンの体勢が崩れるのを好機と、一気に駆け首に刃を差し込む。斬らなかったのは、突きという動作が斬るよりも早く届くから。

 今度こそ倒した事を確認し、ゴブリン達を漁ると魔貨が2枚、銅貨が4枚出てきたのは嬉しい収入だ。槍と棍棒は使い物にならないし、ゴブリンが纏った粗末な布は使い物にならない。駆られた獲物を確認すると犬のようだ。町で見る愛玩用じゃなく、体長3mある野生種だが。

 牙等は鏃に使えるので、せめてもの儲けと抜き取ろうとした俺は、犬の身体の一部がぬらぬらと塗れている事に気がつき、冷水を浴びせられたような感覚を受ける。自分の額に手を寄せれば同じようにぬらぬらと血以外の粘液が付着している。傷口は未だ焼けるように熱い。

 買ってきた毒消しがまさか役に立つとは……と苦笑いしつつ、水筒の水で額を洗浄。その後予め2枚程毒消しをすり潰しておいた液体を、額に塗るのだった。


 その場を離れた俺は水筒に毒消しの葉を沈め、川へ水を汲み取る。ちなみにこの毒消し正式名称は緑光草といい、月明かりを受けると仄かに光るのが特徴。詳しい原理は俺は薬師ではないので知らないが、解毒作用がある為飲み物から消毒まで幅広く使われている。俺は好みではあるが、苦いので貴族連中にはウケないらしい。先ほどのように毒物の中和に使う場合は、絞り汁や抽出した液体を使用する。この時先に傷口を濯いで置かないと効果が薄い。

 なお例の粘液に魔術解析を掛けたら見事に毒物、しかも武器全てに塗られていたという、ゴブリンの癖に生意気な事実が判明。そりゃ1人で狩りたいとは思わないよな、と独りごちる。発熱効果で徐々に体力を奪う程度の軽度な代物だが、奴らがどうやってそれを見つけたのかは気になるところだ。

 川から戻った俺は、血の臭いに他の獲物が寄せられる事を警戒し、先ほどとは大分離れるまで歩いた後、新たに探知紋と警戒紋を刻む。警戒紋は探知紋とセットで使う事が多い魔法陣で、指定対象が範囲内に入った場合、それを術者に知らせる効果がある。やはり詳細設定をしようとすればするほど難易度が上がる。自壊時に警告するようにしておけば一人旅でも安心して寝ることが出来るというわけだ。正直、この魔法を開発した魔術師は天才だと思う。


 特に寝ている間に問題は起きず、翌朝を迎えた俺は準備運動代わりに身体を動かす。幸い毒の影響は無く、当初の予定通り森へと足を踏み入れる。

 狙う獲物は月狼、入念に樹液で探知紋を刻んだ教会配給引換券を手に視界の悪い森を歩く。正直木材に刻もうとしたのだが数回失敗し、諦めて他に刻める物を探したらコレが出てきたというだけ。バチ当たりな気はするが、持ち歩ける道具が他に無かったので仕方ない。

 持ってきた輝く小剣で邪魔な木を払いつつ、ところどころ出てきたゴブリンは1~2匹なら倒し、3匹以上ならやり過ごした。一度6匹以上出てきた時には頭を抱える羽目になった。幸い何かに引き付けられたのか、去って行ったので助かったが……。武器は毎回確認してみると毒塗りの場合とそうでない場合があった。全ゴブリンに行き渡っていない事に安堵する。

 俺が月狼を捕らえたのは、日が暮れ始め、野営が出来る場所を捜し始めた頃だった。紙幣の紋の外側に赤い光点が発生。確認しに追うと全長2.5m程度の、白い毛並みが綺麗な狼を発見。この白い毛並みが光を受けると月明かりのように輝く事から月狼と名づけられたとか。

 乾燥肉に水を付け、足元に落としてから木に登る。罠を仕掛けている暇はなかったので、木の上で待つ間に剣と手ごろな木枝に魔紋を刻む。

 上手く行かない可能性も考慮しつつ、紙幣を眺めながら作業を続けていると、意外にも2本目の枝が完成する前に肉へ近づいて来てしまった。警戒を続ける狼を目に素早く2本目を完成させると、奴が逃げそうな位置に投げ、肉に近寄ってきた狼に対し剣を下に木から落ちる。

 流石にこれで仕留める事はできず回避されるも、狼は逃げず、こちらへ威嚇を続けていたので戦闘を続行。軽く剣を差し出し、鼻先へ近づけていくと一気に飛び込んでくる。これを避けつつ斬ろうとするも、相手は流石に狼というべきか、上手く当たらない。

