#15「赤に染まるその指先」
昼下がりの中庭。白いベンチに並んで座るアリシアとリリィ。
アリシアは柔らかく微笑みながら、リリィの手の甲にそっと自分の手を重ねた。
「……リリィさんの手って、本当に細くて綺麗ですのね」
「え、あ……ありがとうございます……」
リリィは不意のスキンシップに少し驚きながらも、頬を赤らめた。
アリシアの瞳はローズピンクのまま、微笑んでいる。
けれどその指先が、触れたリリィの手をなぞるように動く感触に、リリィの心臓は早鐘のように打った。
──この感覚は、何?
「……わたくし、リリィさんとこうして静かに過ごす時間、とても好きですの」
アリシアの声は、春風のように優しい。だがその裏に、何かがある気がしてならない。
その夜。学園の裏手にある旧実験棟。誰も寄り付かないそこに、アリシアは静かに足を踏み入れた。
カツ……カツ……と硬い音を響かせながら、彼女は奥へ進む。そこには、先日リリィに無礼な発言をした女生徒の姿があった。
「……来てくださって、ありがとう。でも、わたくし……ちょっとだけ、お願いがあるんですの」
女生徒が何かを言おうとした時、アリシアはもう手に《ルージュの杯》を持っていた。
その瞳は、さっきリリィといた時とはまるで違う、紅に輝く狂気の色。
「リリィさんに意地悪した罰……ちゃんと受けてくださらないと♡」
刃が踊る。赤が咲く。
その瞬間のアリシアは、恐怖で震える相手を前に、嬉しそうに、心から嬉しそうに震えていた。
──この悦び、もっと欲しい。もっと深く、もっと紅く。
夜が明ける頃、アリシアは何事もなかったような顔で、リリィの隣に腰を下ろした。
ほんのりと香る花の香り、そして血の匂いを押し隠すように、アリシアはリリィの髪にそっと手を添えた。
「リリィさん、今日のリボン……とっても似合ってますわ♡」
ローズピンクの瞳が、やさしく揺れていた。