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解体屋、異世界を更地から救う ~俺の分別スキルが魔王の遺跡をリサイクルする~  作者: もしものべりすと


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第十五章 攻略開始

魔王城攻略プロジェクトが正式に始動したのは、準備期間を経た翌年の春のことだった。


 総勢五十三名。


 解体班、運搬班、警備班、医療班、補給班——それぞれが専門の役割を持ち、拓海の指揮の下で動く。かつての「桐生解体事務所」は、もはや小さな個人事業ではなく、一つの組織として機能していた。


 ベースキャンプは、魔王城から五キロ離れた丘の上に設営された。汚染の影響が比較的弱く、撤退経路も確保できる場所だ。


 テントが立ち並び、資材が積み上げられ、馬や魔獣が繋がれている。朝靄の中で、人々が忙しく行き交う。その光景は、まるで一つの村がそこに出現したかのようだった。


「全員、集合」


 拓海の声が、キャンプ全体に響き渡った。


 五十三人の男女が、拓海の前に整列する。冒険者、職人、学者、騎士——様々な背景を持つ者たちが、一つの目的のために集まっていた。


「今日から、魔王城の解体作業を開始する」


 拓海は、全員の顔を見渡しながら言った。


「最初に言っておく。これは、今まで誰も成し遂げたことのない仕事だ。危険も大きい。途中で命を落とす者が出るかもしれない」


 静寂が落ちた。


 誰もが、その言葉の重みを噛み締めていた。


「だが、俺たちはここにいる。逃げずに、この場所に立っている。それだけで、すでに勝者だと俺は思う」


 拓海は、拳を握った。


「一つずつ、確実に、終わらせていく。それが俺たちの仕事だ。誰も死なせない。全員で、この仕事を完遂する。いいな」


「おう!」


 五十三人の声が、朝の空気を震わせた。


「よし。作業開始だ」


 最初の標的は、城の最外周にある第一城壁だった。


 かつては堅牢を誇ったであろうその壁も、千年の歳月で部分的に崩壊していた。特に東側は、大きく崩れて瓦礫の山と化している。


 拓海は「構造看破」を発動し、壁の状態を詳細に分析した。


【構造看破 発動】


対象:魔王城第一城壁(東側崩壊部)


構造評価:

・材質:黒曜石混合石材。通常の石より硬度が高い

・崩壊範囲:約50m区間

・残存部:基礎は健全。上部構造は不安定


危険箇所:

・崩壊した瓦礫の下に空洞あり。踏み抜き注意

・壁の内部に魔導配線の残骸。接触注意

・魔素濃度:中程度。長時間作業には防護装備が必要


「まず、崩壊した瓦礫を片付ける。空洞があるから、足元に注意しろ」


 拓海は指示を出しながら、自ら先頭に立った。


 重機——ドルグが改良を重ねた魔導式バックホウ——が唸りを上げ、瓦礫を掴んでいく。シルフィが風を操り、舞い上がる粉塵を抑える。ガルドの運び屋たちが、回収した石材を次々と運び出していく。


