#25 散る月、迫る刃
──静寂が、音を飲み込んだ。
深夜の学園。その中心部にある大講堂では、授業も儀式も行われていないはずの時間帯に、微かに灯りが揺れていた。
「配置に就きなさい。標的は、アリシア=フィオレット=グランヴェール」
第3王女・セレナの命を受けた近衛部隊が、無音のまま校舎に散開する。
白銀の鎧、抑制魔法を組み込んだ外套、魔力感知を遮断する紋章。
どれも、王宮直属の任務にだけ使用される“本物”だった。
◆ ◆ ◆
リリィの部屋。
「……アリシア様……」
彼女は眠れぬ夜を過ごしていた。
けれど、今日は特別にひどかった。
胸に残るのは、ナナのあの真剣な表情。
そして、アリシアのあの優しすぎる笑顔。
(どちらかが嘘をついてる──でも、どちらも私を想って……)
涙が頬を伝う。その時──
「リリィさん、起きていらっしゃるの?」
声とともに、ドアの隙間から灯りが差す。
アリシア。笑顔のまま、部屋に入り込んでくる。
「……夜風が冷たいですから、一緒に温まりませんこと?」
彼女の手が伸びる。
◆ ◆ ◆
その瞬間──
学園の天井を突き破るように、拘束呪具《カルマの鎖》が解き放たれる!
アリシアの背後に、王女セレナと魔術部隊が突入。
「アリシア=フィオレット=グランヴェール。あなたを王命により拘束します」
静かに告げるその声に、アリシアは振り返る。
その瞳は、既に紅い光を宿していた。
「リリィさん、ごめんなさい。少しだけ……先に参りますわ♡」
──瞬間、爆ぜる紅い閃光。
魔法障壁を破り、ダガー《ルージュの杯》が自ら宙を舞う。
近衛隊の数人が、一瞬で床に伏す。
◆ ◆ ◆
「撤退ラインを確保しろ!生徒を巻き込むな!」
セレナの指揮が飛ぶなか、アリシアは笑う。
「王女様。ごきげんよう──この夜会にようこそ」
まるで舞踏会の主役のような、優雅な所作。
彼女は床を蹴り、廊下へ逃れる。その後を追う部隊。
──“月”は散った。
だがその赤は、今なお滾っていた。