 数回繰り返し諦めた俺は、飛び掛ってくる狼に対し足を差し出し、噛み付かせた所を斬る事にする。足を上手く前に置きつつ、足に噛み付いて止まったところに一撃、鎧の強度にも自信があり、それは理想的な攻撃に見えた。

 実際噛み付かせる所までは上手く行った。……鎧が軋み、牙が鎧を貫通するまでは。強烈な痛みに危うく剣を取り落とすところだったが、奴に振り下ろした輝く剣は確実に前足を再起不能にする。

 文字通り肉を斬らせて骨を絶った結果だが、走れそうに無い自分の左足の現状を考えれば微妙な所だろう。幸い相手が逃げようとしないが、戦意を失う様子が見えない。それどころか明らか折れた足を地に付けている事に恐怖すら感じる。気が狂っているとしか思えない。

 とはいえ、機動力が落ちた相手を剣で受け流しつつ回避する戦術で徐々に相手の手傷を増やす事に成功。しかし、傷だらけになり、ところどころ骨まで見え始めたにも関わらず、一向に衰える様子が見えない。狼の瞳にはこちらを食い殺そうという狂気の光しか感じられず、死ぬ様子も見せない狼に、段々と俺の恐怖と焦りは募っていく。焦りは冷静さを失わせ、恐怖は正確さを失わせる。両者を欠いた回避起動などいずれ失敗するのは自明の理。回避しそこねた奴の牙が、俺の左足の太ももに突き刺さる。狂ったように噛み砕こうと力を入れてくるそれに恐怖を感じつつも、何度も、何度も刃を振り下ろす。

 気が付けば、感覚が無くなった足と、食いついたまま動かなくなったソレが居た。


 激痛に耐えながらも機械的に俺の手は牙を引き抜き、鎧を脱がせる。3つ程の薬草をすり潰した薬草液を出し傷口に垂らせば痛みが走るが、我慢は行っていられない。序に残っていた毒消し液も垂らしておく。傷口はあまり見たくない、白いものが見えた。

 本当ならばここを移動しなければならないがそれも上手く行きそうに無い。狼の狂気に当てられ麻痺した思考では、襲撃対策の地雷紋を刻む事すら忘れていた。それほど先ほどの状況は恐ろしかったとも言えるが……。いずれにしろ、冷静になった時にはゴブリンに囲まれていた。

 動かない足で森の中に光る瞳の数々。死の危険で仕事放棄した思考が、死の危険で復職とは笑えない。弓持ちが居なかったのは幸いと言うべきか、徐々に近寄るゴブリンを相手に、左足を庇いながらも剣を構える。日はまだ昇りそうに無く、薬草液による傷の治癒は早くても3時間程度。薬液なら数分だが……焼け石に水とはいえ、買っておくべきだったか、と今更ながらに後悔する。

 じりじりと歩み寄ってくるゴブリン達に対し、剣を振り威嚇する。 やがて血の臭いか、鎧を外した足を見たのか、一気に駆け寄ってきた剣を持ったゴブリンが、足元の光源で照らされ、こちらへ寄ってくるのを剣で受ける。数回剣を合わせ、応戦を続けて一声。


「光刃よ、爆ぜろ!」


 追従してきたゴブリン達が甲高い悲鳴を上げつつ上へ吹き飛ぶ。その声に動きを止めた目の前のゴブリンを斬り捨て、腰に刺した小剣を左手に周囲に視線をやれば光る目が4つ見える。


「光刃よ、貫け! 光刃よ、駆けろ!」

 

 小剣から発せられた光が光る目と目の間を貫き、ついでもう一対の方へ右の刃を振れば、時間差で2つ何かが倒れる音がした。何のことは無い、狼と戦う前に仕込んだ枝の爆破紋と、小剣に仕込んでおいた光刃紋を起動させただけの事。 小剣を仕舞いつつ、偶然とはいえ修羅場を切り抜けた事に息を吐き……長剣を眼前に構えるとずしりと重い感覚。

 視界には錆の浮いた鉄の剣を持つ大きなゴブリンの姿。群れのリーダーが狩りに出ているとは俺の運も尽きたか。或いは教会の配給権に紋を刻んだ罰か……眼前に迫る刃に冷や汗を流しつつ考える。

 ――手元の魔法は使いきった。ハイ・ゴブリン1匹を倒すにはどうすればいいか。考えろ……手持ちは長剣、小剣、薬草液、鎧の強度は信頼できるが、足がやられた以上、踏ん張れない可能性は高い。

 左足を左へ大きく動かす。足の間にある狼の死骸を邪魔に思いつつも、力を抜き倒れるようにしつつも、素早く左へ、右足と身体を寄せる。奴の剣が右に落ちるのを目に、剣を奮うも後ろに下がって避けられる。

 ――避けて戦うには足の怪我があり不可能、長期戦も不可能。木に刃を当てさせるか?

