#27 捕らわれの華、灰に還る前夜
──アリシア=フィオレット=グランヴェールは、学園地下の聖堂跡に拘束されていた。
紅の茨によって傷ついた身体に、魔術抑制の鎖が巻かれている。
かつて誰よりも美しく、誰よりも無垢に笑っていたその少女は──
いま、国家反逆の罪人として、王家の裁きを待っていた。
「……リリィさんは、ご無事でしょうか」
その呟きに返る声はない。
◆ ◆ ◆
王女セレナは、紅のダガー《ルージュの杯》を手に、静かに立っていた。
「まさか、あなたがここまでの存在になっていたとは。
魔法学園は、あなたという“毒”を育てすぎた」
彼女の瞳は冷たく、だがその奥には──何か強く惹かれるものがあった。
「王女様、わたくしの処遇はもうお決まりですか?」
「明日、公開処刑を行う。
あなたの存在が、国にどれだけの害を及ぼしたかを、皆に示す必要があるのです」
「……あら。あの子たちにも見せるのかしら?
わたくしが、どれほど“美しく”壊れるかを──」
「黙りなさい」
セレナの声に一瞬、緊張が走った。
だがアリシアは、口元をほんのわずかに綻ばせる。
「ええ、楽しみにしておりますわ。
王女様のその手で“壊される”のなら……きっと、素敵ですもの」
◆ ◆ ◆
夜。
セレナはひとり、ダガーを見つめていた。
その赤い宝石は、まるでこちらに語りかけるように妖しく輝いている。
「欲しいものは?」
──頭の中に、女の声が響く。
「……黙りなさい」
「あなたは何を壊したいの? 王家の命令? 国の未来? それとも──自分自身?」
セレナはその声に抗うように、ダガーを封呪の箱へ戻した。
「“壊す”ことが全てではない。私は……この国を救う」
そう言い聞かせるように呟く声には、微かに揺らぎがあった。
◆ ◆ ◆
翌朝──処刑式が行われる城の広場に、王宮関係者が集められていた。
神官が罪状を読み上げる中、アリシアはまるで聞いていない様子で空を見上げている。
(リリィさん……最後に、笑ってくれたら、嬉しいのに)
彼女の口元には、微笑みが浮かんでいた。
そして、ダガーは──未だ、誰の手にも馴染まないまま、静かにその刻を待っていた。




