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プロローグ
泥に塗れた人生だ。そう胸を張って言えるだろう。信じていたものはその手からこぼれ落ち、愛していたものは砂になって消えた。底なし沼に足を突っ込み、沈んでいく自分の体を見ているだけ。それは自分が弱いからなのだろう。自分が強かったら、私に力があれば、全てをこの手ですくい取ることが出来、たとえ愛するものが砂になっても、元に戻すことが出来たのだろう。私に力があれば、もっと、もっと…
気付けば教卓の前に立っていた。30人程の人間が、まっすぐ私の目を捉えている。まるで私の瞳の奥を覗き込み、それらを全て支配しようとしているかのような、そんな眼差しだ。逃げたい。そう思うのはやはり、私が弱い故のもの。だが、私は強くならねばならない。もう二度と、取りこぼしてはいけないのだ。だからこの道を選んだ。
「はじめまして。新任の沙良、と申します。よろしくお願いいたしますね」
その顔に笑顔を貼り付けて、バインダーを持つ右手に少しだけ力を込めながら、そう挨拶をした。




