第十二章 合同作戦
浄化部隊との合同作戦が、正式に開始された。
役割分担は明確だった。
拓海たちは「解体」「分別」「処理」を担当する。汚染物質を安全に取り除き、再利用可能な資源を回収する。
クレアたち浄化部隊は「警備」「魔物排除」を担当する。解体作業中に出現する魔物を排除し、作業員の安全を確保する。
最初の数日は、ぎこちなかった。
騎士たちは、拓海の指示に従うことに抵抗があった。「なぜ民間人の言うことを聞かなければならない」という不満が、表情に出ていた。
だが、作業が進むにつれて、空気は変わっていった。
「この資材、運ぶのか?」
若い騎士が、分別された金属の山を見て尋ねた。
「ああ。これは再利用できる」
「錆びてボロボロじゃないか」
「表面だけだ。溶かし直せば、また使える」
騎士は、半信半疑の顔で金属を見つめた。
数日後、同じ騎士が拓海に話しかけてきた。
「あの金属、本当に売れたらしいな」
「ああ」
「ガルドの運び屋から聞いた。結構な値段がついたと」
「資源は資源だ。見た目がボロボロでも、価値がなくなるわけじゃない」
騎士は、何か考え込むような表情をした。
やがて、こう言った。
「俺たちは、『倒す』ことしか教わらなかった」
「ん?」
「魔物が出たら、倒す。汚染があったら、焼く。それ以外の方法を、考えたことがなかった」
「……」
「でも、あんたは違う。倒すんじゃなくて、片付ける。焼くんじゃなくて、分ける。そういう考え方があるんだな」
拓海は、若い騎士を見た。
「騎士には騎士の仕事がある。俺には俺の仕事がある。どっちが偉いとか、そういう話じゃない」
「……そうか」
「ただ、やり方は一つじゃない。それは覚えておいていい」
若い騎士は、小さく頷いた。
そして——クレアの態度も、徐々に変化していった。
「桐生」
ある日の夕方、クレアが拓海に声をかけた。
「何だ」
「一つ、聞いてもいいか」
「聞くだけならタダだ」
クレアは、汚染地域の中心部——まだ手つかずの、最も危険な区域——を見つめながら言った。
「なぜ、この仕事を選んだ」
「選んだ、というか……」
拓海は、言葉を探した。
「……成り行き、かな」
「成り行き?」
「俺のいた世界で、解体工になったのは、他に選択肢がなかったからだ。学歴もない、資格もない。でも、体は丈夫だった。だから、力仕事を探して、解体屋に入った」
「それで?」
「最初は、ただ言われた通りに動いていた。でも、続けているうちに、分かってきた。この仕事には、意味があるって」
拓海は、空を見上げた。
夕焼けが、汚染された大地を赤く染めている。
「古いものを壊すことで、新しいものが生まれる場所を作る。それは、破壊じゃない。再生の準備だ。そう思えるようになってから、この仕事が好きになった」
「……」
「お前は、なぜ騎士になった」
クレアは、少し驚いた顔をした。
聞かれると思わなかったのかもしれない。
「……家が騎士の家系だった。私に選択肢はなかった」
「後悔しているか?」
「いや。誇りを持っている。騎士として、民を守ることに」
「なら、いいじゃないか」
拓海は、立ち上がった。
「やり方は違っても、目指すところは同じだ。この土地を、安全にすること。そのために、俺は壊す。お前は守る。それでいい」
クレアは、拓海の背中を見つめた。
やがて、小さく呟いた。
「倒した後のことなど、考えたこともなかった」
「え?」
「今まで、私は『倒す』ことしか考えてこなかった。魔物を倒す。敵を倒す。それが騎士の仕事だと思っていた」
クレアは、自分の手を見つめた。
「でも、倒した後にも、仕事は続くんだな。片付ける者がいなければ、倒しても意味がない」
「……そうだな」
「桐生。私は、お前を見誤っていた」
クレアは、真っ直ぐに拓海を見た。
「謝罪する。先日の無礼は、忘れてくれ」
「気にしてない」
「だが、私は気にする。騎士として、非礼は正さねばならない」
クレアは、片膝をついた。
騎士が、最大限の敬意を示す姿勢だった。
「これからは、お前の指示に従う。この作戦が成功するまで、私と部下たちは、お前の剣となる」
拓海は、少し困惑した顔をした。
だが、やがて、小さく笑った。
「大げさだな」
「騎士は、大げさなものだ」
「そうか」
拓海は、クレアに手を差し出した。
「なら、よろしく頼む」
クレアは立ち上がり、その手を握った。
こうして、解体屋と騎士団の、本当の意味での「合同作戦」が始まった。