 視界を右にずらせば先ほどまで登っていた木、そもそもその位置にはハイ・ゴブリンがおり、数歩の位置が遠い彼方だ。再び奮いくる刃を右に受け流しつつ、思考は続く。視線を下に、思考は腰に、タイミングは一瞬。ゴブリンの出足に合わせて身体を大きく引く。追撃に走るゴブリンの頭が倒れる瞬間を見計らい、片手半剣を奮うも剣で受け流される。地面へ右手で、右に払うように放った斬撃の刃を左に転がって避けられ、その活動を止めた。

 動きを止めたソレを目に、ゴブリンに蹴り飛ばされた狼の死骸を見る。流石丈夫なクロークの材料になるというべきか、目立った損耗は無い。念のため、喉に小剣が突き立ったボスの心臓に剣を刺した俺は、地雷紋を刻み、改めて狼の解体を始めたのだった……




 夜半のゴブリンの襲撃は無かった。視線は感じたがすぐに気配を感じなくなった。大方親玉が倒されたので逃げていった、というところだろう。

 怪我の治癒を待って森の外に向かう俺だが、森がヤケに静かなのが気になる。あれほど見かけたゴブリンの姿も見ない。まるでゴブリン達が一斉に遠出したように……

 思考が最悪のシナリオに辿りつき、不気味な静けさに一層嫌な物を感じつつ、流行る気持ちに合わせるよう、紋で肉体強化、風抵抗の軽減を行い全速力で町に向かって走る。風の抵抗を減らすたびに、身体を動かすたびに魔力が消費されるため、常駐したくない魔法だが……そうも言っていられない。

 一日かけて走れば、城の城壁が見え始める。同時に想定通り、最悪の出来事がそこに有る事を確認する。即ち、城の前に大群で押し寄せたゴブリンの群れ。

 見れば大きな個体も幾つか見られる事から、俺が倒したハイ・ゴブリンは斥候部隊か遊撃部隊という奴だろうか。城上から降り注ぐ矢へ、弓矢で応戦するゴブリン達を目に、立ち尽くす。正直、軍隊に対して独りは余りにも無力だ。切り込んだところで潰されるのがオチである。

 しかし、状況的に自分の行動がゴブリンを呼び寄せた可能性もあり、城にはそれなりに知り合いがいる。見て見ぬフリの出来ないが突撃は出来ない、そんな悶々とした気持ちの中でも、手は冷静に剣に、小剣に、左拳に紋を刻み始めていた。

 その気持ちも、ゴブリンの矢を受けて城外へ倒れ落ちる兵士を見た時に吹き飛ぶ。自分が突撃すれば、ある程度気は引けるだろう。被害は減るだろう。精々暴れてやろう。剣を持ち上げ、駆け出した自分を止める者などここには居はしない。


「何故ここにいる。ウルドザード」


 頭が痛いとはこの事か。何でこの馬鹿は俺の目の前にいるんだ……


「まあ落ち着け、独りで突撃したところで無駄死にだ。そういうのは俺にも混ぜろよ、俺にも紋くれ。寄越せ、くれくれ頂戴」


 そのまま寄越せと騒ぎ出したウルドザード、非常に殴りたい。


「無駄死にするってのに、混ざるってどういう神経してるんだ……刻んでやるから剣を寄越せ。」


 渡された剣を受け取って紋を刻む、そんな俺に奴は先ほどまでの騒ぎっぷりは何処へやら、落ち着いて一言。


「俺とお前の2人なら、早々死にはしないだろ?」

「馬鹿かお前、限度があるだろうが」

「俺は馬鹿だから限度なんて分からないのさ!」

 


