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書式

作者: 堤 伸一

 「この書類には次のとおり不備があるため受付できません。修正の上提出願います」


 何度目!提出するたびに気がつかないような細かなことを指摘してブーメランみたいに帰ってくる。そもそも最初からこうしろとわかりやすく書けないものか。

 と、ぶつぶつ言いながら指摘の箇所を直していく。中には一度修正をしたところをまた別に修正させられたときもあった。いったいどうなっている事やら。電子メールで済むような内容なのに、必ず郵送しろと言うのもおかしな話だ。


 直接話をしようと電話をかけてもいつも話し中、よっぽど電話が少ないのか人がいないのか。繋がったためしがない。さて修正箇所もなおした、今度こそ受け取ってくれるだろう。

 郵便ポストに持って行く、切手代も結構な額になってきたし、いい加減疲れた。


 「受話器、上げたままで良いんですか」

 古ぼけたオフィスビルの一室で若い係員が古株の先輩に尋ねる。

 「繋がるとややこしいことになるからな。どうせここに業務連絡なんか来るはずもないしな」

 郵便ポストに投函された封書はここに届けられていた。他にも何通も書類がある。結構な量だ。

 「さぁ、今日中に片付けないと溜まる一方だ、次々やるぞ」


 封筒を開け、書類を取り出す。チェック項目の内容によって机の上に並べた書類箱に投げ込んでいく。封筒はすべて段ボール箱に放り込み、一杯になれば本部へ送られる。昼食前にはすべての書類が書類箱に収まった。昼食後は書類に「不備のお知らせ」を箱ごとの種類に分けて郵送する作業が始まる。誰に何回「不備のお知らせ」を送ったかも帳簿に付けていく。


 「先輩、前から思ってたんですけど」と作業の手を止めずに続ける。「誰がこんな事を考えたんですかね、もっと効率の良い方法がいくらでもありそうに思うんですけどね」

 「俺も知らん。同じ質問をしたけど俺の先輩も知らんそうだ」とぶっきらぼうに答えた。が、長年働いている先輩は彼なりの答えを持っていた。


 単調な作業にも耐える精神力と組織への従順さ。一定回数以上の修正に耐えた人間が、組織の歯車にふさわしい。下手な採用試験よりも良い方法ではないだろうか。


 「郵便切手の消費を推進する事業、なんですか、これは」予算担当の社員が目を留めた。

 「大昔から残っている事業ですね、初代社長の趣味が切手の収集でしてね、入手しそびれた希少切手を少しでも手に入れたいって。歴代社長が切手好きってのもあって未だに残ってる事業ですね」

 「オークションとかの方が良いんじゃないんですかねぇ」予算担当職員があきれたようにつぶやく。


 うずたかく積み上げられた段ボール箱が処分を待っている。年に数枚ほど希少切手があるそうだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 次々と変わる場面転換。徐々に明らかになっていく裏事情。テンポ感も最高でした。 [一言] 読み終えて、文章や発想が流石だな、と思ってしまいました。 先ほどランキングを見たら、文学ジャンル…
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