第十四章 調査と計画
魔王城の解体に向けた準備が、本格的に始まった。
まず、情報収集だった。
千年前の伝説。勇者アルベルトの冒険譚。魔王ヴォルガスの正体。城の構造。討伐後に何が起きたのか。
拓海は、あらゆる資料を集めた。王立図書館、教会の古文書、各地の言い伝え。断片的な情報を繋ぎ合わせ、全体像を把握しようとした。
「興味深い……」
古代遺跡の研究者、導師エルドランは、拓海が持ち込んだ資料を眺めながら呟いた。
彼は、王都の学院に所属するエルフの学者だった。数百歳とも、千歳以上とも言われる長寿の種族で、魔王討伐当時のことを直接知る数少ない生き証人でもあった。
「君は、本当に魔王城を解体するつもりなのかね」
「そのつもりです」
「無謀だ。あの城は、通常の手段では壊せない。魔王自身が築いた城であり、その力が今も城を守っている」
「だから、話を聞きに来ました。城の構造、結界の仕組み、弱点——何でもいい。教えてください」
エルドランは、長い沈黙の後、ゆっくりと語り始めた。
「魔王城は、単なる石の城ではない。魔王の力——膨大な魔素——が、城全体に染み込んでいる。だから千年経っても朽ちないし、普通の方法では壊れない」
「では、どうすれば」
「城の力の源を断つしかない。それは——」
エルドランは、言葉を切った。
「——魔王自身だ」
「魔王の遺体が、城を維持している?」
「そうだ。魔王は『倒された』が、『死んでいない』可能性がある」
拓海は、眉をひそめた。
「どういう意味です」
「勇者アルベルトは、確かに魔王を打倒した。だが……殺せたかどうかは、誰も確認していない。勇者は討伐後すぐに姿を消し、真実を語らなかった」
「つまり——」
「魔王は、『封印された』だけかもしれない。肉体は残り、力は抑えられているが、完全に消滅したわけではない。だから、城も残り続けている」
拓海は、その情報を頭の中で整理した。
魔王は死んでいない。封印されているだけ。城を壊すには、その封印を解き、魔王を——
「完全に『終わらせる』必要がある、ということですか」
「そうだ」
エルドランは、拓海をじっと見つめた。
「君に、それができるかね」
「分かりません」
拓海は、正直に答えた。
「でも、やってみます。できる限りの準備をして、最善を尽くす。それが、俺にできることです」
エルドランは、しばらく黙っていた。
やがて、小さく笑った。
「面白い男だ、君は」
「よく言われます」
「協力しよう。私の知識が、役に立つかもしれない」
「ありがとうございます」
こうして、古代遺跡の専門家が、プロジェクトに加わった。
調査と計画に、半年を費やした。
その間、拓海は何度も魔王城の周辺を訪れ、可能な限りの情報を集めた。汚染の分布、城壁の状態、罠の位置、魔物の出現パターン——全てを記録し、分析した。
そして、詳細な工程表を作成した。
「予想工期は二年」
拓海は、完成した計画書を仲間たちに見せた。
「二年……長いですね」
リーネが呟いた。
「短くはできる。だが、急げば失敗する。この城は、今まで手がけてきた現場とは桁が違う。慎重に、一歩ずつ進むしかない」
「具体的には?」
「まず、外側から攻める」
拓海は、城の図面を指差した。
「城壁を一つずつ解体し、魔素の汚染を薄めていく。同時に、罠を解除し、魔物を排除する。これに一年」
「そして?」
「次に、城本体に取りかかる。五つの尖塔を、一つずつ解体する。塔が減れば、城の力も弱まる。最後に、地下——魔王の遺体がある場所に到達する」
「魔王の遺体を、どうするんですか」
その質問をしたのは、クレアだった。
浄化部隊は、この作戦にも参加することが決まっていた。彼女は、自ら志願したという。
「解体する」
拓海は、淡々と答えた。
「魔王の肉体を、構成要素に分解する。骨、肉、魔素——全てを分別して、適切に処理する」
「それは……可能なのか」
「分からない。でも、やるしかない」
クレアは、拓海を見つめた。
その目には、かつての軽蔑はなかった。代わりに、ある種の敬意と、そして——覚悟があった。
「分かった。私も、最後まで付き合う」
「ありがとう」
拓海は、全員を見回した。
リーネ、ドルグ、シルフィ、ガルド、クレア、エルドラン——そして、これから集まる多くの協力者たち。
「これは、今までで最大の仕事だ。危険も大きい。途中で降りたくなったら、遠慮なく言ってくれ。誰も責めない」
誰も、何も言わなかった。
全員が、静かに頷いていた。
「よし」
拓海は、深く息を吸った。
「魔王城攻略プロジェクト、開始する」