 本当にこいつの馬鹿さ加減には呆れるとしか言いようが無い。紋を刻んだ剣を渡し、剣を再び構える。


「覚悟は出来たか? まあ、今更泣き言言っても置いてくがな。」

「お前こそ、俺様に遅れるなよ。剣術大会4位の実力、見せてやんよ」


 駆け出した俺たちの前で、ゴブリン達が光に包まれる。

 思わず目を覆い、見える頃には俺達は馬鹿みたいに口を開けて揃って突っ立っていた。

 ――何せ、あれだけいたゴブリン達が、一匹残らず消えていたんだから。



 翌朝、ウルドザードのアップを目に悲鳴を上げて起き上がれば、おお、勇者よ、倒れてしまうとはなんと情けない。とかふざけた事を言い出したので殴り飛ばしておいた。野郎のアップで喜ぶ趣味はない。ちなみに魔力切れで死んだように寝たのは確かだが、倒れた覚えはない。というかアイツはどうやって俺の家に入った。

 町を歩くと勇者召還に町は沸き立っていた。まあ悔しいが気持ちは分かる。あれは人を超えた何かだ。そんな町の騒ぎをよそに狼の毛皮を仕立て屋に持ち込めば大変喜ばれ、王国紙幣2枚の収入。……薬草の採取を忘れていたので大赤字だ。畜生め。

 城に戻れば兵士長のドヤ顔と共にほら帰りたくなってきただろう? という台詞を頂いたので、改めて止める事を表明してやったら崩れ落ちた。ざまぁ見ろって言う感じではある。城から出て帰り道、言わずともいるウルドザードに呆れる。こいつの神出鬼没っぷりはどうなってるんだ。


「これからどうするんだ?」

「どうも。狩人でもやって生計を立てる」


 そう素っ気無く答えた俺に、奴は思案顔で


「ならば俺様も行こう」


 考えたのは一瞬だけだったらしい。そういえばこいつは馬鹿だった。


「お前兵士だろ、仕事はどうするんだ?」

「さっき一緒に止めてきた。兵士長が燃え尽きてたぜ。」


 兵士長の冥福を思わず祈りながらも、俺はウルドザードに視線をやる。


「一体どういうつもりだ? 勇者の従者が憧れじゃなかったのか?」

「どういうって……」


 何で分からない? と驚いたような顔をするウルドザード。何で殴りたくなるんだろうな?


「狩人は町の経済を救う勇者だろう? 勇者といえば魔法と剣を使いこなす存在だろう? その従者で間違ってない」

「いや、その理屈はおかしい」


 頭が痛くなってきた。訳が分からない。


「そもそもあれだけ強い勇者では、俺様がただウザいだけの賑やかしになってしまうからな。それならばまだ無駄に自信家で無謀で、それなのに自己顕示欲があって目の離せない馬鹿の近くに居た方が良い」

「馬鹿で悪かったな」


 そうギロリと睨んでやれば、とてもウザい涼やかな笑みが返って来て空しい気持ちになる。

 そもそもこいつが自分をウザいと認識していた事に驚きだ。馬鹿に馬鹿にされた事は悔しいが、今回の件は自分でもそう思うだけに言い返せない。


「それに、俺様とお前のコンビなら、余裕で狩人だってやっていけるだろう? ほら俺様超有用。」

「まあ、そうだろうな。 今回は1人では無理だった。特に森では助かったな、ありがとうな」


 そう礼を言ってやれば、奴は驚いたような顔をする。バレないとでも思ってたのか……


「どう考えても城が包囲されたあのタイミングで後ろから来たらダメだろ。大方、森でゴブリンが襲ってこなかったのはお前の仕業だな?」

「クックック……ばれてたか。流石若くして魔紋術を使いこなし、魔紋無しでも剣術8位に輝く天才……恐ろしい子!」

「いや、お前剣術なら4位……しかも3位で負けた理由が1位と互角に戦って怪我したからだろうが……」

「勝負は時の運って奴さ。 それより早くハンター登録に行こうぜ! 割引特典とかあるらしいから、それで飯食おうぜ飯」


 そういって駆け出してしまう馬鹿に、人知れず浮かべていた笑みを引き締め、俺も後を付いていった。

 俺は勇者の代わりに魔王を倒す事は出来ないけれど、代わりに町や村を救う勇者になろう。

 勇者のようにゴブリンを圧倒させる活躍はできないけれど、補給経路を安定させる活躍をしよう。

 勇者だけにこの世界を任せない為に


「おい、早く来いよ!ジョシュア。さっさと飯を食って勇者より早く仕事しようぜ!」

「そうだな」


 勇者じゃなければ世界は救えないが、俺たちに出来る事はある。

 勇者なんかに世界()を任せられるかよ。

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[良い点] ・勇者に任せられないだからって、安易に主人公を最強にしたりしない所 [気になる点] ・誤変換らしい箇所を発見。 >幸い何かに引き付けられたのか、去って言ったので助かったが……。  「去って…
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