#24 迫る影、揺れる紅
──学園に、“外”の空気が流れ始めていた。
城都からの使者が、密かに学園へと到着したのだ。
その先頭に立つのは、王家の第3王女──セレナ。
銀の馬車から降り立つその姿は、まるで聖女のような気品を放っていた。
「王女様が……来られた……?」
学園関係者の間に緊張が走る。
しかしその知らせは、まだ生徒たちには知らされていない。
◆ ◆ ◆
リリィはアリシアと中庭の東屋で紅茶を楽しんでいた。
いつもと変わらぬ笑顔。いつもと変わらぬ優しい声。
けれど、その“変わらなさ”こそが、リリィの胸に影を落とす。
「アリシア様、最近……夢を見たんです。誰かが泣いていて……血が流れて……」
「まあ、それはきっと、疲れている証拠ですわ♡」
アリシアの指がリリィの髪を梳く。
その仕草は優しく、そして──どこか“儀式めいて”いた。
◆ ◆ ◆
ナナは、ひとり資料室で最後の確認をしていた。
「やるなら、今しかない」
ライルの残した×印の意味。紅の聖堂での儀式の記録。
そして、アリシア=フィオレット=グランヴェールが密かに通う“禁域”。
ナナは王女の部隊と合流する直前、最後の賭けに出た。
「リリィを……あいつから離さなきゃ」
彼女の手には、登録済みの短剣。
これは“魔術具”という名目で学園に持ち込まれた、本物の武器だった。
◆ ◆ ◆
同じ頃。
学園の地下にある旧礼拝堂──“紅の聖堂”では、アリシアがひとり膝をついていた。
「あと少し……あと少しで、すべてが整いますの」
《ルージュの杯》が静かに光る。
その赤は、以前よりも深く、まるで“喰らい終えた血”のようだった。
アリシアは、紅に染まったステンドグラスに映る自分の姿に微笑みかける。
「リリィさん……もうすぐ、永遠に結ばれますの」
◆ ◆ ◆
夜。
リリィはナナに呼び出され、校舎裏の階段でふたりきりになった。
「リリィ、あんた……アリシアのこと、どう思ってるの?」
「……私は……アリシア様を、信じたい……でも……怖いの」
リリィの頬を、涙が伝う。
ナナは震える拳を握りしめながら、それでも優しく言った。
「だったら、少しだけ……あの人から離れてみて。お願い」
その言葉は、友情であり、警告であり、別れの予告だった。
──そして、月が再び赤く染まる。
静かに、決戦の幕が上がろうとしていた。




