#20 孤独な追跡者
ナナは夢を見ていた。
倉庫の奥、焼け焦げた床に立ち尽くす自分。血の匂い。赤く揺れる刃。
……そして、ライルの声が呼ぶ。「ナナ……」──振り返っても、誰もいない。
目を覚ましたナナは、すぐに身支度を整えると、まだ明けきらぬ早朝の学園を歩き出した。
(昨夜も、ライルは戻ってこなかった)
机には相変わらず手帳とメモ。けれどページの隅に、奇妙な印が新たに加えられていた。
──“×”。
ライルが残した印。彼は、何かに気づいていたのだ。
◆ ◆ ◆
ナナは資料室に潜り込み、再び古い記録を漁る。
「“紅の杯に魅入られし者、再び現れん”……やっぱり……ダガーだ」
ナナはページをめくりながら、震える指を止められなかった。
この事件は、魔法学園の“闇”に深く根を下ろしている。
彼女は、リリィの姿を思い出す。
──その傍らには、常にあのアリシアがいる。
ふと、ナナの視界の端に“誰か”の影が映った気がした。
振り返ると、そこには誰もいない。
けれど、空気が──ひどく冷たくなっていた。
◆ ◆ ◆
その日、アリシアは何事もなかったようにリリィと笑い合っていた。
「リリィさん、あのお店の紅茶がとても美味しいそうですの。今度一緒に……♡」
その姿に、ナナは確信した。
──彼女が“壊している”。
誰にも見えぬまま、ひとりずつ、確実に。
ライルも。きっと、もう戻ってこない。
「アリシア……あんた、絶対に……」
ナナの瞳には、初めて“狩人”としての鋭さが宿っていた。




