#06 放課後の追跡劇
授業が終わると、教室にいた生徒たちは蜘蛛の子を散らすように去っていった。
アリシアの机の上には、またひとつ、花が置かれていた。
「どなたかしら? こんなに可愛らしい……でも、お礼は次の機会にいたしますわね♡」
アリシアは微笑みながら、花を手に取った。
リリィはその様子を、教室の後ろから見つめていた。
(ほんとに……どこまで天然なんだろ、この子は)
そんな思考の裏で、リリィの心には別の疑問が芽生えていた。
先日、アリシアが校舎裏で見せた“戦い”――あれは、ただの偶然ではない。
あのナイフ。あの笑顔。そして、“声”を聞いたという生徒の証言。
リリィは放課後、アリシアのあとをつけることにした。
陽の落ちかけた廊下を、アリシアの髪がふわりと揺れる。
誰にも気づかれていないと思いながら尾行していたリリィだったが――
「リリィさん、尾行でしたらもう少し靴音をお抑えになった方がよくってよ?」
振り返ったアリシアが、すでにそこにいた。
「っ……! な、なんで……!」
「ふふ、背中がくすぐったかったんですのよ。貴女の視線って、優しいから」
あっけらかんと微笑むアリシアに、リリィは絶句する。
この子は、本当に何も気づいていないのか。
それとも、すべて分かった上で――“演じて”いるのか。
「……そのナイフ、どこで手に入れたの?」
リリィの問いに、アリシアの瞳がわずかに赤く染まった。
「この子と出会ったのは、運命ですの。ねえ、ダガーちゃん」
そう言って、アリシアはナイフをそっと撫でる。
まるで、恋人に触れるかのように。
「わたくし……この子に出会ってから、“世界”がとっても楽しくなったんですのよ?」
微笑みながらそう語るその声に、リリィは、どこか冷たい恐怖を感じた。
同時に――ふと、思ってしまった。
(……でも、この子なら、もしかして、本当に世界を救えるのかもしれない)
だって――こんなに無垢に、恐ろしい。
それは、誰にもできない“こと”をやってのける、救世の姿にも見えた。