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最終話 静寂のあとに
石畳の迷路のような路地を、娘は必死に走った。息は切れ、足は震え、胸には父と夫の冷たい身体の重みが残る。
背後からは、確実に迫る足音。銃声がまだ遠くで響き、影のような追跡者たちは決して迷わず彼女を追ってくる。
振り返ると、町は異様に静まり返っていた。住人の姿は窓の奥にちらりと見えるだけで、誰も助けには出てこない。
迷路のような路地は出口を示さず、走っても走っても、同じ風景が延々と続く。
涙がこぼれ、視界が揺れる。父も夫ももういない。守ってくれる者は誰もいない。
それでも、必死で走るしかなかった。
ふと目の前の路地角から、黒い影が現れた。追跡者だ。
銃口はまだこちらを向いている。娘は足を止めた。逃げ場はない。
心の奥底で、最初から逃げられなかったことを理解していた。
追跡者は何も言わず、ゆっくりと近づいてくる。
娘はただ、父と夫の亡骸が置かれた場所を思い浮かべ、目を閉じた。
次に目を開けたとき、町は再び静寂に包まれていた。
銃声も、足音も、追跡者の姿も消えている。
残されたのは、石畳の冷たさと、父と夫の不在を胸に刻んだ絶望だけだった。
町の空気は変わらず澄んでいる。だが、娘の心にはもう光は届かない。
父も夫も、そして希望も、すべて遠くに消えた――。




