#16「紅に囁く約束」
昼休み、学園の花壇のそば。
アリシアとリリィは並んで座っていた。
アリシアは何気ない笑顔で、リリィのスカートについた花の種をそっと摘み取りながら囁く。
「……リリィさんは、わたくしのこと、信じてくださってます?」
リリィはその問いかけに一瞬戸惑ったが、うなずいた。
「はい……もちろん、信じてます。アリシア様は、私にとって――」
「うふふ……ありがとう」
アリシアは嬉しそうに微笑みながら、そっとリリィの指に触れた。
指先が重なるだけで、胸が甘く疼く。アリシアは確かに感じていた。
リリィが、自分に近づいている。少しずつ、確実に。
夜。アリシアの部屋では《ルージュの杯》がテーブルの上で赤く輝いていた。
アリシアはダガーに紅茶を注ぐような仕草をしながら微笑んだ。
「ねぇ、もう少しだけ……リリィさんに触れてもいいかしら?」
「ふふっ、触れるだけで我慢できるならいいけどねぇ?」
「……あら、ご不満? でも、リリィさんを壊すのはまだ早いですもの」
ダガーはくすくすと笑った。
その時、窓の外からふとした気配がした。アリシアは目を細め、すぐに察知した。
──監視、ね。ふぅん……動き始めたのね。あの人たち。
翌日。転入してきた冒険者ペアの“少年”がアリシアに話しかけてきた。
彼は笑顔で、だがどこか探るような目をしていた。
「アリシアさんですよね? ちょっと質問してもいいかな? 最近、この辺で変わったことって――」
「……あら、わたくし、あなたとお話しした覚えがありまして?」
アリシアの声はいつも通り穏やかだったが、目が一瞬、紅に揺れた。
“少年”は冷や汗を浮かべる。
(ヤバい。こいつ、確実にヤバい……!)
廊下の陰からその様子を見ていた“少女”は、わずかに首を振った。
「……あの貴族、マジでとんでもない依頼持ってきたな」
冒険者ペアはまだ知らない。彼らが踏み込んだのは、血に飢えた紅の檻だったことを――。