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#14「転校生は、死地に潜る」

魔法学園の門は、ふだんは開かない。

通学も外出も、敷地内から繋がる転移魔法陣を使うのが常。だから、門を通ってくる生徒など誰もいない——はずだった。


その朝、珍しく門番の衛兵がざわついた。

黒髪の少年と、栗毛の少女が連れ立ってやって来たからだ。二人は見慣れない制服に袖を通し、明らかに“転校生”のそれだった。


「……名簿に名前はある。……だが、おかしいな。聞いてないぞ?」


衛兵が警戒の色を濃くする。だが、彼らが差し出した書類には、署名と封印があった。

しかも貴族の印章、それもただの貴族ではない。“内務卿”の名まである。


「通していい。だが、見張っておけ」


そう命じられた下級兵が後を追う。だがその兵は、二人が校舎に入るや否や、「視界から消えた」。


その話を聞いたアリシアは、ローズピンクの瞳を伏せて、紅茶を一口。


「ふふ……やっと、ちょっと面白くなってきましたわね」



少年の名はライル。少女の名はナナ。

彼らは名うての賞金稼ぎだった。だがそれは表の顔。本来は依頼人のために、どんな任務でも遂行する“なんでも屋”だった。


今回の依頼は、魔法学園における“連続失踪事件”の真相究明と、場合によっては“ターゲット”の排除。

依頼主は、失踪者の親である貴族。自らの私兵を何人も投入したが、全員が“帰ってこなかった”。


冒険者ギルドも当初は動いた。

だが学園敷地内は国家機密の塊。権限不足、証拠不足、妨害……結局、捜査は打ち切りとなった。


「もう冒険者には頼らん。……賞金稼ぎの方が早い」

そう判断した貴族は、倉庫街の一角に二人を呼び出し、破格の報酬と共に制服を渡した。


「この制服と登録証があれば、内部への潜入は可能だ。武器も“研究材料”として持ち込める」

「……潜入して、情報を集めるだけでいいんですね?」

「必要なら“排除”してくれても構わん」


ナナはうつむいた。ライルは一瞬だけナナと視線を交わすと、静かに頷いた。

二人には夢があった。人知れず稼いで、人目を気にせず静かに暮らす。郊外に小さな家を買い、菜園でも作って、たまに遠出して。


だが今、二人は制服姿で“死地”に足を踏み入れていた。



昼休み。学園の中庭にて。

リリィはいつものように日向のベンチでランチを広げていた。ふと視線を上げると、見慣れない二人が目に入る。


——あの制服、今日から……?


彼女の表情に気づいたナナが軽く会釈する。

リリィも慌てて笑顔を返すが、その目にはほんの一瞬だけ、翳りが差していた。


(……また、誰かが、来た)


それは直感だった。だが確かだった。


アリシアは、そんなリリィを遠巻きに見つめながら、ローズピンクの瞳に静かに光を宿す。


「ねぇ、《ルージュの杯》……この子たち、どこまで持つと思う?」


ダガーは、くすくすと笑ったような気がした。

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