第二十二章 終わりと始まり
解体ギルドの設立から五年が経った。
テルミナは、大きく変わっていた。
各地で解体業者が活動し、古い建物や汚染源が次々と処理されていった。循環の崩壊は止まり、世界は少しずつ、本来の姿を取り戻しつつあった。
拓海は、第一線を退いていた。
ギルドマスターの座は、弟子の一人に譲り、自分は難問案件の顧問として活動している。
「まだまだ、やることはある」
拓海は、地図を見ながら言った。
世界には、まだ処理されていない汚染源がいくつも残っている。海底に沈んだ魔導都市。空に浮かぶ古代遺跡。凍土に眠る竜の墓場。
「一つずつ、片付けていくさ」
ある日、報せが届いた。
遠く離れた辺境の村で、奇妙な事故が起きたという。
古い廃墟が突然崩落し、その瓦礫の中から、見知らぬ格好をした人間が現れた。
怪我はないが、意識が朦朧としており、自分がどこにいるのか分からないと言っている。
拓海は、その報せを聞いて、すぐに馬車を走らせた。
辺境の村に着いたのは、三日後のことだった。
村人に案内され、拓海は問題の人物が寝かされている家に向かった。
扉を開けると、ベッドの上に一人の男が横たわっていた。
若い男だ。二十代前半といったところか。
そして——その服装は、見覚えがあった。
作業着。安全靴。汚れた手袋。
解体工の格好だ。
男が、目を開けた。
拓海を見て、困惑した表情を浮かべた。
「……ここ、どこだ?」
拓海は、静かに微笑んだ。
かつて、自分も同じ言葉を口にした。見知らぬ草原で目覚めたあの日、同じように途方に暮れていた。
「ようこそ、異世界へ」
拓海は、手を差し伸べた。
「仕事、探してるか?」
男は、しばらく拓海の手を見つめていた。
やがて、その手を握った。
「……あんた、誰だ?」
「解体屋だ。桐生拓海。お前と同じ、向こうの世界から来た」
「向こうの……世界……」
「信じられないだろう。俺も最初はそうだった。でも、そのうち分かる」
拓海は、男を助け起こした。
「取りあえず、落ち着いたら話を聞く。何があったのか、何ができるのか。それから、お前がどうしたいか、決めればいい」
「……」
「一つだけ、言っておく」
拓海は、男の目を真っ直ぐに見た。
「この世界には、仕事がある。終わらせなければならないものが、たくさんある。お前にも、できることがあるはずだ」
男は、黙って拓海を見つめていた。
やがて、小さく頷いた。
「分かった。とりあえず、話を聞かせてくれ」
「ああ。付いてこい」
拓海は、部屋を出た。
男が、後に続いた。
窓の外では、朝日が昇り始めていた。
新しい一日が、始まろうとしている。
そして——新しい物語も。
終わりは、始まりだ。
壊すことは、作ることだ。
解体屋の仕事は、永遠に終わらない。
古いものが壊され、新しいものが作られ、そしてまた、古くなっていく。
その繰り返しの中で、誰かが「終わり」を担当しなければならない。
俺は、その誰かになった。
この世界で。
この仲間たちと一緒に。
壊して、分けて、次に繋げていく。
それが、俺の仕事だ。
解体屋の仕事だ。
『解体屋、異世界を更地から救う』
——完——