 作業は順調に進んだ。


 だが、三日目に問題が発生した。


「魔物だ!」


 警備班の声が響いた。


 城壁の隙間から、黒い影が這い出てきた。


 それは、巨大な蜘蛛のような魔物だった。体長は二メートル以上。八本の足には鋭い爪が生え、口からは糸のようなものが垂れている。


「シャドウスパイダーか」


 クレアが剣を抜きながら言った。


「暗がりに潜む魔物だ。毒を持っている。噛まれたら危険だ」


 騎士たちが前に出て、魔物と対峙する。


 だが、蜘蛛は一匹ではなかった。次々と、壁の隙間から仲間が這い出してくる。十匹、二十匹、三十匹——


「巣があったか……」


 拓海は舌打ちした。


 事前調査では把握できていなかった。城壁の内部に、魔物の巣が形成されていたのだ。


「作業員は後退! 警備班、魔物の排除を!」


 クレアの指示が飛ぶ。


 騎士たちは訓練された動きで魔物に立ち向かった。剣が閃き、魔法が放たれ、次々と蜘蛛が倒されていく。


 だが、数が多い。倒しても倒しても、新しい個体が現れる。


「キリがないな」


 拓海は、蜘蛛が這い出してくる壁の隙間を見つめた。


 そこから、延々と魔物が供給されている。巣の本体は、壁の内部のどこかにあるはずだ。


「クレア、少しの間、持ちこたえられるか」


「何をする気だ」


「巣を潰す」


 拓海は、重機に向かって走った。


 バックホウに乗り込み、エンジンを始動させる。アームが唸りを上げ、巨大なバケットが持ち上がる。


「道を開けろ!」


 拓海は重機を操り、城壁に向かった。


 蜘蛛たちが襲いかかってくるが、鋼鉄の装甲には歯が立たない。拓海はバケットを振り回し、群がる魔物を払い除けながら、壁の隙間に近づいた。


 「構造看破」を発動する。壁の内部構造が、頭の中に浮かび上がる。


 巣の本体は、壁の中央部、地下二メートルの位置にあった。そこに、女王と思われる巨大な個体がいる。


「見つけた」


 拓海はバケットを壁に叩きつけた。


 黒曜石混合の石材が砕け、内部が露出する。もう一撃。さらにもう一撃。壁が崩れ、暗い空洞が姿を現した。


 その中に——それはいた。


 通常の個体の三倍はある巨大な蜘蛛。腹部には、無数の卵嚢がぶら下がっている。女王蜘蛛だ。


「悪いな」


 拓海は呟いた。


「お前の家を、壊させてもらう」


 バケットが、女王蜘蛛に向かって振り下ろされた。


 鋼鉄の爪が、魔物の体を貫く。断末魔の悲鳴が響き、女王蜘蛛は動きを止めた。


 その瞬間、城壁から這い出していた蜘蛛たちの動きが、一斉に鈍くなった。統率を失い、混乱している。


「今だ! 一気に片付けろ!」


 クレアの声が響き、騎士たちが攻勢に転じた。


 数分後、全ての蜘蛛が排除された。


「終わったか……」


 拓海は重機から降り、深く息を吐いた。


 クレアが近づいてきた。


「無茶をするな。危険だったぞ」


「すまん。でも、あのまま戦い続けても埒が明かなかった」


「……それは認める」


 クレアは、崩れた城壁と、その中に転がる女王蜘蛛の死骸を見つめた。


「巣を直接叩く、か。考えもしなかった」


「騎士は正面から戦う。それは正しい。だが、俺は違う。俺は、根っこから壊す」


「根っこから……」


 クレアは、何かを考え込むように黙り込んだ。


 やがて、小さく頷いた。


「勉強になる」


「そうか」


 拓海は、城壁の残骸を見上げた。


「さて、仕切り直しだ。巣の駆除が済んだら、予定通り解体を続ける」


「分かった」


 最初の戦いは、こうして幕を閉じた。


 だが、これはまだ序章に過ぎなかった。


 第一城壁の解体に、三週間を要した。


 当初の予定より一週間の遅れだったが、想定の範囲内だ。魔物の巣があったことを考えれば、むしろ順調と言えた。


 回収された石材は、ガルドの運送網を通じて各地に運ばれた。黒曜石混合の石材は、建築資材として高値で売れた。その収益が、プロジェクトの運営費を賄う。


 第二城壁、第三城壁と、作業は進んでいった。


 それぞれに困難があった。罠。魔物。崩落の危険。魔素汚染。一つ一つの問題を解決しながら、チームは城の中心部へと近づいていった。


 城壁の解体が完了したのは、プロジェクト開始から八ヶ月後のことだった。


「ついに、本丸か」


 拓海は、露わになった魔王城の本体を見上げた。


 五つの尖塔が、曇天の空に向かって伸びている。中央の主塔は、他の四つより一回り大きく、その頂上には何かが——王冠のような装飾が——取り付けられていた。


「あの主塔の地下に、魔王の遺体があるはずだ」


 エルドランが、古い書物を手に言った。


「だが、直接地下に行くことはできない。まず、五つの塔を全て解体する必要がある」


「なぜだ」


「塔は、魔王の力を増幅する装置だ。塔が健在な限り、地下への道は封印されている。逆に言えば、塔を壊せば封印は弱まる」


「分かった。塔から片付ける」


 拓海は、五つの塔を順番に見渡した。


「どれから始める?」


「北東の塔が最も損傷している。そこからが効率的だろう」


「よし。北東の塔から攻める」


 チームは、新たな目標に向かって動き始めた。


 北東の塔は、確かに他の塔より状態が悪かった。


 外壁には無数の亀裂が走り、最上階は半ば崩壊している。窓枠は朽ち果て、内部からは禍々しい紫色の光が漏れている。


 「構造看破」で分析すると、塔の内部構造は予想以上に複雑だった。螺旋階段、隠し部屋、罠の数々——千年前の魔王は、侵入者を排除するために様々な仕掛けを施していた。


「一階ずつ、下から解体していく」


 拓海は方針を決めた。


「上から壊すと、崩落の制御が難しい。下から支えを外していって、最後に倒す」


「逆説的だな」


 クレアが言った。


「普通は上から壊すものだと思っていた」


「状況による。この塔は、内部構造が複雑だから、上から壊すと予測不能な崩れ方をする。下から順番に外していけば、最後は制御された形で倒せる」


「なるほど」


 作業が始まった。


 一階の内装を撤去し、柱の位置を確認する。支持構造を把握し、どの順番で外せば安全かを計算する。


 拓海のスキルと、エルドランの知識と、ドルグの技術が組み合わさり、緻密な解体計画が立てられた。


 だが、計画通りに進まないのが、この城の厄介なところだった。


「罠だ!」


 二階の解体中、床板を外した瞬間、隠されていた魔法陣が発動した。


 紫色の光が溢れ、その場にいた作業員三人が吹き飛ばされた。


「医療班!」


 リーネの声が響き、治療師たちが駆けつける。


 幸い、三人とも命に別状はなかった。だが、一人は足を骨折し、二人は魔素中毒の症状を示していた。


「くそ……」


 拓海は、発動した魔法陣を睨みつけた。


 事前調査では発見できなかった罠。床板の裏に隠されていたため、「構造看破」でも把握が難しかった。


「全員、作業を中断。安全確認を徹底する」


 拓海は指示を出した。


「今後は、床板を外す前に必ず魔法探知を行う。エルドラン、頼めるか」


「ああ、任せてくれ」


 エルドランは杖を構え、探知魔法を発動した。


 淡い光が床を走り、隠された魔法陣の位置を浮かび上がらせる。


「ここと、ここと……ここにも罠がある」


「多いな」


「魔王は用心深かったようだ。侵入者を徹底的に排除する気だったのだろう」


 拓海は、浮かび上がった罠の位置を記録した。


「一つずつ解除していく。時間はかかるが、安全を優先する」


 こうして、作業は慎重に進められていった。


 罠を発見し、解除し、内装を撤去し、構造を把握し、少しずつ解体していく。


 北東の塔だけで、二ヶ月を要した。


 残り四つの塔も、同様のペースで進めれば、合計で八ヶ月以上かかる計算だ。


 だが、拓海は焦らなかった。


「急いで失敗するくらいなら、時間をかけて成功させる」


 それが、解体工としての拓海の信条だった。

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