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解体屋、異世界を更地から救う ~俺の分別スキルが魔王の遺跡をリサイクルする~  作者: もしものべりすと


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第九章 運び屋との契約

シルフィが仲間に加わってから、解体作業の効率は格段に上がった。


 粉塵問題は解消され、高所作業の安全性も向上した。シルフィの「風の目」——彼女が名付けた偵察能力——によって、建物の内部構造を事前に把握することも可能になった。


 しかし、新たな問題が浮上していた。


「運搬が追いつきません」


 リーネが、帳簿を広げながら言った。


「解体した廃材の処分先は確保できていますが、現場から処分場までの運搬手段がボトルネックになっています」


「馬車を増やせないのか」


「増やしても、御者が足りません。それに、重量物を運べる荷馬車は数が限られています。予約が取れるのは早くて二週間後です」


 拓海は渋い顔をした。


 解体工事は、「壊す」「分別する」「運ぶ」「処分する」の四段階で成り立っている。どれか一つが滞れば、全体の流れが止まる。


 今、桐生解体事務所は「運ぶ」の段階で詰まっていた。


「専門の運送業者と契約できないか」


「いくつか当たりましたが、どこも条件が合いません。解体廃材は重くて嵩張る割に、運賃を高く取れないので、敬遠されがちです」


「困ったな……」


 そのとき、ドルグが工房から顔を出した。


「おい、運送の話か。心当たりがある」


「心当たり?」


「運送ギルドのガルドだ。変わり者だが、腕は確かだ。話を聞いてみろ」


 ガルド・バロウズ。


 運送ギルドの中でも異端の存在だと、リーネは説明した。


 普通の運送業者は、軽くて価値の高い商品を好む。絹織物、香辛料、宝飾品。運びやすく、利益率が高い荷物だ。


 だが、ガルドは違った。彼は、他の業者が嫌がる「重くて面倒な荷物」を専門に引き受けていた。鉱石、木材、建築資材。そして——


「解体廃材か。面白いな」


 ガルドは、王都の倉庫街にある事務所で、拓海と向き合っていた。


 四十代半ばの恰幅のいい男だった。日焼けした顔に、人懐っこい笑み。しかし、その目は商人特有の鋭さを持っている。


「ただ、正直に言って、割に合わない仕事だ」


「理由を聞かせてくれ」


「簡単だ。解体廃材は重い。嵩張る。しかも、処分場まで運んでも、金にならない。運賃を払うのは依頼主だが、依頼主は廃材に金を払いたがらない。結果、運賃は叩かれる」


「つまり、儲からない」


「そういうことだ」


 ガルドは腕を組んだ。


「だから、断る——と言いたいところだが」


「だが?」


「お前さん、ドルグの知り合いだろう。あいつが紹介してくるってことは、何かあるんだろうな」


 拓海は、ガルドの目を見据えた。


「提案がある」


「聞こう」


「解体廃材の中には、価値のあるものが含まれている。金属くず、魔導石、希少鉱石。俺はそれを分別して、売却している。その売却益の一部を、運賃に上乗せする」


「ほう」


「さらに、リサイクル資源の独占運搬権を与える。俺が回収した資源は、全てお前の運送ネットワークで運ぶ。他の業者には流さない」


 ガルドの目が、かすかに光った。


「独占、か」


「そうだ。俺の事業が拡大すれば、運搬量も増える。今は小さい取引だが、将来的には大きくなる可能性がある」


「将来性に賭けろ、ということか」


「そうだ」


 ガルドは、しばらく黙って考え込んだ。


 やがて、ニヤリと笑った。


「気に入った」


「契約するか?」


「ああ。ただし、条件がある」


「言ってくれ」


「三ヶ月後に、実績を見せろ。それで儲けが出ていなければ、契約は打ち切る。儲けが出ていれば、長期契約に切り替える。どうだ?」


 拓海は、一瞬の躊躇もなく答えた。


「分かった」


 契約は成立した。


 ガルドの運送ネットワークは、想像以上に広大だった。


 彼の配下には、様々な「運び屋」がいた。


 普通の荷馬車を操る御者。巨大な荷車を引く牽引獣の使い手。そして——


「こいつはロック。岩トカゲの一種だ」


 ガルドは、体長五メートルほどの巨大なトカゲを指差した。


 灰色の鱗に覆われた体。四本の太い足。背中には、鞍のような装具が取り付けられている。


「岩トカゲは、険しい山道でも荷物を運べる。馬車が通れない場所でも、こいつなら行ける」


「魔獣を使役しているのか」


「魔獣というほどのもんじゃない。知能は低いが、よく懐く。エサ代がかかるのが難点だがな」


 拓海は、ロックと呼ばれた岩トカゲを見上げた。


 巨大な目が、ゆっくりとこちらを向いた。怖いというより、どこか間の抜けた表情だ。


「触ってみるか?」


「いいのか」


「ああ。鼻先を撫でてやれ。喜ぶぞ」


 拓海は恐る恐る手を伸ばし、トカゲの鼻先に触れた。


 硬い鱗。だが、その下には確かに温もりがあった。


 ロックは目を細め、ゴロゴロと喉を鳴らした。


「……懐いたな」


「動物に好かれる質か。いいことだ」


 ガルドは満足そうに頷いた。


「よし、明日から仕事だ。最初の現場は、お前が指定しろ」


「分かった」


 こうして、桐生解体事務所は、強力な物流パートナーを得た。


 ガルドの運送ネットワークによって、廃材の運搬問題は解消された。


 解体→分別→運搬→処分。


 このサイクルが、ようやくスムーズに回り始めた。


 三ヶ月後、約束通り、実績が提示された。


 売却益は予想を上回り、運賃を差し引いても十分な利益が出ていた。ガルドは笑顔で長期契約書にサインし、握手を求めてきた。


「いい仕事だ、桐生。これからも頼むぜ」


「こちらこそ」


 拓海は、その手を握り返した。

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