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影を運ぶ者  作者: とろろ
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第四話 裂け目

町は静かだった。舗道に並ぶ建物は古びていて、昼間の光の下でもどこか陰鬱な雰囲気を漂わせている。窓ガラスには埃が積もり、灯りのついた家はほとんどない。


 娘は、冷たくなった父の身体を抱えたまま、石畳に座り込んでいた。胸元から滲む血は、腕にじわりと広がり、動かぬ父の存在を否応なく突きつける。


 その視線の先には、夫と思われる男が倒れていた。サングラスの男に首を折られたまま、異様に静かな姿で。父の死と同じく、男ももはや息をしていない。


 呼びかけても答えはない。小さく揺さぶっても、二人とももう戻らない。理解していても、離すことができなかった。放せば、完全に一人になってしまうからだ。


 やがて遠くから足音がした。複数の影がゆっくりと近づいてくる。銃を携えた者たちの姿はまだぼんやりとしか見えないが、迷いなくこちらへ向かってくるのは確かだった。


 娘は慌てて立ち上がった。父と男を抱えたままでは逃げられない。地面に二人の体を横たえ、泣きそうな声で呟く。


「……ごめんなさい……」


 その瞬間、背後の路地からも別の足音が混ざり、町全体が追いつめられるような異様な圧迫感に包まれる。通りを見渡しても、住民らしき人々は窓の奥からこちらを見ているだけで、助ける気配はない。


 娘は一度振り返り、父と夫の亡骸を最後に目に焼き付けると、薄暗い町の奥へと走り出した。石畳は長く続き、路地が絡まり、逃げても逃げても同じ風景が現れる。

 絶望と孤独が胸を締めつける。父も夫も失い、誰も信じられない町の迷路。


 背後からは、追跡者たちの足音が確実に迫っていた。


 娘は小さく息を吸い込み、逃げるしかないと自分に言い聞かせた。

 父と夫が守れなかった安全も、もうどこにもない。

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