#17 侵入者の影
魔法学園の門をくぐった二人の転校生──ライルとナナ。
彼らは外の世界では名の知れた賞金稼ぎだったが、今は制服に身を包み、他の生徒と同じように授業を受ける「生徒」として潜入していた。
目的は、行方不明になった貴族の娘を探し出し、可能であれば“脅威”を排除すること。
だが、思っていた以上に魔法学園の内部は閉鎖的で、誰に話を聞いても言葉を濁すばかりだった。
「……変だな。ここまで来たら何か一つくらい情報が手に入ると思ったけど」
ライルが廊下の窓から外を見ながら呟く。
「みんな目を逸らすの。まるで……その名前を出したら呪われるみたいに」
ナナの声には警戒心が滲んでいた。
彼らは寮の自室に戻ると、密かに調査記録をまとめる。
だが、その夜、ライルはふとした違和感に気づく。
寮の裏庭に近い倉庫棟。施錠されているはずのドアがわずかに開いていたのだ。
忍び足で足を踏み入れたライルの目に映ったのは──
赤黒く焼け焦げた魔力の残滓。そして、床に落ちていた金属片。魔具の一部と思われるそれは、微かに震えていた。
「これは……」
その瞬間、空気が変わった。
倉庫の中に“何か”がいる。
殺気。いや、それ以上に濃密で──甘やかな血の香りすら感じさせる、異質な何か。
「ライル、無事?」
背後からナナの声。だが、振り返ったときには──
ライルの姿は、もうなかった。
───
翌日。
アリシアは、いつも通りローズピンクの瞳でリリィに微笑みかける。
「リリィさん、今日の紅茶は少しだけ、甘くしてみましたの。ふふっ、いかがかしら?」
一方で、ナナはどこか浮かない顔で周囲を見回していた。
彼女の目には、どこまでも無邪気に笑うアリシアの姿が──“敵”と重なっていた。